異世界転移という事
昨日見た、奇妙な夢、やけにリアル過ぎた夢、今思えばあれは現実だったのではないか、と今更俺は思った
いや、今まであの悪夢は現実であったことに薄々気付いていたのかもしれない、ただ俺のそれを脳が認める事を拒否していたのだ。
確かに登校中、裏道に入った後、俺は闇に飲まれた。
暗闇の中で俺は、何処かに飛ばされてしまったのだ、正確には、クロガネ村に。
そしてここにいる少女は、県や市といった事を知らず、村の名前だけを俺に教えた。
もしかして、これは俺が、そして俺の父が夢見ていたタイムスリップなんじゃないか?
このリンという少女の服装やこの家の構造から、恐らく俺は 江戸時代辺りに来てしまったのだろうと推測する。
俺は淡い期待を胸に抱く。
もしタイムスリップだとしたら、こんなに嬉しい事は無い、俺はついに本の中の世界に入る事が出来、現実から逃避する必要はもう無くなったという事なのだから。
半信半疑になりながらも俺はこれがタイムスリップであるという確証を得るためにリンに質問した
「ところで、和暦で今年は何年になる?」
「和暦って、何? 今年はダイミョウ暦で126年になるけど?」
ダイミョウ暦? また聞いたことの無い単語が出た、クロガネ村は知らなくてもおかしくはないにしろ、世界中のあらゆる暦の名前を暗記している俺がダイミョウ暦とかいうやつが分からないのはおかしい話だ。
自分のタイムスリップ説が即座にリンに否定されたような感じがして、また俺はうんうんと唸りながら悩む。
タイムスリップでは無いのか・・・? それでは一体何なんだ・・。
悩み切った末、俺の頭に今までとは違う考えが浮かぶ。
それはこの世界が異世界である可能性だ。
これは俺が純文学だけでは無く、ライトノベルも多く読み漁っているからこそ推測出来る可能性であろう。
今までの出来事を振り返る。
突然の転移、メインヒロイン、ぼっちの陰キャ・・
思えば全てがよく出来すぎている様な気がした。
「ごめん!! すぐ戻るから!!!!」
「え!?」
思い立ったら即行動、俺は布団をリンに向かって投げ出す様に立ち上がる。
リンは驚いたような顔をして、すぐに襖を開けて飛び出していった俺を何も出来ずに見送った。
俺は一瞬家の中で迷子になりそうになりながらも、この家の間取りを一瞬で記憶する。
しかしこの家は特に豪邸とも言えない、1階建てで部屋は数個あり、リビングと呼ばれそうな所で囲炉裏が掛けてあっただけだった。
俺はすぐさま玄関を見つけ、何かに引き込まれる様にしてそこから飛び出す。
リンが引き止めるような声を上げたが、なにを言っているのかまでは聞き取れなかった。
後で謝っておいた方が良いだろうか。
そして扉を開けて飛び出した俺の目にはにわかには信じ難い光景が広がっていた。
それはまるで安土桃山から江戸時代の日本を思わせるような城下町、数え切れない程の人々が忙しなく動き、時に立ち止まって話をして、時に物々交換や貨幣を使っての取引が行われている。
否、そこにいた「人々」は人間ならざるものもいた、2足歩行で歩く兎、法被を着た巨大蛙、おでん屋をやっている狐、一見ただの人間に見えるが猫耳なる物を生やした者・・・・
いわゆる、俺の世界ではあり得ないモノノケとか妖怪とか呼ばれる者達もそこにはいたのだ。
俺はそういった類の物はあまり信じないタイプだった、そういった物は想像で作られた産物であると割り切っていたのだ。
しかし、今目の前にある景色は、俺の今まで生きてきた常識とやらをぶち壊してくれるには十分だった。
今まで半信半疑だった俺の心は確信に変わる。
俺は、異世界に転移してしまったのだ。