26
何度もハンマーでぶん殴られるかのごとき衝撃に、思考力が飽和状態である。
それでも、今理解できている事を整理しないと。
幸い、私一人で考えなくても良い、のだと思いたいのだが……
「あの、ちょっと整理してみても良いですか? 間違っていたり、付け足しがある場合はおっしゃって下さい」
私の言葉に、彼女は肯いた。
「分かりました」
「えっと、この世界に類似したのか、ゲームに類似したのかは分かりませんが、この世界と似通った設定のゲームがあった。そして攻略対象者は、フリードリヒ、ギルベルト、フェルディナント、エドヴァルド、イザーク、シュテファン、ロタールの七人。そして主人公はエリザベート。私、エルザは主人公のライバル、というより悪役。それでグッドエンドだと、シュヴァルツブルク公爵とエルザは殺される。これで合っていますか?」
私が回らない頭で、何とか整理した事を正しいのか訊いてみた。
「はい、それで大丈夫です。付け加える事は、そうですね、ディルクというエルザの執事ともエンディングがある、という事でしょうか」
メモを見ながら言う彼女の言葉に、また眩暈を覚えた。
「あの、ディルクも、攻略対象なんですか?」
彼女は難しい顔になりながら
「攻略対象、と明確には言えない感じなんですが、ディルクとのエンディングが一つあるんですよね。何というか、隠し、というか、執事属性が好きな人へのサービス、というか、難しいんですが……」
「どういったエンディングか伺っても?」
私の問いに彼女は眉根を寄せながら
「あのですね、彼は奴隷として売られていたところを、エルザに救われるんですよ。で、エルザを主として仕えている。主であるエルザが亡くなって、無気力になっているところを、エリザベートに拾われ、彼女付きの執事になる、って感じだったと思います。フリードリヒのルートの派生でしたね、確か」
……奴隷として売られていた、って、それって、有り得た事だ。
そして私は、ディルを家に置いてくれと頼み、彼は私付きの執事に成るべく修行していた、というかしている。
紫系の瞳の持ち主であるから、皇妃候補の私の執事として更に教育されていた、はず。
――――知らない内に、私はゲーム通りに動いていたのだろうか……
「……先程おっしゃっていましたが、エリザベートが平民になった事の、何が気に掛かっていたんですか? 第三皇子殿下夫妻が私を陥れようとしたかもしれない、という事以外で何かありますか?」
衝撃的過ぎて色々麻痺状態の頭を何とか動かし、疑問に思った事を訊けた、と思う。
「何と言って良いのか……。類似している世界なんですけれど、違いはある。だというのに大事なイベント、というか事件は、必ず同じ年齢位に起こっているな、と思ったら、怖くなって……」
ああ、そうだ。
確かにそう。
「つまりですね、上手く言えませんが、この世界に来た時点では、もしかしたらの未来のありえる出来事に過ぎない、と思っていたモノが、ゲームの内容と同じ様な何らかの強制力というか、実行力とでもいう力が働いているのではないか、そう思って、とても怖くなったんです……」
彼女の言葉を聴いて、漠然とあった不安が、形になる。
「ディルクの件も、私、彼を家で面倒みれないかって、父に頼んだんですよね……」
彼女の顔が険しくなる。
「ディルクって、確か、この世界でもエルザ様が見つけた、でしたよね、そういえば……」
「私があの時一緒に連れて行ってくれと頼まなければ、もしかしたら奴隷として売られていたかもしれません。――――奴隷として売られた後、私と出会う、っていう事もあったのかな……」
私の思わず出た呟きに、
「――――多少差異はあっても、結局の所、ゲームの展開に類似するって、とても怖いですよね……」
彼女の思わずという感じで零れ出た言葉に、共感してしまう。
それと同時に、震えも走るのを抑えられない。
「ええ、とても怖いです。何をしても、未来は変わらないのでしょうか……」
私の言葉を聴き、彼女は表情を思案気に変え、目が迷っているのが分かる程、悩みながら私を見る。
