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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第四章 帝立アリアルト魔法学校
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 息を吸っては吐いてを繰り返す。

 何度も何度も馬鹿みたいに繰り返す。

 どうにか落ち着こうと自分に出来る対処法は深呼吸くらいなものだから、それを必死に繰り返す。



 衝撃を受け過ぎたらしくて、どうにも心がザワザワと逆立った上波立っている様で落ち着かない。



 アギロが帰ってからずっとこの調子で、既に夕食を運んでもらったらしいのに味も満腹感も明後日の方向になってしまって、料理を作ってくれた人と食材を作ってくれた人と食材に大変申し訳ないのだけれど、自分ではどうにもならない位には一杯一杯らしい。



 私は、やはり世界にとっては要らない存在なのだというのは納得で、それについてはどうこうはない。

 不満も苛立ちも何もない。



 ただ、もう少しだけ待って欲しいのだ。

 それ以外は……



 父や弟や幼馴染達がゲームとは関係が無い様にしたいだけなのだ。

 上手く皆が幸せになって欲しい。



 それだけだ。



 ――――けれど、私が存在するだけで世界にとってはマイナスで……



 ”見通す目”を持っている事や”巫女”だという事で、世界にとって何か貢献的な事はできないのだろうか……?

 その事でどうにかマイナスを補填できれば良いのだが……



 ああ、それに、加奈ちゃんはどうなってしまうのだろう……

 私と同じ世界から来た加奈ちゃんも、幻獣達に見つかってしまったら排除されてしまうか削除されてしまう。



 ……もしかしたら、この世界に居るのかどうかも分からないけれど、居たとしたら勇も……

 勇も排除されてしまうか削除されてしまう。



 私は良いのだ。

 けれど、加奈ちゃんや勇はどうにかならないものだろうか……



 ――――だがアギロの話を聞く限りは方法が無いのだと思う。



 けれど、分かっているけれど、それでもと掻き毟る様に願ってしまうのを止められない。



 最善なのは元の世界に帰る事。



 だがそれこそが難問なのはアギロの話を聞いていれば分かる。

 実際、元居た世界を探せと言われても、難しいのは理解してしまう。



 確かにそうなのだ。

 ”世界”に印でも付けていなければ、区別など不可能かもしれない。



 シャボン玉の違いなど大きいか小さいか位しか見分けられないのだ。

 それが”世界”だとしたら……



 間違う事等許されない中、完全に元の世界を見つける方法が”創造主””造物主”という存在以外には無理なのだとアギロは言う。

 そして”この世界の管理者”はどうやら”創造主””造物主”の力は無いらしい。



 そのため、私や加奈ちゃんの様にこの世界に迷い込んでしまった異物でウイルスな存在は消去されるか排除しかないのだ。



 ああ、どうにか、私や加奈ちゃん、もしかしたら勇が存在する事のマイナスを補填する方法は無いのだろうか……?



 私はいい。

 私はいいから、二人だけは……




「――――おい、おいエルザ? 聞いてるか? おーい?」


 頭に慣れた優しい感触を受けてハタッと意識が戻ってきた。


「……ディート先生……?」


 苦笑気味のディート先生は、その端正過ぎる顔で肯いた。


「おう、そのディート先生ですよ。大丈夫か? どうした?」


 私は、何をどう言ったら良いのかまだ飲み込めておらず、思わず下を向いて沈黙してしまう。


「……あれか? アギロから幻獣についてとか聞いたりしたのか?」


 跳ねる様にディート先生の顔を見てしまった。


「図星か。アギロが来ていたのは記録で見たしな。エルザが気にするとなるとっていうのを加味するとだ、まあ、あれだ、幻獣の役目ってか存在はシステム的なもんだからな。存在する理由と意義が免疫機構の役目を果たす事な訳だし……やはりエルザ的には納得するのは難しいか?」


 ディート先生の言葉を聞きながら、少しずつ心が波立っているのが収まってくる。

 もう一度ゆっくり深呼吸。


「……あの、幻獣がどの様な存在なのかというのは心から納得出来ました。確かに免疫機構の様な存在が無いとダメなのも本当に分かります。ただ……」


 私がどうしたら良いか悩んでいるのは、自分の存在が世界にとってのマイナスでしかない事。

 存在するだけで害にしかならない事。



 ――――それにも関わらず、どうにか皆が幸せになれる道筋をつけるまでは生きたい事。



 出来る得るならば、負債は私が支払う事で加奈ちゃんやこの世界に居るのなら勇の事もどうにかならないか……?



 この世界に迷惑だけを掛けているのが心底理解出来てしまったから、どうにか私がそれを補填することは不可能なのか……?

 それによって二人の存在をこの世界が認める事は無理なのか……?



 ……そんなどうにもならないかもしれない事を必死でグルグルと考えているのだ。




「なんかまた面倒な事ごちゃごちゃ考えてそうだな。時にエルザ、お前的に幻獣を倒そうとかは考えないのか?」


 愉し気なディート先生の声に思考の渦から帰還を果たしたのに、その言葉故にまた脳味噌が明後日に逃亡しだした。



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