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真夜中の蝉   作者: the August  Sound ―葉月の音―
第一章 「真夜中の蝉」特別捜査班設立
5/5

第五話 強制捜査

トントン、と聖は司法大臣執務室のドアを叩いた。

「三条四等司法統監補です。」

ドアが開き、入りたまえ。と部屋から瑞野の声がした。

「失礼します。」聖はそう言いながら部屋へ入ると、瑞野の座っているデスクセットの前に立った。

「どうしたのかね。横須賀の件についてはすでに報告書に目は通したが。」瑞野が尋ねる。

「大臣にお尋ねしたいことが。」

「なにかね?」

「大臣は『真夜中の蝉』という組織をどのように見られていますか?やはりテロ集団でしょうか。」

「なぜ私に尋ねる?」

「言うまでもなく、あなたが『テロリズムとアナーナキズムの融合による国家転覆の危険性』を作られたからです。司法省の天才官僚としてヒントをください。」聖はそう言うと頭を少し下げる。

「ははは。なにもそこまで殊勝な態度をとらなくてもいいだろう。私の考えを述べればいいんだな。」

「はい。お願いします。」

「まず『真夜中の蝉』という組織が何を目的にしているのか明確に分からない以上、日本連邦に対する攻撃を行う武装集団としか言えまい。彼らが言う人の生死についてだって信仰のようなものとは考えにくい。あくまで山車としてだな。」

「ではテロリストだと?」

「いや。そうとは断定できない。」

「持ちだしている思想が本質とかけ離れているなら、ただ破壊活動を行うテロリストなのでは?」

「その理屈でいくと、イスラム過激派について明確な説明が付かない。少なくともイスラムの下級構成員は信仰に基づいている。」

「では『真夜中の蝉』の下級構成員も何らかの信仰に近いものに基づいていると?」

「その可能性もあるな。ただ残念ながら、今まで『真夜中の蝉』の構成員を逮捕することはできていないから調べようがない。あくまで仮説だ。」

「そうですか。」

「ああ。だからこそ、『真夜中の蝉』構成員の逮捕は私の望むところではある。もっとも、市民や職員を危険にさらしてまでさせるつもりは毛頭ないが。」

「大臣。」

「なにかね?」俺は少し間をおいてから言った。

「『真夜中の蝉』は、大臣がこのレポートで書いた、「組織x」に当たるのではないでしょうか。」

―組織x。これは、瑞野が自らのレポートの中で触れた、テロリズムとアナーキズムの融合した軍事組織に付けた呼び方である。あくまで今まで存在したことがないので、そのような呼び方となっているのだ。そして、聖は、先ほどまで、あのレポートを読み返した結果、「真夜中の蝉」が「組織x」に該当するのではないかと考えたのである。

「なるほど。君が私に答えさせたかったのはそういうことか。」瑞野が言う。

「ではなぜそういう風に考えたのか聞かせてもらおうか?」

「はい、とはいっても大した理由じゃありません。ただ、『真夜中の蝉』はある種の二重構造なっているかもしれないと思ったのです。」

「ほう。」

「『真夜中の蝉』が天命を持ち出すのは、天という人間を超越したものを出すことで、組織に狂信的で従順な下級構成員を集め、生存の可能性が低い作戦に動員するため。ただの宣伝の文句です。アットホームな職場ですと言って社員を募集するブラック企業のように。」

「面白い。続けたまえ。」瑞野が聖の冗談に笑う。

「しかし、『真夜中の蝉』の指導者級は全くを持って天命ということについては考えてはいないでしょう。もし、天命を考えているならば、このように人をむやみやたらに攻撃するとは思えません。命を奪うという行為は、天命を無視するものでしょう。指導者級の目的は国家打倒、あるいは国家への復讐です。それに、『真夜中の蝉』の最高位級の指導者に至っては、もはや個人への復讐のために『真夜中の蝉』を動かしているのかもしれません。まだ確証はないですが、その手掛かりになりそうなものは見つけました。」

