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聖女の条件  作者: 杜若 白花
序章
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 到着を今か今かと待ちながら、父から最後の確認を受け終わり、私は最期から今までの事を思い返していた――――  







 意識が暗闇に吸い込まれるような感覚……――――



 闇に意識がのまれてしばらくすると、凄い衝撃を受けて、その後から誰かが側にいるのがわかった。

 それなりに長い時間一緒だったと思う。

 それからその誰かが何かに流されて行って、私も一緒に流された。

 そして暗い水の中をしばらく揺蕩った後、息苦しく狭いところを通り、眩い光を感じた直後、胸一杯吸い込める空気に安堵したのだ。



 しばらく起きたり寝たりを繰り返し、ようやく意識がはっきりした。

 どうやら夜のようで、辺りが暗い。

 薄暗い中で辺りを見回すと病院の天井ではない。

 何だろう、見たことがないけれど、天蓋、ってものかな……?

 伸ばした手を見てみると、とても小さいし、痩せ細った自分の手ではない。

  ふっくらしていて可愛らしい、と思う。


「あう?」


 言葉が満足に発音出来ない。

 そういえば眩しい光に包まれた時、何か複数の人の声がして騒がしかった気がしたけれど、今は静かだ。

 横を向こうとしたが出来ない。

 体が満足に動かないようだ。

 病状がより悪化したのだろうか。

 なら腕とか上げられないよね。

 ――――これはどういう事だろう……?



 混乱してグルグルと色々考えてみた結果、もしや転生だろうか、と思い至った。

 その考えにたどり着くまで、腕を柵にぶつけてみるとか、鼻に指を突っ込んでみるとか、色々やってみたが痛かったり疲れたりで感覚が末端まであることが良くわかった。

 確かに記憶はなくなっていないし、ある意味途切れず連続している。

  まるきり私であることに変わりないのは確認できた。



 私は【如月 瑠美(きさらぎ るみ)】という名前の日本人だった。

 病気になり入院していたのだが、あの日、刺されてそのまま死んだらしい。

 最期に見た従兄弟の顔も覚えているし、両親を始め家族の記憶もあるのだが……



 しかし、それってどうなのだろう……?

 新しい家族を家族と思えるか不安になった。

 何よりも怖かったのは、自分がこの世界にとっての異物で、いずれ排除されてしまうのではないかという事だ。



 ここが元居た時代からそう離れていないのか、違う国なのか、同じ世界かどうかも分からない。

 ただ、違う世界だったら特にとても恐ろしいと思うのだ。



 そう思えてしまうのは、何故かここが元の私がいた世界とは別の世界だと、何となく思えてしまえるから。

 不思議だが別の世界だと思うから、不安は後か後から湧いてくる。



 何故かといえば、元居た世界と違う世界に居るという事は、異世界からの侵入者という事になりはしないのか……?

 それならばこの世界の免疫みたいな物に見つかってしまったのなら、大変な事になるのでは?



  勝手に入り込んだ病原菌扱いじゃないのだろうか……

  運が良くてこの世界からの排除だろうと思えて仕方がない。



 排除されたとしても元の世界に還れるとは思えないのだ。

  還っても肉体はもう無いだろうし。

 それに本来生まれるはずだった赤ちゃんの代わりに生まれてきたのではないか、乗っ取ったのではないかと怖くなる。

 異世界からの侵入だから、本来生まれるはずだった存在から場所を奪ってしまったのではないかと思えて仕様がない。



 だが、不安に思っていた新しい家族との関係も、色々思い出して泣き出したり夜中にぐずっても、嫌な顔一つせずお乳を与えてくれたり下の世話もしてくれたりあやしたりと、私をとても大切にしてくれて、ありがたいやら嬉しいやらで無用の心配だった。

 今はひたすら幸せだ。

 ただ、排除されてしまうかもしれないという不安は、常にあった。

 それでも前世よりはせめて長生きしたいという思いはあるが、どうなるか先行きは不明だ。



 女性の胸に吸い付いて食事をするのも慣れたし、下の世話も入院中もしてもらっていたから受け入れられた。

 後は素直に甘えるだけだ。

 そうしていると不思議と今の両親や周りの人達にも愛着が湧いてきて、なんだかくすぐったい。

 

 

 しばらく観察した結果、私の名前は【エルザ】というのだろう。

 何度も愛しそうに優しくそう言われるから、おそらく。

 その後続く、心が温かくなるような表情と口調で告げられる言葉は理解できないけれど、私をとても大事にしているのは理解できた。



 大切にされればされるほど、乗っ取ったのなら本来大切にされるのは私ではない訳で、こんなに幸せで良いのかという思いは意識が覚醒してから消えない。

 

 

 次にわかった事はどうやら日本ではない、いや地球かどうかも怪しいところに転生したのではないか、という事。

 乳児でベッドから自力では出られない身だが、分かることもあるのだ。



 分かった時はとても混乱した。

 意識が覚醒した時もしかして異世界かもとは少し思ったが、まさか本当に異世界とは思わない。

 だってどうやって別の世界に移動したのか、さっぱり分からないではないか。

 それでも最初から違和感の様な、ここは元いた世界と違う世界なのでは、と思えたのだが、何故かは不明のままだ。



 出来る範囲で検証していったら、やっぱりここは私の知る世界ではないと結論が出てしまう。



 例えば、言語は日本語とは違うのが理解できた。

 英語でないのは確かだし、従兄弟が読んで聞かせてくれた詩集の発音とも違うから、フランス語やドイツ語でもなさそうだ。

 地球の言語を全て理解しているわけではないけれど、発音の仕方とか全く異質な感じがする。



 ふと、発音、私、できるのかな……と不安になった。

 覚えるとか、とても難しそう。

 大丈夫かな……



 そして家具や調度品とかは中世ヨーロッパ風だと思う。

  ヨーロッパの古いお城とかお屋敷にある物のような、重厚そうな印象を受けた。



 おそらく今世の母親と思われる女性だが、白い肌、淡い金色の髪に青い瞳の、綺麗で繊細、儚げな人で、父親と思われる人は同じく白い肌、銀髪に薄い青の瞳の、優雅だけど人懐っこい感じの美男だ。



 他に金茶の髪の女の人や栗色の髪の男の人とか色々いる。

 彼らは一体何なのだろう。

 家族とも違うようだ。



 父親や母親と思われる人達にとても敬意をもっているというか、敬っているというか……

 執事とか家政婦とかそういう人達だろうか。

 従兄弟の家にいた人達より、人間味と主を大切に思っているのを感じるけれど。


 

 そこだけならまだ地球のどこか、ヨーロッパとかかな……と辛うじて思えるのだが……



 母と思われる、その女性の周りを飛んでいるというか浮遊しているあの物体はなんだろう?

 私に笑顔で優しく何度も話しかけてきて、身長が15センチぐらいの小さい人型で、トンボみたいな二対の羽が生えてる、あれは何……?


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