挫折と目覚め
どれぐらい歩いただろう____
もはや走る気力さえ無くなった、推測するに何十時間は経っただろうか、歩いても歩いても見えてこない光、何処までも続く闇は、俺の正気を失わせるには十分過ぎた。
意識が朦朧とする、疲労感が俺の体を襲い、これ以上歩いても何も意味が無いと訴える
結局俺は立ち止まり、少し座って休息を取る事にした____
目を覚ますとずっと暗闇にいた所為か、痛い程眩しい光が両目に差し込んでくるのを感じた。
「夢・・か、」
やけにリアルな悪夢を見たな、と思いつつ目を光に慣らす、本ばかり読んでいる俺にとって悪夢も現実ではあり得ないぶっ飛んだ夢も日常茶飯事だが、こんなに嫌な思いをしたのは恐らく初めてだろう。
「痛っ」
仰向けになってしばらく見た夢を思い出していると、突如両足に鋭い痛みを感じる、何処かに打ち付けた覚えは無いし、原因不明の激しい筋肉痛だろう、覚えのない筋肉痛というのはよくある事だ、知らず知らずの内に足の筋肉を無駄に使ってしまったのだろう。
そんなどうでもいい事を思いながら、眠気を感じた俺は二度寝に入ろうと目を瞑った。
「ん?」
寝ボケていたせいか、俺は気づかなかった違和感に気付く、待て、違和感どころの話ではない、間違った事だらけだ。
なんで俺はこんな単純な事に気付かなかったのか。
天井が、木目なのだ。
木製の柱が剥き出しになり、昔の寺とかを想像させられるような作りになっている、普通なら、それがどうしたと思うだろうが、これは俺の家とは全く違う作りだ、俺の家はコンクリート製だし、天井は真っ白のはずだ、祖父母の家に泊まった覚えは勿論ない。
もう一つ気付いた事がある、俺は今敷布団で寝ているという事だ、自分の家はベッドしかなかったはずだし、こんな質素な布団では寝ないだろう。
「ここは、どこだ・・・・?」
俺は少々混乱しながらも、少しの勇気を出し、思い切って重い腰を上げて、周りを見渡してみる事にした。
そこは狭い部屋の一室で、小さな棚と襖、あとこの敷布団がある以外は他の物は見当たらない、和室なのだろうが、畳は無いらしい、言うまでも無くこれは俺の部屋ではなく、俺の家でもないと断定する。
ではここは何処なのか?
自分の置かれている状況を整理する。
俺の記憶が正しければ、昨日カレンダーを見たとき十月十一日だったから、今日は普通に考えれば十月十二日だろう。
俺は十月十一日、普通に本を読みながら本と一緒に自分の部屋で眠りについたはずだ。
可能性としては、拉致されたと考えるべきか、それ以外の理由は正直心当たりがない。
まぁ、拉致される心当たりもないが。
そんな事を考えている内に段々不安感を感じてきた、情報が少な過ぎる、どうすればいいのか分からない。
布団から動けないでいる俺は冷や汗をかいていた。
取り敢えずここから動かないと、とは思っているのだがなかなか体が思うように動かない、それは精神の問題か、肉体の問題か。
何も出来ずにボーッとしていると、俺の第六感が誰かがこの部屋に向かっているのを感じ取った、ドタドタという忙しない音と共に。
その音はたちまちの内に大きくなり、ついに俺の部屋に着いたかと思うと、ぴたりと音は止み、襖には人間型の影が見えていた。