「ほう、なるほど。大体私の見立てとは同じようだ。しかし、君の論理に一つ別の視点を与えようか。君は人をむやみやたらに殺すのは天命にそむくことであるから『真夜中の蝉』のとなえる天命については、指導者階級は全く考えていない、と言ったね。」

「はい。」

「しかしこういう別の考え方もあるのではないかな。そこで殺した人と言うのは、あらかじめそこで『真夜中の蝉』の戦闘員に殺される天命であった、と考えていると。」聖は瑞野の言葉に愕然とする。

「それはすなわち、『真夜中の蝉』の指導者は狂信的な運命論者であると?」

「あくまで一つ可能性だがな。ただ物事はいろいろな見方がある。『真夜中の蝉』の実情がわからない以上一つに絞り切るのは時期尚早なのではないかね?固定概念は自分の足を引っ張ることにもなる。」瑞野は続ける。

「確かに私も『真夜中の蝉』は私があのレポートに書いた『組織x』に近いとは感じている。ただどうも解せないのは、『真夜中の蝉』がやたら司法省に損害を与えてくることだ。普通に考えてみて、あれほどの装備、練度、人員を持っているのに、連邦議会や総理官邸を襲撃せずに、一般の商業施設や企業施設を中心に襲撃するのはおかしいのではないかね?その度に司法省は人員損害も警備体制への批判も受ける。ただ、政府を倒すことを目指すなら、司法省一つを攻撃してもしょうがない。作戦立案をするのはもちろん指導者級だろう。そしてその指導者級が政府打倒を目指すアナキストであるならば、政府中枢を狙うのが妥当なのではないかと思うのだ。」

「それは、連邦議会や官邸を襲撃して、占拠もしくは破壊できるほどの戦力がないだけでは?襲撃したはいいが下級構成員が全滅し、その上大した損害を与えられなければ戦術的な意味がないでしょう。」聖は答えた。普通に考えてみてそうなのだ。というのも、連邦議会や総理官邸のある永田町立法区画は、治安維持局の警備隊はもちろんのこと、連邦陸軍駐屯第1師団第1旅団もしくは同第2旅団のどちらかが必ず常駐しており、さらに局地戦闘団第3中隊も警備任務にあたっている、連邦内随一を誇る警備力なのだ。そんなところに、いくら練度が高くそこそこな火力があったとしても攻撃するのは無謀だ。

 それに、と聖は続けた。

「それに、司法省を攻撃し、国民や政府内部からの不信感を募らせることで、国家内部の治安維持を担当する司法省や治安維持局を機能不全に陥れるのは、『真夜中の蝉』にとっては都合がいいはずです。」

「いや、それは違う。」瑞野は言った。

「永田町を攻撃することは成功失敗に関係なく、十分大きな意味がある。確かに君の言う通り戦術的には成功するはずがないだろう。しかし、その後再び戦力を整え攻撃を再開するならどうか。中長期的に見る戦略的な面では国家そして国民に与える影響は計り知れない。永田町で銃撃戦が発生、爆発も起きているなんてなったら、国民は『真夜中の蝉』は国とさしで戦争ができるほど強大な組織だと勘違いするし、襲われた議員や閣僚も再び襲われるのではと腰が引けてしまう。また、司法省を攻撃することは理にかなっていないのは、下手に司法省の価値を下げると、国内の治安維持に連邦軍の駐屯局が対応することになる。どちらのほうが戦力があるかといえば言うまでもなく軍だ。わざわざ敵を強大にするのはおかしいだろう。ところで君は『真夜中の蝉』の最高指導者は個人的な復讐なのではと言ったね。」

「はい。」

「私もそれを考えていた。それならば司法省を攻撃する理由になるからな。そこを中心に捜査を進めていってくれ。」

「了解しました。ですが、まずは直近の危険を取り除かねば。報告書にも記載しましたように、横須賀未整理区画の強制捜査の許可をお願いします。」聖はそう言って頭を下げる。

