第6話 ギルドまでの道のり
やっとまともな会話が…
魔物に挟み撃ちにされるという想定外のことが起こったが、まだ余裕があると考えたダリルは先に進むことにした。
その後、もう3回ケイブバットの群れと2回ゴブリンの群れを倒したところで集中力が続かなくなってきたため、その日の探索は引き返すことにした。引き返している途中にケイブバットの群れを見かけたが、こちらのことに気が付いておらず、道から外れていたため、慎重に横をすり抜けて帰ってきた。
迷宮から出てきたダリルは、入り口のすぐ近くにいる職員に出たことを伝えた後、迷宮で緊張していた身体と心をほぐすため、街に繰り出した。
街を歩いているといろいろな場所からいい匂いが漂ってきた。そのにおいを嗅いで初めてダリルは自分がおなかを空かしているということに気が付いた。
(うわっ、もう昼過ぎだ。自分の体調の管理も出来ていないとか…。やっぱりまだ慣れていないからどっか緊張でもしているのかね…。)
自分の体の管理すらできていないことに自分であきれながらも何か腹を満たすためのものは無いかときょろきょろと見回してみる。するといい匂いを発している串焼き屋台があったのでそこにしようかと思う店主に話しかける。
「すいません。この肉は何の肉ですか?」
「ああ、いらっしゃい!この肉はうちが専門の業者から取り寄せたランニングコッコの肉さ!しっかりとした歯ごたえと絶妙な油のノリ加減が最高なんだ!たれは先代の直伝で秘蔵品さ!」
店主の誘い文句に惹かれてダリルは三本ほど購入することにした。
「んんっ!これはうまいな。」
歯ごたえはしっかりとしていて油も乗りすぎていない。そんな肉に甘辛だれがしっかりとしみ込んでいて絶妙にマッチしていた。
なお、余談であるがランニングコッコとは物凄く足の速い鳥のことである。羽が生えているというのにめったに飛ばず、走って逃げる姿かろその名前が付いたといわれている。分類的に言うと動物のたぐいである。なぜ飛ばないのかはいまだに分かっていない。
「ごちそうさまでした。また来ます。」
ダリルは買った三本の串焼きを手早く食べ終えると店主に一言言ってからほかの食べ物を探しに行った。
ダリルはその後いくつかの屋台を巡った後、先ほど迷宮で手に入れた魔石を換金しようとギルドの方へと歩いていた。ここらへんになってもまだダリルを見る目が珍獣でも見るような目だったが、もはやあきらめに近い感情を持っていたため務めて無視した。しかし、たとえ視線は無視できたとしても、声をかけられては無視はできそうになかった。
「すいません。」
「あっと…僕ですか。何かご用ですか?」
今まで声をかけてくる人がいなかったため、一瞬自分に話しかけてきたのかどうかの識別が遅れたが、何とか変に思われない程度に返事をすることが出来た。それと同時にこんな自分に何の用だろうかと疑問に思ったりもしたが。
「えっと…ギルドの一だよな?ギルドへの行き方を教えてほしいんだけど…。」
話しかけてきたのは元気が有りそうな少年と眠そうにしている少女、二人がいる中での少年の方だった。
「ええいいですよ。僕もちょうど行こうと思っていたところなので一緒に行きましょうか?」
ダリルは自分に話しかけてきた理由を察するとともに、別に断る理由もないかと思い、一緒に行くことを提案した。
「え!?いいのか?じゃあ…よろしく頼む。」
少年は少し少女の方を向いた後、特に反応がないことを確認してから頭を下げてきた。それにつられて少女の方も軽く頭を下げてきたのを確認した後、言葉使いのわりにしっかりと頭を下げてきたことに感心しながら二人の依頼を引き受けた。
案内をするとは言ったが思えば自分に知らない人をどこかに案内した経験など片手の指で足りるほどの経験しかない。いったい何を話せばいいのか、いや、もしかしたら話さない方がいいのではないかなどと考えながら歩いていると幸いなことにあちらから話しかけてきてくれた、
