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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第四章 帝立アリアルト魔法学校
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 知らずに止めていた息を思いきり吐く。

 ……やはり、という思いと、どうして、という思いに捕らわれる。



 怖い、とても恐い。

 見えない操り糸が見える気がする。

 何かの歯車が回ってしまった様な。

 填まらないはずのピースがカチリと填まった感じさえして。



 カタカタと歯が鳴りそうになるのを必死に抑え込む。


「……大丈夫、瑠美?」


 心配そうに私の手を握ってくれる加奈ちゃんに何とか微笑み肯いた。


「大丈夫。ありがとう、加奈ちゃん」


 ホッと息を吐いて何とか心を整えられた、かな……?

 うん、昨日だったら混乱に次ぐ混乱でパニックは必然だったかもしれないけれど、一晩寝たのと夢が良かったのでちょっとは持ち直しているのが幸いだった。


「結論として、クラウディウスは『月華のラビリンス』でのサポートキャラであるレーナである事は確実、という事で良いのね? 兄妹にレーナがいる、とかは?」


 どうにか整理してみての言葉だ。


「ええ、間違いないと思う。彼には兄弟が居るけれど男ばかりで女はいない。近い年齢、つまり魔法学校に入れる歳の子もいなかった。だから彼の姉妹がレーナという線も無い。……それで、ね、エルザ、貴女の侍女さん達に引き続き監視を頼んでも良い? エリザベートとクラウディウスが接触するかどうかは重要だと思うのよ。確か”遅咲きの桜のイベント”以外にも攻略キャラ、特にフリードリヒだったと思うんだけど、彼のイベントをこなすにはサポートキャラが必須なのがあったと思うの。フリードリヒを攻略するのならサポートキャラがいないと無理って位だったはず。だからエリザベートが前世の記憶持ちなら接触してくるかもしれない。とはいえ性別が違うからエリザベートがサポートキャラを探せない、って可能性も無い訳じゃない。けれどやっぱりクラウディウスは監視しておきたいかなと。彼がレーナであるのならばやっぱり無視はできない。……幸いエルザがクラウディウスと関わったじゃない? これは彼を調べ上げる理由に確実になる。貴族や士爵なら当然の対応だし、ましてやエルザの身分や立場を考えたら調査をどれだけ手厚くしてもし過ぎとは誰も責めない。何もないのに調べたらエルザの場合、下手をしたら恋愛スキャンダルかと怪しむなり貶めようなりな人が出てくるけれど、関わったら逆に調べても問題ないってのが私には不思議だけどさ、現世(こっち)の常識前世(あっち)の非常識だからね。クラウディウスと接触があったのは逆に幸運かもしれないと思っておこうよ。チャンスに変えよう!」


 一気に話した加奈ちゃんはまたジュースを注いでハアと息を吐いていた。


「そうだね、これはチャンスだと考えなきゃ! リーナ、私の侍女達に頼むのが一番だというのは分かるよ。本当にありがとう」


 加奈ちゃんの話を咀嚼して理解できるぐらいには回復した脳味噌にも感謝。



 ああ、そうだ、折角加奈ちゃんが来てくれているのだ、今、聞いてしまおうか……?


「リーナ、他に何か私が知らなければいけない事はある?」


 私の質問にリーナは眉根を寄せて目を瞑ってしばし考えてから、重い口を開くように言葉を吐き出した。


「――――あの、ね、本来ならエルザと皆で行くはずだった日に”遅咲きの桜”が咲いている所にね、エリザベートが行ってたかもしれないんだよ、一人で」


 その言葉で、私が考えていた事等吹き飛んでしまった……


「らしいとしか言えないんだよね。ユーディ様が監視に使っている人曰く突然見失って、探したら”遅咲きの桜”が咲いていると言われている場所の方向から歩いて現れたらしいの。だから”遅咲きの桜”が咲いていた所にいたのかどうかは定かじゃないのよ。私もあの辺エルザが居ない間に色々行ってみたってのもあるし、ユーディ様に監視映像も見せてもらったけど、エリザベートが来た方向って他にも道が交差してたり別の場所に行けたりもするから、確実に”遅咲きの桜”の場所に行っていたとは言えないのが正直な所……本当に、難しくて、どうしたもんかと……単純に散歩だった可能性もあるんだよね。エリザベートさ、頻繁にフラフラとあてどなく構内を歩いてるのは監視してて確認されてるもんだから……」


 リーナの言葉にどうにか意識を取り戻し、何とか頭で噛み砕いて認識させる。


「……つまり、エリザベートが”遅咲きの桜”の咲いている所に行っていた可能性はあるけれど、それは確実に行っていたとは言えない、という事で良い……?」


 リーナは思いの籠ったため息を吐いてから


「……それで大丈夫だと思う……ごめん、今のエルザに言った方が良いか悩んだんだけど、やっぱりちゃんと告げないとと思ってさ……エリザベートに前世の記憶があるのかどうかもこれじゃ確信持てないし、世界が補正を働かせたのかどうかも……」


 私は申し訳なさそうなリーナに微笑みながら疑問を聞いてみる。


「大丈夫。行っていた可能性がある、という事が分かっているだけでも違うよ。それで、ね、エリザベートを監視していた人は、私達が行くはずだった日の彼女がどういう様子だったかは言っていなかった……?」


 リーナは難しそうな表情になってからまたため息。


「……残念そうというか、不機嫌、だったらしいのよ。だけどそれが目当ての人物がイベントの場所にいなかったからなのかは分からない。何せ現場を監視している人も見ていないし、かなり長い間見失っていたらしくて、見失ってから見付けるまでの間にエリザベートに何があったかは定かじゃないのよね……」


 私も思わず眉根を寄せて悩んでしまう。

 それでも自分なりに意見を言ってみる。


「……監視していた人が見失っていた、というのが、その、気になっているの。ユーディ様が重要な事を任せる相手よね……? なのに見失う、というのはおかしいと思うのだけれど、どう思う……?」


 リーナも険しい顔になって腕を組む。


「そうなんだよね、そうなの。私も気になっていたんだよ。ユーディ様も不思議がってはいたんだけどね……ただどうして見失ったのかが本当に分からない。世界の補正、なのかな、やっぱり……」


 重い表情で目を瞑ったリーナに尤もだと思いながら、一つ気になった事がある。


「ねえ、加奈ちゃん、確かゲームでの”聖女”の能力って、人を思い通りに動かす、だって言っていたよね……? なら、その力を監視している人に使った、とかはないのかな……?」


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