「ああ。部隊編成と関係省庁部局への根回しは任せたまえ。」瑞野はそう言うと、すぐにパソコンで作業を始めた。



―3日後司法省本部地下駐車場―

「おはようございます。」聖が先に知らせておいた集合場所に赴くと、班の全員が先に集まっていた。

「おはよう。」聖もそう答える。

「うちの班はもう全員準備できてます。」翔輝が言った。

「了解。じゃあ今日の作戦の再確認をしよう。」聖がそう言うと、班員全員が集まってきた。聖はホログラムを作動させて未整理区画の地図を出す。

「この地図はもうみんなにも共有されてると思うが、この前ヤンさんに貰ったやつをデータ化したものだ。現時点で一番信用できる地図だからこれに従って行動するように。ヤンさんとチャンさんにはもう連絡してある。多分チャンさんはそろそろこっちに着くと思うが。」聖がそう言っているところにチャンがやって来た。

「すいません。お待たせしました。」

「いえいえ。こちらも今作戦の再確認をし始めたところですので。」

「ドンの方は万事うまくいったようです。ロシア人会の協力も得られ、この3日間うまい具合に封じ込めていると。」

「ご協力ありがとうございます。今日も案内お願いします。」

「はい。あと確認したいのですが、今日私は銃の携行は認められていますか?」

「その件ですが、一応許可は下りています。ですか、銃器は5.56ミリ以下の拳銃に限り、また使用についても正当防衛の成立する場合においてのみです。それでもよろしいでしょうか?」

「十分です。ご配慮ありがとうございます。」チャンは頭を下げた。

「よしじゃあ話を元に戻そう。」聖は全員に言う。

「今日の俺らの仕事は同行するAOTとSFPLがマフィアの地域を制圧した後、SITとともに現場に入り、密入国した外人傭兵のことを調べる。十中八九『真夜中の蝉』のアジトだがな。できる限り情報を集める。ただ、確実に外人傭兵は抵抗してくるし、マフィアだって撃ってくるかもしれない。極力戦闘は特殊部隊に任せるが、万が一敵がいたら先に撃て。深月は指揮車でバックアップを、それ以外は全員現場に入るぞ。」

「了解。」

「それじゃあ全員乗車。出発しよう。」聖がそう言うと全員車に乗った。

「三条四等司法統監補」聖が車に乗ろうとすると呼び止められた。

「今日同行させていただきますAOT第2中隊隊長衣川諒―いがわ りょう―二等司法統監補です。今日は宜しくお願いします。」

「こちらこそ宜しくお願いします。」聖は応える。

「今日の同行する3つの特殊部隊と東京第4機動隊の統合指揮は私に一任されていますが、基本的にはあなたの指示に従うつもりです。」

「ありがとうございます。」

「地図を見る限りかなり地域の制圧には時間がかかると思いますし、苦戦すると思います。万が一敵を撃ち漏らした時は」

「分かっています。自分の身は自分で守ります。」聖がそう言うと、衣川は

「さすが品川の英雄ですね。」と笑った。



横須賀未整理区画は司法省の大部隊が来たせいで騒然としている。時折、治安維持局のパトカーや装甲車に石などを投げようとする者もいるが、それを中国人会やロシア人会の構成員が取り押さえている。

「まあ予測はしていたが、、、本当に強制捜査になりそうだな。」聖は外の様子を見ながら言う。

「いまさら何言ってるんすか?そのための特殊部隊の護衛じゃないすか。」隣でパトカーを運転する慎が言う。

「そりゃそうなんだけどさ、、、。またドンパチに巻き込まれそうでな。」

「なら聖さんは車の中でガクガクふるえながら制圧できるまで待ってていですよ。」慎がニヤニヤしながら言った。

「お前みたいなバカがいるのに俺が行かなかったら誰がお前の目付けすんだよ。」聖はそう言いながら慎を軽く肘打ちした。

 

