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聖女の条件  作者: 杜若 白花
第四章 帝立アリアルト魔法学校
178/348

44

 

「どういう事です?」


 ヒューおじ様の問いに、カイザーとエーデルは顔を見合わせる。


『……我等も舞踏会以来、エルザを注視してきた。だが今回の事は、エルザが医務室に担ぎ込まれてようやく察する事が出来たのだ』


 カイザーの返答に、ヨハネ教官は眉根を寄せる。


「それは、そちらでも注視していたのにも関わらず、エルザが倒れた時も把握できないばかりか、医務室にエルザが到着してからしか分からなかった、という事ですか?」


 カイザーは忌々しそうに


『そうだ。故にこれはかなり面倒な事態だろうと推察する。エルザの幻獣や妖精も、エルザが倒れた事に気が付かなかった位だからな。本来誓約を交わした相手の異変に気が付かぬなど有り得ん。ましてや命に関わる事態だぞ。異常にも程がある。皇族達もエルザの異常に何一つ気が付かんし、常にエルザを熱心に見守っている、我等が相棒殿達さえエルザが倒れた事に気が付いていないのだ。その上両名揃ってエルザが干渉されているに事も気が付いていないらしいのは不気味の一言だ。我等が相棒殿達は、あれでエルザにとって防風林や防波堤の役割もあったのかもしれんな。両名がいない途端エルザがこの状況ではな……』


 カイザーの言葉に、空気が重くなるのを感じる。


『このエルザに干渉している存在は危険だ。故に、今のエルザに何かその存在について訊ねるのはよろしくないと思う。尤も、尻尾などそうそう出さんだろうし、何か分かったとしても、罠の可能性の方が遙かに高いがな――――大体、堕ちた連中は狡猾にして慎重な、性格の歪んだ輩が多いのだ。下手に注意する方が危険という事の方が多いかもしれん……』


 カイザーが後半ぼそりと言った言葉が気にかかり


「ねえ、カイザー。オチタ連中って、何?」


 私の問いに、カイザーがしまったという顔をする。

 エーデルはスパンとカイザーを叩いた。


『……あれだ、気にするな。今のエルザに説明は無理だ。我等もまだ若い故、どうせ聞くのならばアギロの方が適任だと思う』


 そんな事をカイザーは早口で言って、そっぽを向いてしまう。


「分かったわ。体調が落ち着いたら、アギロに訊いてみる」


 私がそう言ったら、カイザーは安堵した様だ。


『しかし、エルザ。エルザは自分の意見を強硬に主張しないな。もっと説明しろと言う輩は言うぞ』


 エーデルは苦笑しながら言うのだが、


「でも、私の為に心配してそう言ってくれているのに、無理矢理聞くのはどうかなって思うよ……確かに私は自分の意見をあまり主張しないかもしれないね。そうする理由が特に無いし」


 私がそう言ったら、ヨハネ教官も苦笑。


「確かにお前はそうだな。ただ、幻獣の森では多少違ったらしいが?」


 ヨハネ教官の言葉に、ちょっと思い出す。


「ルチルの事とかでしょうか……?」


 それにカイザーは楽し気に笑う。


『あれだな。エルザは自分の為には自己主張しないが、誰かの為には色々頑張る性質らしいと我等も思う』


 このカイザーの言葉に、皆が肯くものだから、恥ずかしくなってしまった。


『話は変わるが、ヨハネス。この学校に通う四大公爵家の子息たちと、紫の瞳を持つ人間をこの部屋に呼びよせてくれ。少々説明したい事がある。エルザはあまり皆に迷惑を掛けるのは好きではないだろうが、そうも言ってはいられんのだ。エルザに何かあって、波及的に深刻な方に事態が動く可能性も無きにしも非ずだからな。まあ、エルザを注意して見守って欲しいというのが一番の理由だ――――我等が相棒殿達は後で我等から説明する。我等が相棒殿達は、エルザの事になるとマテの出来ん猛獣だからな。皆と一緒よりは個別に対応した方が良い』


 カイザーの重々しい言葉に、ヨハネ教官達は脱力気味に肯いていた。



 しかし、ルーもフリードも猛獣という感じはしないが、どうして猛獣なのだろう……?

 そんな素朴な疑問が私の頭を占めていた。





 先程まで居たエド達に加え、ギルとフェル、ユーディとリーナが慌てて医務室に駆け込んできた事には驚いた。

 リーナやロタールは紫の瞳ではないが、どうしてだろうかと首を傾げていたら、ヨハネ教官が優しく笑う。


「お前と親しい連中には説明しておいた方が良いだろうと思ってな。迷惑だったか?」


 ヨハネ教官の温かい配慮に、感謝しかない。

 ……皆に心配をかけるのは本意ではないが、私が知らせない事で、何か周りに起きる可能性もあるのかもしれないと言われたら、自分だけの問題ではないのだから、心配をかけたり迷惑を掛けるのは本当に申し訳ないが、そうも言っていられないのだと、言い聞かせる。

 やはり自分の所為で誰かに何かを強制するのは、本当に、心が痛い。

 これも前世から変わらない事だ。



 事情を簡潔に説明したカイザーは、続けて


『我々が護衛に付いたとしても、誓約をしていない故に正確には守れぬし』


 カイザーの言葉にエーデルも強く肯くが、私は慌ててしまう。


「待って、待って、待って! そんなの申し訳ないし、何より二人に何かあった時が心配!」


 語尾を強めた私に、カイザーもエーデルも顔を見合わせ苦笑する。


『我が相棒殿も、エーデルの相棒殿も、強力にして強靭故に問題あるまい。それよりも、エルザが問題なのだ。我等が相棒殿は、例えるならば強固にして頑丈な合金。エルザは儚く脆い砂糖細工だ』


 カイザーの話に、シューがポツリ呟いた。


「甘くて美味しそうですね……」


 ハッと気が付き、両手を勢い良く振って慌てる、シュー。


「……すみません! 忘れて下さい!!」


 カイザーはエーデルと顔を見合せ、何故か肯く。


『そう。甘くて美味いのだ。故に様々な方面から狙われる』


 私はそれに疑問が湧く。


「甘くて美味いって、どういう事なの?」


 私の問いに、カイザーはエーデルとまた顔を見合せ、今度はため息。


『説明は難しい。ただ、エルザが甘くて美味いのには色々な見方があり、故に数多のモノを惹き付ける。エルザの魂は得難いのだ。無理やりにでも得ようとする輩は必ずいる。兎に角、エルザは魅力的故に狙われやすいと自覚した方が良い』


 カイザーの言葉に、思わず顔を顰めた私の頭に、温かな手が乗せられた。


「エルザ。難しく考えるな。帝国の筆頭大公爵家の令嬢なら、狙われて当然だろう? それに若い女性は、それだけでも危険なんだからな」


 ヨハネ教官の私を労わる様な言葉に、それでも身体が瞬間硬直したが、ペチりと頬を叩き、嫌な記憶を底に押し込み


「はい、確かにそうですね。自分の立場を考えたのなら、狙われやすいと言うのも、納得できます。カイザー、エーデル、ヨハネ教官、ありがとうございます」


 私は、前世や、転生してからの今までの嫌な記憶が浮上して来るのを、懸命に抑え込み、蓋をしなければならなかった。



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