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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第四章 帝立アリアルト魔法学校
182/348

48

 欝々と考え込んでいたら、部屋に侍女が、花瓶に生けた花を持って入ってきた。


「その花、どうしたの?」


 侍女は花瓶を飾りながら、


「はい、カタリーナ様から頂きました。自分が帰ったら飾って欲しいとの事でしたので……」


 その言葉に、驚いてしまう。


「……そうなの! ありがとう。後でリーナにもお礼を言わなくちゃ。それにしても、チューリップと水仙、綺麗ね」


 私の言葉に、侍女も肯く。


「はい、綺麗です。お礼を言われるのは、その方がよろしいかと。恐らく、学校内で売っている花ではないでしょうから、学校外に出て買っていらしたのだと思いますし」


 その言葉に、目を丸くする。


「それは、リーナに色々手間をかけさせちゃったわね。うん、後で何かお礼の品でも持っていかなくちゃ」


 侍女は優しく笑って


「昨日のユーディト様のアイスクリームも、帝都の有名店の物ですから、取り寄せられたのだと思います。お礼を改めてなさった方がよろしいかもしれません」


「そうだったのね。そういえば、エドが前に差し入れてくれた物と、包装紙とか一緒だったわ。一緒に頂いた時にお礼は言ったけれど、そうね、改めて、お礼の品を持参するのが礼儀よね」


 私がうんうんと肯きながら言っていたら、


「では、お礼の品は、どうなさいますか?」


 侍女に問われ、悩む。


「どうしたら良いかしら……やっぱり帝都の、ちゃんとした物の方が良いかなぁ……」


「今は学生の身分ですから、そうそう立派過ぎるものはどうかと思われます。エルザ様が手作りなさった物がよろしいかと。手作りの品は心がこもっていると特に貴族だと尊重されますから、喜ばれるのでは」


 侍女の言葉に、嬉しくなる。


「そうだと嬉しいわね。ああ、明日、材料でも買ってこようかしら。学校外に出られるのなら、色々揃えられると思うし」


「それでしたら、何を作られるのか今日中に仰っていただけましたら、材料の揃う店をピックアップ致します」


 侍女の言葉に、素直に感謝。


「ありがとう。ええ、今日中に考えておくわ。でも、食べ物と、刺繍した物やレースを編んだ物と、どちらが良いと思う?」


 侍女は思案顔に成りながら、


「それでしたら、食べ物でよろしいかと。病床の見舞いの品に対するお礼ですから、あまり仰々しいのも考えものかと」


 それならば、と考える。


「なら、ラングドシャか、メレンゲクッキーはどうかしら? 長持ちするお菓子の方が良いかなぁとも思うし、マドレーヌやカップケーキ、普通のクッキーじゃありきたりだし、ちょっと変化球をと思ったのだけれど……」


 私の意見に、侍女は悩みながら、


「そうですね……エルザ様の作る物はどれも美味しいのですが……メレンゲクッキーは湿気やすいかと存じます。ああ、ラングドシャでしたら、間にバタークリームやチョコレートクリーム、イチゴクリーム等色々挟んでバリエーションも出せますし、よろしいかと」


 成程。

 メレンゲクッキーは、私は実は結構好きなのだが、冷めたら密封容器に入れないと、確かに直ぐに湿気ったかもしれない。

 甘くて、シュワシュワして、本当に美味しいとは思うが、今回はメレンゲクッキーはお預けにしよう。


「なら、ラングドシャにして、今挙げてくれた、バタークリーム、チョコレートクリーム、イチゴクリームを挟んだ物と、何も挟まない物の四種類がいいかな。それだけ種類を作るのなら、小さめに作った方が良いかしら……」


 悩みだした私に


「小さめの方がよろしいかと存じます。種類が多いのですし、少しづつつまむのならば、小さい方が食べやすいかと」


 侍女の言葉に、納得。


「ええ、それなら、小さめのラングドシャ四種類にするわ。ありがとう」


 私がお礼を言うと、侍女は嬉しそうに微笑み


「いえ。お役に立てましたら光栄です。それでは、ラングドシャの材料が揃う店をお探し致します。作られる器具の方は大丈夫ですか?」


 侍女の言葉に、考えてみる。


「……オーブンレンジは有るけれど、泡だて器が無いから、有ると嬉しいわね。それと、ハンドミキサー、かな。搾り袋と絞り口も欲しいかなぁ。あ、オーブンシートも欲しい。金属製のボウルとかは色々揃っていたはず、だから、これは大丈夫。ゴムベラ、は、有ったわね。なら、これも大丈夫。ええと、泡だて器とハンドミキサー、絞り袋と絞り口、オーブンシートが欲しいと思う。これも明日買った方が良いかしら……」


「今挙げられた物でしたら、こちらで揃えさせて頂きます。御身体を考えますと、ラングドシャの材料を買うだけになさった方がよろしいかと」


 侍女が真剣に言う言葉に肯く。


「そうね。お礼は早い方が良いだろうし、でも、まだ本調子でもないのだから、長時間の買い物はだめよね。分かったわ、お願いします」


「畏まりました。それでは、今日中には揃えますので、ご確認の程、お願い致します」


「分かったわ。よろしくね。色々ありがとう」


 私がお礼を言ったら、嬉しそうに一礼し、部屋を退室した。



 ちょっと独りになったからだろうか。

 何を作ろうかと浮かれていた気持ちが萎んでいく。



 侍女との会話を思い出す。



 リーナが贈ってくれた、花。



 チューリップと、水仙。



 これも、大まかな姿も、名前も、前世の世界通り、だ。



 それは、やはり、この世界が……



 思考が、マイナスの方に行きかけた時に、通信機が、久しぶりに、鳴った。


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