 司法省の車列は旧久里浜7丁目の海岸線まで直進し、そこから開国橋を渡って旧久里浜2丁目に進入していく。今回の強制捜査に参加する人員・特殊装備をまとめると、

制圧担当部隊

AOT第2中隊:50人(内5人狙撃班)、40ミリ機銃搭載機動装甲車2台

AOT第一航空隊:30ミリガトリング砲搭載ヘリ1機

SFPL第1群:30人(内5人狙撃班)、40ミリ機銃搭載機動装甲車3台、76ミリ多目的砲塔搭載装甲車1台

東京第4機動隊3個小隊:30人


捜査部隊

治安維持局「真夜中の蝉」特別捜査班(三条班):6人

SIT第3中隊:50人(内5人狙撃班)、20ミリ連装機銃搭載装甲車1台

東京第4機動隊2個小隊:20人


警備・予備隊

東京第4機動隊1個中隊5個小隊:50人


である。そこにさらに周辺警備部隊として、近隣の横須賀署、横須賀中央署から一般職員も派遣されており、また、治安維持局第1航空隊からも上空監視支援に非武装ヘリ1機、非武装ドローン3機が派遣されている。その上、連邦軍の横須賀基地に駐屯している陸軍駐屯第11師団第1旅団第2連隊下の第1大隊第5中隊(総員400名中通常配備200名)にも緊急時に即応できる即応準備命令が出されており、海軍陸戦隊特殊舟艇隊第3中隊80人は乗船待機命令が下されている。これほどまでに戦力が整えられた背景には、連邦政府および司法省が「真夜中の蝉」の戦力をかなり危険視していることと、聖がマフィアや外国人会入り乱れての大規模市街戦になることを防ぐための措置として提案したことがある。これだけの戦力を整えれば問題ないだろうと聖は車列を眺めながら思っていた。しかし、この後どのような混乱がこの未整理区画で発生するのか聖には知る由もなかった。


 聖の電話に電話がかかってきた。ヤンからだ。

「もしもし?」

「どうかねそっちの様子は?」

「おかげさまで平穏無事に未整理区画を通らせていただいていますよ。」

「そりゃあよかった。俺も働いたかいがあったてもんだな。」

「ありがとうございます。」

「礼には及ばねえさ。それより気になることがあってだな。」

「はい。」

「お前らが司法省を出たころかな?マフィアの野郎どもが開国橋の橋げたでなんか作業してたんだよ。奴らがいなくなった後にうちのやつらを行かせて調べさせたんだが、何にも出てこなくてだな。心配はいらねえだろうが、まあ一応念のために気にしとけよ。」ヤンの言葉に聖は反応する。

「ありがとうございます。すぐに全車に無線を入れます。」

「それと今日うちに寄ってくか?いい酒が手に入ったんだが。」

「あー。伺いたいところですが、今日はちょっと厳しいかなあ。」聖はそう言ったがヤンからの返答がない。

「もしもし、もしもし?ヤンさん?」

「も、、、しも、、、聞こ、、、か?」ようやく返答があったがかなりかすれかすれで、しかも直後に切れてしまった。


「おいおいなんだなんだ?」聖は切れた電話を訝しげに見ながら言った。

「どうしたんすか?」慎が聞いてくる。

「急に電波が悪くなって電話が切れたんだよ。」

「ここら辺はそんな電波状態悪くないはずですよ。」後部座席に座るチャンが言う。

「慎、とりあえず全車に無線繋いでくれるか?テストも兼ねてヤンさんからもらった情報を伝えたい。」聖が言うと、慎が了解と言って操作をする。

しかし—

「あれ、、、ダメだな。全車無線システムでの通信不可です。」

「やはりか、、、。やばい気がするぞこれは。」聖が言う。

「確かに臭いますね。」チャンも同意する。

「特殊部隊用無線に入って伝えよう。慎、繋いでくれ。」

慎が繋ぎ終えるとOKと言うように頷いた。

「ナイト00(制圧部隊指揮車)、こちらケルベロス00(聖の乗る車両)衣川二等司法統監補、取れますか?おくれ。」

「こちらナイト00。衣川です。通信状態がおかしくなってますね。」衣川がそう言う言葉も所々ザッというノイズが入っている。

「はい。とりあえず今後の連絡は全て特殊部隊無線で行うように全車に伝えましょう。それとですね、気になる情報が入りまして、今から我々が渡ろうとする開国橋の橋げたでマフィアが先ほど何か作業していたようなんです。何か仕組まれているかもしれないので十分に警戒してください。」

