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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第四章 帝立アリアルト魔法学校
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「あの、学校にある桜が散る前に見に行きたいのですが、無理、でしょうか……?」


 イベントが起こるとしたら何か分かる事があるのか、少しでも情報が欲しかった。

 エリザベートが転生者なのか?

 強制力はあるのか……?

 最低限でも何かこれ等の情報が得られはしないかと思ってしまう。



 ――――それに、私の寿命は思っているよりも少ないかもしれないのだ……



 前世と同じ発作が起きてしまった。

 ならば最悪の予想はしておくべきだ。

 発作が起きた年齢は前世よりも早い。

 ならば寿命もそれ相応と考えた方が確実だろう。



 だから、寿命がある内に出来る事はしておきたい。

 お父様やフリード、イザーク、攻略対象だという皆にとってよりよい結果になって欲しいのだ。


「エルザ、それはどうしてもしたい事か?」


 ディート先生が真面目な顔で私に問う。

 真剣に伝えなければいけないと思った。

 少しでも怯んだり躊躇するようではいけないと。


「はい。どうしても行きたいです」


 だから私は必死に目に力を籠め、意思が固い事を伝えたかった。

 私にはあまり時間は残されていないのかもしれないのだ。

 ならば出来る事はしたい。


「……――――分かった。許可しよう」


 長い沈黙の後、ディート先生が大きなため息と共に告げた言葉に、即座に非難しかない思いを込めた声が響く。


「「「ディートリッヒ様!?」」」


 お婆様とお父様、ヒューおじ様が上げた糾弾の声に、私は瞳を瞬かせる。


「ありえません。今のエルザに出掛けるのを許可するなど何をお考えですか!」


 お父様がディート先生に食って掛かり


「当分は安静にしていた方が良いかと……」


 控えめだがしっかりと伝えるヒューおじ様。



 お婆様は目を非難を込めた厳しい色にしつつ、沈黙を守っていらっしゃるのが印象的だった。


「……あのな、マルガレーテ、ハイン、ヒュー。特にレーテ、良く視てみろ。エルザは分かってる。なら望み通りにしてやりたいだろ。それにあまり話させるのもな。エルザの事だからこれは必死に何度でも言うぞ。それはあまりよろしくない」


 ディート先生の言葉にお婆様が何かに気が付いた様な表情になってから、悲痛に一瞬顔を歪めた後、息を吐き、優しく私を見詰める。


「――――そうですか……ハイン、ヒューゴ。ここはエルザの望みを叶えましょう……」


 反対していらしたお婆様の突然の言葉に、私を含め皆驚いた様だ。


「……母上?」


 お父様が不安そうにお婆様を見ると、お婆様は真面目な顔で


「ハイン、エルザは自分の事を知っているわ。好きにさせてあげましょう」


 ハッとした表情になったお父様はお婆様と私を交互に見詰めながら


「……ですが、私は……」


 今にも泣きだしそうな表情で呟いたお父様に私が困惑していると


「ハイン、覚悟を決めろ。分かっていた事だろう」


 ディート先生が不思議と達観した表情でお父様の肩に手を置きながら、何かを諭していたのは分かった。


「……――――エルザ、私はね、エルザをとても大切に思っているよ。大事な娘だと。だから、エルザを危険な目に遭わせたくはないし、少しでも長生きして欲しいと思っている。喪いたくないと真摯に思うよ。だがね、それでも、少しでもエルザが満足して生きてくれたらと思っている。思い残すことがほんの僅かでも少ない様にと。幸せであって欲しいとも。いつも居なくて、父親らしい事もろくに出来なかったけれど、それでも、少しでも覚えておいてくれると、お父様は嬉しいよ」


 お父様が私の手を握って真剣に伝えて下さる言葉を聞いていると、薄っすらと分かってしまった。

 きっと私の寿命がもう残り少ないのは確実で、お父様はだから私の心配をなさっていらっしゃるのだと。



 不思議と、前世の両親の事を思い出した。

 同じ様な事を言われたと思うのだけれど、でも、前世の両親の言葉には、何か含む所というか、裏の意味があったのではないかと今なら思える。



 ……前世の両親は、少しでも私に長生きして欲しいとは言っていたけれど、私が幸せであって欲しいという様な意味の言葉は、言った事が無かったと思う。

 そう、大切だと、大事だと、長生きして欲しいとは言うけれど、私の幸せや心残りについてや私のしたい事についての言葉は一切なかったのだ。



 それが何故か今は気になっている。

 舞ちゃんの夢が原因なのだろうか……

 勇は、一体どうなったのだろう。

 今、何をして――――



「――――エルザ? どうした? 具合が悪いのかい!? ああ、話させすぎたかな、どうしよう!」


 心配そうなお父様の声で、思考の渦から帰ってきた。


「大丈夫です、お父様。ディート先生も、お婆様も、ヒューおじ様もありがとうございます」


 私が真摯にお礼を言ったら、お爺様が私の頭を撫でた。


「思う通りに生きなさい。私はそれを応援しているから。曽お爺様や曽お婆様も同様だよ。家族は皆エルザを応援する。だから望む通りに」


 優しい表情と声に、私は胸が詰まって上手く言葉に出来ない。

 それでも何とか思いを言葉で伝える。


「……ありがとう、ございます、お爺様……私は家族に恵まれていますね」


 そう伝えたら、今まで手を握っていたお父様が肩を震わせているのに気が付いた。


「あの、お父様……?」


 私が心配して聞いたら、


「エルザ、そこはそっとしておけ。それでだ、エルザ、外出の条件だが、俺が付きそうというのでどうだ?」


 お父様の肩をポンポンとしてから私を悪戯っぽく見て告げるディート先生の言葉に、私は嬉しくて力強く肯いた。



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