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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第五章 帝立アリアルト魔法高等教育学校 2
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 ふと思考に上ったのは前世での私の病状。

 私には直接告げられることも無かったけれど、漏れ聞いた限りの前世での私の状態は、理由も原因も不明だが、ただただ身体が内側から崩壊していったのだという。



 ――――そして、現世()もそうなのだとか。

 やはり私の症状は前世通りで、不思議ではあるがそれが私なのだから仕方がない。



 ただ、ディート先生の話を聴いた今だから思うのは、もしかして前世の私は穢れや厄、負の念が溜まってそういう症状が出ていたのではないだろうか……?

 こちらでも知らずに穢れや厄や負の念を、無意識に前世以上の人数分を引き受けて貯めに貯めてしまった結果、前世の年齢よりも早くあの症状が出たのではないだろうかと思い至ってしまったのだ。



 出来得る限り生きていたいし引き伸ばしたい、とは思うけれど、理由の大部分を占めているのは、お父様や攻略対象にされてしまっている皆に被害が行かない様にしたい、だったりする。

 私が防波堤になれれば良いと思うし、どうにか上手く円く収まってくれさえすれば後は野となれ山となれな心持なのです。



 少しでもどうにかしたくて、精進料理を毎食食べられるようにしようかと思っていたところなのだ。

 いたのだけれど……

 不思議なのは私が何も言わない内に、私の食事は全て精進料理に変わっていた事だろうか……

 しかも五葷抜きなのだ。

 五葷にしてみても、前世でも入るものや入らないものがそれぞれの宗派と言えばいいのか流派……? そこら辺は疎いので申し訳ないのだけれど、色々違ったりしたはずで、どうやらこちらでも症状ごとに様々違うらしいが、私の食事には全て入らないようになっているらしい。



 どうやら少しでも穢れを減らし浄化を、というのが基本方針らしかった。



 ディート先生が学校側に話を通してくれたのかもしれないと思ったのでお礼を言いたいのだけれど、現在ディート先生は……――――姿を見かける事も無い状態なのだ。



 それが酷くもどかしいどころではないのだけれど、どうにか思考を逸らして軽く軽く考えようと思うことで、目覚められるのは嬉しいのだとも言い聞かせながら、どうにも酷く気が重いと負の方向に行きそうな気鬱の種を誤魔化した。




 感覚的にもう少しで目覚めるのだろうというのは分かっているのだが、今日の夢はまだ私を離してはくれないらしい。



 まだ全てが狂いだしてはいなかった時、アギロやディート先生から聞いた話を加奈ちゃんと話し合っていた時の光景が、唐突に目の前に展開される。

 この頃、光の膜さえ通らず瞬時に目前で見せつけられる夢も多くなったと息を吐く。



 それがどういう意味を持つのかさえも、現在分かる人達に聴く事が出来ない状態なのが気分を暗くさせる。



「ただでさえ記憶が在る状態だっていうのに、更に前世のゲームと似通ってる訳だから、確かに因縁やら因果やらは断ち切れてなくて地続きって事になるか……」


 加奈ちゃんは重々しく息を吐いて眉間をもむ。


「うん。だとしたら、もしかしてすでに私達は相手の思う通りに動いているのかもしれないと思えてしまって……」


 加奈ちゃんもその可能性を考えていたのだろう。

 静に肯いて言葉を発する。


「”相手”っていうのが何か分からないのが本当に問題だよね……――――前世からもう何か仕込まれていたのかもしれないっていうのは、出来れば違っていて欲しいけど……」


 祈を込めた加奈ちゃんの呟きが、酷く私にも刺さって抜けない棘の様だった。



 加奈ちゃんにとっての大切な記憶。

 それさえ意図的に遺されたものだとしたら……



 私にとっても当て嵌まる、危険な罠の一つなのかもしれない。

 そう思い至って二人でただただ沈黙する事しか出来なかったのだ。



 ――――加奈ちゃんも私も、前世の記憶が無くなってしまう事が耐えられない。



 そう確信してしまえる程に大切な宝物。

 それを無くしたら、喪ってしまったら、真っ新になったのなら、加奈ちゃんも私も――――間違いなく完全な別人になってしまうのだろう……



 不思議と彼女も私も納得してしまったからなのか、気分を変えようと無理矢理笑顔を作り、加奈ちゃんでありリーナでもある少女が忌々しそうに口を開く。


「エリザベートって一体何なの……―――――ああ、そうだった、そうでしたよ! 満月の夜に輝く月華に……確か、願い事? 願い事を言うと何でも叶うとかゲーム内で言ってた! 何故に今頃思い出すかな!」


 舌打ちでもしそうな勢いの彼女に、目を瞬かせながら私が肯いている場面を最後に、先程より急速に上がっていく感覚。




 ――――だというのに、まるで押し付けられるように目の前で見た事のない光景が繰り広げられた。

 今日は余程私に夢を見せたいのだろうと何処か達観しつつ、目前を注視する。



 あれは、フリード、だろうか……?

 黄金の髪に帝王紫の瞳も鮮やかな、幼いながら華麗な絶世の美貌の主は一人しかいないだろう。

 まだ幼い頃のフリードだ。



 木に背を預け、一人で読書中らしいフリードに侍女達はまったく気が付いてはいない。

 だからだろうか……?

 彼女達は何か仕事をしつつ楽し気に話をしている。



 そのフリードと侍女達を見ている、見詰めている少女がいた。



 フワフワの金色の髪に鮮緑の瞳の愛らしい幼い少女。

 ――――エリザベートだろう。



 私が感じていたのは、その光景への既視感。

 まるで何度も見た事がある様な既知感。



 そう、あの視線で一人誰にも見つからない様に陰から誰かを見詰める少女。

 ――――視線。



 何とも言えない、どこかタガが外れた様な熱量の、粘着質の糸さながらに絡みついて離れない、底なし沼の様なドロドロとした視線。



 それがどうしても初めて見た気がしない。

 この光景を見るのは初めてであるにも関わらず。



 あの視線を向けられていたのは確か――――……

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