「ああっと、まず最初にもう一度だけ言わせてくれ。道案内をしてくれてありがとう。俺…じゃなかった僕の方はガナンっていうんだ。隣のこいつは妹のシャロン。もしよければ名前をおしえてほしいんだが…。」
「ああ、すいません。僕はダリルといいます。最近探究者になったばかりの新人ですね。あと口調はあまり気にしない方なので普段と同じにしてくださっても大丈夫ですよ。」
別にダリルは普段の口調にうるさい方ではない。口調というものもその人の個性だと思っているため、気にする必要はないと考えているのだ。
そうダリルが言うとガナンはあからさまにほっとした様子を見せた。
「わりぃな、ダリル。田舎から来たもんでどうも敬語ってもんにはなれなくてな。っと呼び捨てにしちまったが大丈夫か?」
「ええ、問題ないですよ。僕の方もガナン、シャロンと呼び捨てにしてもいいですか?」
「ああ、むしろそっちの方がうれしいくらいだ。かたっ苦しいのは苦手なんだ」
ガナンの方は苦笑しながら返事を返し、シャロンは無言で頷いた。どうやら妹のシャロンは余り話すのが得意ではないようで、もっぱら話しているのは兄であるガナンの方だった。たまに自分に話を振られると頷いたりはしているため、医師の疎通は取れているのだまあ問題は無いか、とダリルは考えていたりする。
どこの食べ物がおいしかっただとかこの街にきて何に驚いただとか他愛もないことを話しているとだんだん話題がギルドのことに移っていった。
「そういえばギルドってどんな雰囲気だった?なんか荒れてそうなイメージがあるんだが…」
「ああ、僕も最初はそんなイメージをもってましたよ。けれど行ってみたら思ったよりも全然荒れてませんでした。おせっかいを焼いてくれそうな先輩探究者もいましたし。」
やはりギルドに対してのイメージはそんなもんなんだなと思いながらいろいろと話を進めていく。なお、ここまで十分ほど話しているが、シャロンの話した回数はゼロである。
「そういえばお二人の職業は何ですか?言いたくなかったらいいですが…」
「ああそういえば言ってなかったな、俺は見ての通り剣士でシャロンは投擲士だ。シャロンの奴はちょっと珍しいからわかりにくかったか。できればダリルの職業も教えてくれないか?服装を見てからずっと気になっていたんだ。」
「魔法使いですよ。それにしてもこの服装ってそんなに変ですかね?」
いろいろな人から面白いだの変だの言われたり道行く人にじろじろと見られ続けてさすがのダリルも気になって来ていたのだ。
「いやお前そりゃあそんなに目立つ格好してたら気になるだろ。」
隣でシャロンが今までにないくらいに頷いていたためさすがのダリルも「そんなに目立つのか!?」と内心驚愕していた。
「そ、そんなに目立ちますか?できればどこら辺が目立つのかを教えてほしいのですが…」
「もうなんていうか…全部?」
流石にその答えは予想していなかったダリルは少しへこんだ。てっきり帽子など部分的なものだとばかり思っていたからだ。
ここでダリルの服装を見てみよう。大きなとんがり帽子を被っていて、前の方には色の違う三本の羽が付いている。そしてふくらはぎにまで及ぶ長いローブを身にまとっており、体中のいたるところに装飾品を付けている。不思議と下品な感じにはなっていないがそれでも男で装飾品を二桁も身に着けているという時点でやはり目立つ。つまりダリルがなぜ目立たないと思ったのかがわからないほどに目立つ格好をしていたのだ。
そうこうしているうちにギルドについたダリルたちは簡単に別れを言ってからそれぞれ別々の受付に向かって行った。
一応書いておきますが、ガナンとシャロンが魔法使いという部分に驚いていないのは余り職業について知らなかったためです。