「了解しました。では周辺警備のために出てきてくれてる横須賀の応援を先に渡らせましょう。何かあった時に下手に特殊部隊が巻き込まれるよりはいいでしょう。」

「そこの判断は制圧部隊に任せます。我々は所詮そのことについては素人ですから。」

「了解。」

衣川の指示に従って全車の順番が入れ替わった。先頭に横須賀地区の応援のうち20人(パトカー7、機動装甲指揮車1、前面強化型装甲車1)が進み、50メートル間隔をあけてSFPLが重火力車両を先頭に固めて進み、AOT、制圧部隊の機動隊と続く。そこに100メートルの間隔をあけて捜査部隊がSIT、三条班、機動隊と進んでいく。残りの機動隊は最後尾で入った後、開国橋の渡った場所に橋頭堡を築き応援の部隊とともに万が一の事態に備える構えである。

しかし、別の橋を使うという判断をすることはなかった。ここから混乱に陥っていくとはこの時誰もわかっていなかったのである。


 最初に異常を感じたのは先頭を行く応援部隊だ。橋から先に大量の車両が路駐しているのである。しかもただの横付けではなく、道の伸びる方向に対して車の先頭を90度真横に向けて、一定の間隔をあけて互い違いに止まっている。初めに発見したパトカーから衣川のもとに無線が入ったが、衣川は前面強化装甲車を先頭にして路上の車を押しのけて進むように指示した。それに従って車列は進んで行く。


先頭の車列が橋の2/3を進んだぐらいでそれは起きた。橋の向こう側で発砲炎を確認した直後、橋に砲弾が落下する。着弾した場所にはパトカーが数台いた。着弾した砲弾は爆発というよりもその一帯を炎上させた。パトカーが炎に包まれる。パトカーは前進して退避しようとするが、もう既に火だるまになってしまっていた。対岸から放たれたのは鉄すらを燃やすナパーム砲弾である。先頭集団からの連絡を受けた衣川はSFPLに援護を命じる。同時に上空の治安維持局第一航空隊のドローンに迫撃砲陣地を探させた。敵の迫撃砲陣地に76ミリ砲を撃ち込むのだ。

しかし、ドローンが迫撃砲陣地を見つけ攻撃指示をするよりも早くそれは起きてしまった。突然開国橋が大爆発を起こして崩落したのだ。

その轟音と巨大な爆炎は橋のまだ手前にいた聖たちにも確認できた。聖はすぐに車から降り、橋の方へと走っていく。聖が橋のあたりに着いた時、あたりは騒然としていた。ギリギリ爆発を逃れたSFPLの76ミリ砲搭載装甲車が崩落している寸前の場所から速射をしている。目標はもちろん迫撃砲陣地だ。その他にも40ミリ機銃搭載装甲車が対岸に向けて射撃を行なっていたり、急いでSFPLの狙撃班が近くの雑居ビルの方へと駆けて行く。

聖はまだ何が起きたのか、起きているのか把握しきれていなかったのでとにかく衣川の元へ向かうことにした。衣川の乗る大型指揮装甲車は各部隊からの問い合わせと支援要請でパンク寸前だった。

