サスケと化け物
リンはすぐに再登場させます
「あ、あの〜」
男は俺の行くべき所を知っているような態度で、早歩きで歩く。
男はなるべく人目につかないような道を選びながら、何か目的を持って進んでいる様だった。
結局この人に付いていく事しか選択肢が無かった俺は、男の細くて広い背中を見ながら考える。
「帰るべき所」と言われたが、彼はリンの親戚か何かなのだろうか、それとも元の世界に俺を帰す方法でも知っているのだろうか。
まあそんな馬鹿な事はないだろうな。
そもそも何も説明していないしされてもいないから、俺がリン(の父)に拾われた事も、異世界人であることも知りようがない。
「質問があるなら歩きながら言え」
何とも無愛想な人だ、こちらの目を見て話す暇など無いという事か、それとも話をする価値もないというのか、それともシャイなだけなのか。
「じゃあ・・名前を聞いても? 」
流石に名前も知らない者についていくような馬鹿ではない、出来れば身分とかも聞きたいのだが、この男が答えてくれるとは思えない。大体身分自体はおおよそ予測出来る、腰に差さった武器、そして袴、おそらく兵士なのだろう。
いや、『武士』か『侍』といった言葉を使った方が良いだろうか。
その男は立ち止まり、面倒くさそうに振り返る、初対面ぶりに俺と男の目が合う。
「名を聞く時は自分から名乗れ、礼儀も知らんのか、小僧」
いや、それを貴方が言いますか。
ここまで俺に礼も何も示していない男にそう言われるのは流石の俺も少し不快感を感じる。
それとも俺は礼を払う必要もない下の存在だと見下されているのだろうか、その可能性は十分に高い。
まあそんな事を指摘出来る状況でもないか、俺は小さい溜め息を一息つく。
「誠といいます、二階堂誠」
「マコト、ね、悪くない名前だ、俺はカンナヅキ・サスケ、サスケで良い、よろしくな 」
柄にも無く宜しくと言った男は、口角を片方だけ上げてニヤリと笑う、これがこの男の、サスケなりの愛想というやつかもしれない。
まぁ、そんな事なぞ一片なりとも考えていなかった俺は、その不気味な笑みを見て一層とサスケへの不信感を高めるだけだったのだが。
サスケ一瞬で無表情に戻り、そして少し経つと俺から目を離し、何か真剣な顔をして周囲を見渡した。
気付くと俺とサスケ以外、人はいなくなっていた、ここは・・・・住宅街の中だろうか。
一分が経ち、二分が経った、何かあるのだろうか、俺には風の音だけが聞こえるだけだ。
サスケは変わらず真剣な顔持ちで遠くを見つめている、一歩たりとも動かず、一言も言わない。
我慢の限界に達した俺は、サスケに問いかける。
「あの、サスケさ・・」
「しっ、・・・・静かに」
「ん」と言おうとした瞬間に俺の声は遮られる。
少し間が空いた後、サスケは口を開く。
「そこに居るんだろ、出て来いよ、化け物」
サスケは住宅の屋根の一角を眺めながら叫ぶ。
化け物? 俺は小首を傾げる、サスケの視線の先を眺めてみるが、化け物なんて俺の視界には無い、見えるのは屋根と空だけだ。
もしかしてこの人は『そういう人』なのだろうか、俺は少し不安になる、こんな人についていって良いのだろうかと。
俺はサスケの方に目を向き直し、彼を観察していると、サスケの視界の先の方から何とも言えない様な声が聞こえてきた。
「見つかってしまいましたかぁ」