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ディルクは行商人の一家だったという。
主に家族は国外で活動していたが、れっきとした帝国人だという。
そしてある日、盗賊に襲われた。
帝国人以外の盗賊なら恐れるに値しないのだが、その時の盗賊は訳が違ったらしい。
あっという間に祖母が殺され、母も続いて殺された。
家族が殺され、我を忘れ、魔力が暴走し、盗賊を全て燃やし尽くして呆然としていたら、冒険者風の男が視界に入り、何だろう、助けに来てくれたのかなと思っていたという。
その男に肩を掴まれ、全身が痛いと感じたら目が見えなくなった。
気がついたら知らない場所に居たらしい。
目が見えないけれど、周りの話からどうやら売られるらしいと察したという。
そしてここに連れて来られた。
という話を彼から聴いたのだ。
冒険者って何だろうと思って訊いてみたら、そういう、傭兵や護衛、偶に現れる強力で見た事もない獣とかを狩ったりや、薬草採りだろうと頼まれれば何でもやる職業の人がいるという。
帝国外では割とポピュラーらしいが、腕が立たないと、迷子の動物探しとかそんな依頼らしい。
専門知識があれば薬草採りだけの人とかもいるみたいだ。
薬草の栽培業者とかはいるみたいだけれど、栽培が難しかったり、見た事のない種類だったりを危険な場所に採りにいくから、結構いい金になるという。
ただし戦闘技能は必須らしい。
プラントハンターみたいな人も含まれるとか本当に何でも屋っぽい。
危険な獣がいるから戦えないとだめなのだろう。
しかし冒険者なんていうゲームとか本の中みたいな職業があるんだなぁ。
ちょっとびっくりした。
呼び名が違うだけで、前世の何らかの職業に含まれるのだろうか。
帝国にはそう言う組織はあるのかな。
今度お父様に訊いてみよう。
脱出出来たらの話だけれどね。
さっきから考えていたのだけれど、私に異能力があるのなら、他の人が持っていたとしてもおかしくはないと思うのだ。
荒唐無稽な話かもしれないけれど、ディルクはとても魔力が強いんじゃないかな。
そして、魔力を奪われた。
暴走させても無事だし、帝国人である家族を殺せるような強い盗賊を、暴走させたとはいえ全滅させている。
だから、冒険者風の男は彼の強力な魔力を目にして、奪おうとしたのではないのか。
私が感じる違和感は、私の異能力が無効化だから、不自然な状態を感じ取っているからなのではないだろうかと考えた。
仮説を裏付けるために、ディルクに思い切って訊いてみる。
「貴方の瞳って紫色だったりする?」
「ええ、よく分かりましたね。どうして分かったんですか?」
「うん、まあ、何となく」
彼の疑問を誤魔化しながら、自分の仮説が合っている事に愕然となる。
魔力が他と隔絶している、赤や紫色の瞳を持っているルー達は、まず始めにこんな事を習うという。
帝国人以外で赤や紫の瞳の子供は生まれない。
魔力の強さを表す赤や紫の瞳は、魂と連動していて、魂の一部である魔力源が、その人物の魔力に反応して、力に合わせて瞳が赤や紫になる。
他人の魔力が奪えないのも魔力源が魂の一部だからで、魂は人間には干渉できない。
仮に魔力を奪える存在がいたとすると、奪われた相手の瞳が赤や紫であれば奪った相手も同じ色になる。
これは魂の力である魔力源を奪った事により、奪った相手に魔力源が移ったから起こるらしい。
この事は、幻獣の長からこれが世界の法則だと、過去に初代の皇帝陛下が教えてもらった事だという。
魂の力である魔力源を奪われたから、魂と連動している瞳が見えなくなった、という事じゃないのだろうか。
飛躍しすぎな気がしないでもないけれど、これ以外に視覚が奪われた原因が解らない。
私の妄想だろうか。
だとしても、突然見えなくなり、視覚が奪われたというのなら、魔力を奪う異能力なのかどうかは判らないけれど、何らかの他人に干渉出来る異能力があるという事ではないのか。
それとも、何らかの破片が瞳に入ってしまって、見えなくなったとかだろうか。
悶々としていたら、ディルクが心配そうだ。
突然無言になったら、びっくりするよね。
それにディルクは目が見えないのと、捕まってから今まで碌に人と会話出来なかったから、人恋しいみたいだし。
ディルクに敬語じゃなくても構わないと言ったら普通に話してくれるようになって嬉しい。
何でも人と話すのが久しぶりだから緊張していたみたいだ。
彼に話しかけようとしたその時、部屋の扉が唐突に開いた。




