軽音部
「司、そんなに緊張することないだろ…」
「わ、わかってるけどさ…部活なんて初めてだから…」
「気軽に行こうぜ!なっ?」
昨日のライブの後、僕は軽音部に入ることを決意した。
楽器の事なんて全く考えずに入部届を書いて今、軽音部の部室の前にいる。
「なぁ…ケン、俺なんの楽器もできないのに入部して大丈夫なのかな?」
「はぁ!?そんなのいいにきまってるだろ、今更なにビビってんだよ!」
「いや…だってさ…他の人に迷惑かな、って…」
「お前なぁ…「なになにっ!?一年生っ?入部希望っ!?」」
ケンが何かを言おうとした所に軽音部の先輩であろう男の人がやってきた。
背中にはケンの持っているのと同じような大きなケースが見えた。
身長は僕やケンよりも高い180センチくらいはあるだろうか、
金髪にピアスと進学校では考えられないほど………チャラい!!
そう思って見ていると目があってしまった。
こ、怖い…。
「はいっ!僕達2人、軽音部に入部希望です!
一年の杉田健です!よろしくお願いします!!」
ケンが元気よくハキハキと先輩に100点満点の挨拶をする。
「あ、…ぼ、僕も入部希望…です。よろしく、お願いします。
えっと…冬島司、っていいます…」
なんてよなよなした挨拶だろう。
自分で言っておいて、本当に情けない。
「おぉ、そうかそうか!!
2人も入ってくれるなんて…嬉しいなあ
あ、俺は二年の岩井 明人、一応軽音部の副部長ね!よろしく!」
訂正、全然怖くない。
ケンとなんとなくキャラがかぶっているが、
岩井先輩はどこかおちゃめな感じだ。
ホラー映画とか見たら外見によらず泣きそうなタイプ。
「まあまあ、立ち話もアレだから部室に入っちゃってよ!
話したいことたくさんあるからさ!!」
そういって先輩は部室のドアを開けた。
軽音部の部室は……The普通…だった…。
思ってた以上に広い部室には、長机が3つとパイプ椅子が沢山、
綺麗な字で書き込まれたホワイトボードと壁にいくつかの楽器が並んでいた。
軽音部というから、ドラム?のような機材や
スピーカーみたいなものが沢山おいてあると思っていたが、
楽器があるだけで、他は他の部室となんら変わりない気がする。
「あの…アンプやドラムって置いてないんですか…?」
ケン!よくぞ質問してくれた!
「あぁ、この部室は防音じゃないからね。
音出しやドラムは勧誘ライブをした地下のスタジオでやってるよ
部室は基本的にアンプを使わない練習とか、
ミーティングをする時くらいしか使わないかな」
「なるほど!あの地下のスタジオで練習できるなんてすごいですね!」
「そうだろっ!この高校、進学校のくせにあんなもの持ってるなんて…
毎日でもライブしたいくらいだぜ!!」
「いいですねそれ!僕も沢山ライブしたいです!!
僕、ギターなんですけど早くあのスタジオで音出ししたいです!!」
「おぉ!杉田くんはギター経験者なのか!
俺はベースだから一緒にバンド組めるな!どんな曲きくんだっ!?」
「おぉ!!いいですね!是非、組みましょう!
洋楽から邦楽までなんでも聞きますけど、
最近すごくはまってるのは〇〇って言うバンドで…」
「おぉ!!俺も〇〇いいなと思ってたんだよ!それで…」
………。
……。
…。
僕、帰ってもいいかな…。
ケンと岩井先輩の話している内容が一切、これっぽっちも分からない。
バンドなら僕も結構聞いているはずだったのに。
それにもうバンドを組む約束までしている…
さすがケン。コミュ力モンスター。
僕の存在をかき消してしまうほどに強力なコミュ力。
確かに僕は存在感が薄いと思ってたけど
先輩が全く僕のことを全く気にかけてくれないのは悲しい。
やっぱり僕みたいな引っ込み思案な奴は、
軽音部みたいな華のあるところにはくるべきじゃなかったかな。
「あなた…一年生?」
透き通り凛した冷たく美しい声
振り返るとそこにはあの人がいた。
白い肌に黒い髪、スラっとした手足に大きなギターケースを背負っている。
「あ、えっと…はい」
僕が軽音部に入ると決めた理由…この人と演奏してみたい。
憧れの人であり、僕が…一目惚れしてしまった先輩…。
突然の声を掛けられたから再び挙動不審になってしまった。
心臓の鼓動が手先足先で分かるほどに激しくなる。
ケンと岩井先輩が話している中、僕に話しかけてくれた。
「そう…私は神田有紗。軽音部の副部長よ。
あなた、軽音部に興味あるの?」
この人も副部長なんだ…。
「はい…あのっ!
僕、昨日のライブをm「おぉ!神田さんっ!この2人、入部希望ですよ!」」
ぐぬぅ、もう一人の副部長に声をかき消されてしまった。
もっと神田先輩と話したかったたのに。
「勧誘ライブの翌日に来てくれるなんて、うれしいわね」
そう言った神田先輩は少しだけ微笑んでいた。
可愛い、美人。 僕はもうメロメロだった。
「神田先輩ですよね!僕、杉田健っていいます!
昨日のライブ、ギター超うまかったです!」
「神田さん、こいつギター経験者らしいですよ!初ライブがたのしみですわ!」
「ありがとう杉田君。私だってまだまだよ…?」
「いえいえ、尊敬してます!!先輩みたいにうまくなりたいっす!」
…………。
………。
……。
まただ…。
さすがにもう心が折れてしまいそう。
なんて、凹んでいたら神田先輩がこっちを向いた。
「君の名前を聞いてもいいかな?」
「えっ?…冬島司、です」
「冬島くんね、これからよろしくね」
「はいっ!!こちらこそ、よろしくおねがいします!!」
神田先輩はなんていい人なんだろう…マジ天使。
でも、
ケンは経験者だからいいとして…
ギターやベース、ドラムなんて触ったこともないのに
高校から初心者で、やっていけるのかな…。