「ナイト00、こちらソルジャー10(76ミリ砲搭載装甲車)次の攻撃目標の指示をこう。おくれ。」

「ソルジャー10、76ミリ砲の迫撃砲陣地砲撃を継続せよ。」

「ナイト00、目標は達していると認識する。敵の迫撃砲は沈黙しているぞ。ドローンで確認してみろ。」

「ソルジャー10、少し待て。今確認させる。」

「ナイト00、こちらガイド00。敵からの攻撃を受けている!至急応援を!」

「ガイド00。橋が崩落してすぐに応援には行けない。現在SFPLからの40ミリ機銃の支援を行なっている。それからすぐに狙撃班の支援も入る。耐えてくれ。」

「ナイト00、至急応援を!敵はかなりの数だ!このままじゃやられっ、、、グハッ」

「ガイド00、ガイド00!応答しろガイド00!」指揮車のオペレーターの声が虚しく響く。


「状況はどうなっているんですか?」聖は衣川の後ろに立って聞く。

「芳しくありませんね、、、。敵はどうやら開国橋の中にあった水道管だったところにガソリンを入れていたようです。そこに迫撃砲でナパーム砲弾を撃ち込んだ。よって大爆発が起き開国橋は崩落。対岸には応援部隊の前面強化装甲車、機動装甲指揮車にパトカーが3台で計12人が取り残されています。そこに敵はうちよりも遥かに大勢の戦闘員と重火力を集中させてるようです。」衣川の説明で全てが判明した。敵が橋げたで行なっていた作業は旧水道管にガソリンを流し込む作業だったのだ。聖は続けて聞く。

「損害は?」

「SFPL以降はありません。ただ応援部隊は、、、。確認が取れないので。」衣川は言葉に詰まる。

「そうですか、、、。でもいずれにせよ作戦の立て直しが必要ですね。このまま応援部隊を見殺しにすることもできませんし。」

「もちろんです。今考えていたのは夫婦橋から渡って入って行く作戦です。どうやらそちらの方は工作されてないようなので。」

「ならば直ぐに向かいましょう。」

「SFPLは援護のためにここに残して行かないと行けません。AOTが最初橋をに渡ります。次にSITを渡らせて橋を確保します。そして機動隊と三条班に渡ってもらいます。橋を渡ったらそのまま応援部隊の元へ向かい、全火力を持って制圧します。」

「SFPLが抜けるのはキツくないですか?代わりに予備の機動隊とAOTのヘリ支援では役不足ですかね?」

「ヘリはいいとして機動隊の装備では有効な支援ができないのでは?」衣川は首をかしげるが聖には考えがあった。

「機動隊の車載機銃に12.7ミリ重機銃があるはずです。それを外して単射モードにしてヘッドセットディスプレイとスコープを連結させれば支援には申し分ないほどの大型スナイパーライフルになると思うのですが。」

「なるほど。確かにそれで十分でしょう。結構な数の車載機銃がありますし。よしそれで行こう。」衣川はそう言うと機動隊1個中隊とヘリに対して指示を出す。


衣川の新しい指示に従って部隊は迅速に行動を始めた。川沿いの道を行くと敵のいい目標になってしまうので、一度後退してから川沿いから一本入った道までバック走行で後進する。そして再びSFPLの重火力装甲車が先頭になって夫婦橋に向けて走り出す。今度は妨害も攻撃もなくすんなりと橋を渡ることが出来た。橋を渡った場所で最後尾に待機していた応援部隊の残りと分離する。ここの橋の警備を行うのである。

聖が衣川の後ろに立っていると衣川が言った。

「三条さん、私たちもここで別れましょう。」

「どうしてですか?」

「このままズルズル戦闘をしている間に捜査資料になりそうなものを隠滅されたら今日来た意味がないんじゃないんですか?それならここで別れて戦闘はうちで継続し、あなた方はアジトを急襲したほうがいい。こちらとしては興味深い資料を手に入れれば勝ちですからね。」

