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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第四章 帝立アリアルト魔法学校
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 二人で考えても埒があかず、かといって何が出来るかというとそれも分からず、とりあえず経過観察という事で落ち着いた。



 実際問題、どうしたら良いのかがまるで分からないのだ。

 確かに、ピンク色の髪で青や緑等、ゲームでのサポートキャラの設定以外の瞳の持ち主はいるとリーナは言う。

 だが、青と緑が合わさったような瞳の、ゲームでのサポートキャラと同様な持ち主は見た事がないというのだ。

 目ぼしい貴族の家の特徴ではなかったと私も記憶しているから、それ以外の人は分からないし、それに件のクラウディアスは平民だったはず。

 リーナの話では、ゲームのサポート役の子は平民だったというのだから、やはり彼がそうではないかと思えてしまう。



 更に気になるのは、ベアトリス様とアーデルハイト様の事だ。

 お二人の婚約者との関係性が変わったのかもしれないという事。

 それによっての変化だ。



 医務室へと向かいながら、心配したリーナが付いてきてくれて、その間も色々話した。

 ゲームの設定資料集に載っていた、ベアトリス様とアーデルハイト様の裏設定的な物も話してくれたのだが、それによると、お二人は自分と婚約者との関係性を諦めていて、だからこそ、自分の大切な存在であるフリードリヒとエルザの中を邪魔するエリザベートが大嫌いだったらしいのだ。

 フリードリヒとエルザの仲は、設定資料集によるとそう悪くはなかったとの事だ。

 少なくとも、エリザベートが絡んでくるようになる魔法学校までは。

 それで、自分と婚約者との仲を絶望視していたベアトリスとアーデルハイトは、フリードリヒとエルザの関係を羨望していて、必死に守ろうとしていたらしい。

 大切なエルザが事件の影響で苦しんでいたのも知っていたから、余計にフリードリヒとエルザの仲を邪魔するエリザベートが大嫌いで、エルザ本人よりも過酷なイジメを行っていたらしいのだが、それは資料集にしか載ってはいなかったらしい。

 ただ、イジメるのはどうかとは思いはしたが、結局はエリザベートが何もしなければ問題は無かった訳で、余計にエリザベートが嫌いになったとリーナが言っていた。



 リーナにも言ったのだが、このゲーム、主人公というか、プレイヤーの操作キャラであるエリザベートが居ない方が、フリードリヒとエルザにとっては良かったのではないかと思えてしまう。

 エリザベートが居なければ、そもそものゲームのエルザのトラウマとなっている出来事も起こらない訳だし。

 彼女曰く、フリードリヒの攻略は略奪愛がテーマらしい。

 それって乙女ゲームとしてはどうなのだろうとか、メインキャラが略奪愛って……と思うのだが、まあ目新しいことをしたかったのだろうとリーナは言っていた。



 目新しいとはいえ略奪愛って地雷の人も多そうだなぁと思ってしまったのだが、他人の萎えは自分の萌え、他人の萌えは自分の萎えだから、と言われてしまえばそれまでだろう。

 現実ではどうかと思える事もゲームならやってみたい人もいるんじゃないの、と付け足されれば、そういうものかと思うしかない。



 もっとも、リーナにしてみれば略奪愛も寝取られもゲームだろうとごめんとの事だった。

 私も力強く同意してしまう。



 とはいえ私は、略奪愛は自分でする気は毛頭ないが、心が私から離れてしまうこともあるだろうから寝取られても別に構わないのだが……そこまで相手を縛りたくはないし。

 そう言ったら、リーナにため息を吐かれた。



 曰く、私は自己評価が低すぎる、との事だ。

 人の夫や婚約者、恋人を盗る様な人に怒りはないのかと言われれば、それはある。

 ただ、自分がされた場合においては、仕方がないと思うだけだ。

 悲しいけれど、怒りはないなぁ……

 私より、その人の方が良いというのなら、それはもう諦めるしかないと思うのだ。

 盗り返せるとは到底思えないのだから仕様がない。



 この意見を言ったら、リーナは眉根を寄せ、何かを言いたそうにしつつ、ため息を吐いただけだった。



 誰かの大切な存在を様々な意味で奪うのは、絶対にしてはいけない事だと私は思う。

 それは周りを傷つける行為で、自分勝手すぎると思うのだ。



 ――――だから私は、前世の両親の事を、未だに根っこの部分で許せずにいるのだ。



 今でも、叔父の悲しそうな顔や、殺意に濡れた従姉妹の瞳を忘れる事が出来ない。

 弟達に対して向ける、親戚の表情も……



 私は別に構わない。

 母のお腹の中にいて全てを壊した私は良い。

 でも、弟達は……と思ってしまう。



 でも、あの人達にとっては、弟達も私も同罪なのだろうとも分かっている。

 それでも……と思ってしまう。

 あの子達が心配だ。

 今、どうしているのだろう……



 それに、勇。

 勇の事だ。



 もしかしたら勇だって、私がいなければ、今朝の夢の伯母様の言う通り――――



 医務室で診察を受けながら、考えていたのはそんな事だった。



 ため息を吐く。

 どうも建設的な事が浮かばない。



 いくら前世の事を思ったとしても、既に過去の事だ。

 私にはどうしようもない。



 ……分かっている、分かっているのだ。

 それでも脳裏を過るのは、静かにしていると今朝の夢が頭の中から消えてくれないからだ。



 今考えるべきは未来の事。

 そう、”月華のラビリンス”というゲームの事だ。

 それに則ってこの世界が動いているという事。



 だから、それによって起こるかもしれない未来の出来事を防ぐ。

 これを大事にしなくてはいけない。



 ――――そうだとしても、私には、どうしても前世を思い切る事が出来ないのだ……

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