「あの、本当は、訊いていいのか、凄く悩む、というか、申し訳ないというか、ああ、もう! 訊きます。これ次第で、結果が変わると思うんです。――――攫われた時、身体の方は、女として、その、無事、でしたか?」
一瞬、前世の事が頭を過り、全身が硬直した。
大丈夫だ、大丈夫。
あの時、勇が助けてくれたから、未遂だった。
でも、勇は……
ってそうじゃない、今考えるのは前世の事じゃない。
うん、今回も無事だった。
そう、無事、大丈夫。
深呼吸を一つ。
……落ち着いた、と思う。
「――――無事でしたよ。大丈夫です」
私の言葉に、息を止める位緊張していた彼女が息を吐く。
「……そうですか、良かった。――――これで、もしかしたら最悪のフラグは折れたかもしれない!」
彼女の言葉に首を傾げる。
「最悪のフラグ?」
「ええ。シュヴァルツブルク大公爵が、第三皇子殿下夫妻に復讐するフラグ、ですよ」
言われて気が付くとか、本当に頭が回っていない。
「ゲームだと、その、エルザは、何ていうか無事じゃないのですか?」
「はっきりと言われている訳ではありません。十八禁のゲームじゃなかったですし。ただ、匂わせてはいましたね。設定資料集で、娘を身も心もめちゃくちゃにした復讐って載ってますから、まあ、察せられますよね……」
彼女は沈痛な表情で言うのだが、成程、と思った。
確かにそれだと、お父様は復讐するかもしれない、と思ってしまった。
何かあると、いつも本当に心配してくれるのだ、お父様は。
だから心配を掛けない様に頑張っているのだが、あまり上手くいって無いっぽい感じが、ちょっと気にしている。
忙しくても、出来るだけ私との時間を持とうと、凄く頑張っているらしいのは、何となく分かるのだ。
特に私が事件に巻き込まれた後とかは、自分も忙しくて休む暇がないだろうに、暇を見つけては通信機で連絡してくれたり、私の好きそうな物を何か買って来たりと色々気を使ってくれているのだ。
「つまり、私達父娘が処刑されるフラグは折れた、とみて良いのでしょうか?」
彼女は難しい顔で悩んでいる様だ。
「エリザベート母娘は平民に落とされましたが、第三皇子殿下も、その妻も生きている……。今は、ですが……」
彼女の言葉に戦慄する。
「もしかしたら、父が第三皇子殿下を害するかもしれない、という可能性はまだある、という事ですか?」
「分かりません。エルザ様を攫う様に指示したのが、第三皇子殿下夫妻かどうかも分かりませんし……。ただ、気になっているのが、陛下は、その、こういう言い方をしたら不敬なんですが、第三皇子殿下に甘い、と思うんですよね」
彼女の言葉を、自分なりに考えてみる。
「それは、第三皇子殿下の妻の件から、ですか?」
「ええ。第三皇子殿下は、その妻絡みの問題を色々揉み消しているという話なんですが、それに特に御咎め無しだったり、幻獣も妖精も得ていない女性を皇族の事実上の妻扱い、とか、かなり第三皇子殿下に対しては色々、その、まあ、甘いかな、と……」
言われてみれば、そうなのだ。
でも、妻がらみの問題、第三皇子殿下、揉み消していらしたんだ……
「だとすると、第三皇子殿下に何らかの危害を加えた場合、必要以上に危険、という事でしょうか。勿論、皇族に何かするなんて、それこそとても恐ろしい事態になると思いますが……」
彼女は深刻そうに肯いた。
「ええ。ゲームよりもこちらの世界の方が皇族に危害を加えるなんて、とても恐ろしいです。ですが、シュヴァルツブルク大公爵は、エリザベート母娘を平民に落としている。これは、ちょっと不穏だな、と思いまして……」
「平民に落とした件だと、父は、筆頭大公爵としての務めを果たしただけ、な可能性も高いと思います。リューネブルク家の事とか、他にも問題をドロテーア様が起こしていたのなら、処置を奏上するのは父の役目ですし」
私の言葉に、彼女は思案気になり、肯いた。
「確かにその可能性も高いですね。筆頭大公爵なら、当然と言えます。だと怖くなるのは、強制力、ですね。どういう過程をたどっても、結末は同じになるかもしれない、という……」
そう、それだ、それが怖い。
どうしたら、良いのだろう……