「しかし万が一私たちが行く場所にこれ以上厳重な対抗戦を張っていたら制圧部隊がいないと先に進めないですよ。」

「それなら軍の待機部隊を呼べはいいでしょう。先に直ぐに入ってこれる場所まで呼び寄せておけばどうですか?」

「わかりました。ならばそうしましょう。」

「制圧部隊の機動隊はお預けします。そうすれば機動隊、SITが各一個中隊ずつ。それなりの戦力になります。」

「お心遣い感謝します。」聖はそう言うと大型指揮装甲車から降りて、自分の車へと向かった。


「ソルジャー10攻撃目標変更。前方の高台。イーグル01(武装ヘリ)敵正面陣地を掃射せよ。」

「ナイト00より各部隊現在の損害知らせ。」

「ナイト00、こちらガイド00。損害報告。全12名中KIA(戦死)3名、WIA(戦傷)3名。」

「こちらソルジャー00、人員損害なし。ソルジャー10の残弾多数。」

「ガイド00、イーグル01、ソルジャー10。こちらナイト00。これよりAOT、SFPLが突入する。30秒間攻撃を中断し、遮蔽物に入れ。」

「ガイド00了解。」

「カウント5、4、3、2、1、ゴー!」

聖の車にも制圧部隊の無線が入ってくる。AOT、SFPLが突入を始めた直後、にわかに開国橋の辺りが騒がしくなった。カービングライフルの連射音に混ざって車載重機銃の重い連射音が聞こえてくる。無線ではヘリや76ミリ砲の支援射撃の指示が次から次へ出ている。

今聖たちはSITを先頭にして未整理区画の道を突っ走っている。所々で小規模な攻撃を受けたが、相手にせず全速力で走り抜けてきた。

「敵の最大抵抗線予想地点まであと5分。指示をお願いします。」深月が無線で言ってきた。

「ドローンの映像ではどれくらいの規模だ?」聖が尋ねる。

「80人ほどです。迫撃砲陣地あり、重機銃、RPGもあると予想されます。」

聖は深月からの情報を考えた。敵はうちの部隊よりも少し少ない。ただ、迫撃砲や重機銃を配備して万全の抵抗線を築いているだろう。素通りするか?いやRPGがある。前から狙い撃ちされてしまうだろう。なら戦うべきか?でもそれで証拠を消されてしまったら、それ以上に死者が出てしまったら。聖が決断を出さないでいると、翔輝が無線に入ってきた。

「班長、意見具申します。」

「どうぞ。」

「特殊部隊出身の私としてはここで叩くことをお勧めします。敵がすんなり通してくれるとも思いませんし、最悪、アジトの辺りで孤立、包囲されることも考えられます。ここは潰してから先に進むべきです。」

翔輝の言葉で聖は決めた。

「よし。じゃあ奴らを潰していこう。ただ、憲渡、お前はプランBに従って動け。」

「了解。」と憲渡が返した。

「プランBってなんすか?」隣に座る慎が聞いてくるが

「それはお楽しみだろ。」と聖は笑った。すると、

「敵の迫撃砲陣地から発砲炎確認!」と深月からの警告が入った。数秒後、ヒュルヒュルという音が上空から聞こえてきたと思った直後、SITの先頭車両の50メートルほど先に着弾し、爆発が相次いだ。


その頃、憲渡はプランBの指示に従い最終準備を進めていた。

「蘆利さん。車は攻撃範囲外のここに止めていきます。動かすときは班長の指示どおりやってください。」憲渡はそういうと黒い革ジャンとヘルメットを着た。

「どこへ行くんですか?」深月は尋ねる。

「ちょっとツーリングして来ます。」憲渡はそう言うと、後部収納庫に折りたたまれていた燃料電池バイクを取り出し、それにまたがった。

「蘆利さん、ハッチ開けてください。」憲渡がそう言うと深月が後部ハッチの開閉ボタンを押す。

「それじゃ、行ってきます。」憲渡はそう言うと勢いよくバイクを走らせ、ハッチから飛び出して行った。


—————————————————――――――—————————————————―――――――――――

「大臣、未整理価格操作部隊が敵と交戦を始めたようです。」

「そうか。」瑞野は治安維持局の事務次官の報告をテレビ電話で聞いた。その手にはルービックキューブが握られている。一面も合っていない状態だ。

「さてまず彼らは一つ目のピースを見つけられるかな。」瑞野はそう言うと、1段目をカチッと回した。


続く

 こんにちはthe August Sound―葉月の音―です。いや~、お久しぶりです。だいぶお待たせしました。って毎回言ってるな、、、。本当にすいません。

 今回からこの章のクライマックスである横須賀強制捜査に入っていきます。どんどんと伏線が出てくるので楽しみにしてください。次の章からは舞台が変わるかも?です。折角第三次大戦後の世界の変化にも少し触れていることだしね。まあどうしようかは2,3個案があるのでよく考えつつ続きを書いていこうと思います。

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