街
翌日いつも通りし道程を踏破して街にたどり着いた。
やはりそれなりに栄えているのだろう。
外壁がはられ、関所が作られている。
もしここを武力で突破しようとするならば数個大隊が必要になるだろう。
航空機にとってはこの程度造作もない事だが、外壁というのは意外と厄介だ。
というよりも上から狙われるという事が厄介だ。
以前体調が語っていたが、丘の上にある基地を責めなければならない時に部下の一人がへまを踏んで位置がばれたらしい。
そのまぬけとその周囲にいた人間は機関砲掃射で肉塊に変り果て、敵の接近を悟られたが故に隊長たちは一時撤退を余儀なくされたそうだ。
それと比べると、大砲のようなものがあるこの外壁を歩兵だけで打ち崩すのは難易度が高いだろう。
そう考えながら関所に向かった。
「はいとまれ、あんたは何者だい? 」
「旅人、路銀稼ぎに来た」
「ふぅん、じゃここに名前書いてね。
滞在期間はひと月で、期限を過ぎると罰金。
ただし期限の更新は金を払えば可能だし、一定額以上で永住権も獲得できるから」
「わかった」
差し出されたごわごわした紙に羽ペンで名前を記入する。
物凄く書きにくいが我慢しつつ記入を終えると金属の板を一枚渡された。
銀色のそれは何かが書いてあるわけでもなく、ただの銀板だ。
「更新とかで使うから無くすなよ」
「はいよ」
こうしてあっさりと街に入り込む事が出来たのでまずは適当に露店を見て回る。
宿に泊まろうにも金がないからどうしょうもない。
ある程度見て回ったところで気になる物を見つけた。
ナイフを売る露店だ。
そこには装飾など何も施されていないナイフがいくつもおかれていた。
「これはいくらだ」
「5エル」
「一番高い奴はいくらだ」
「200エル」
「そうか、邪魔したな」
会話を手短に切り上げたところで露店の店主が舌打ちをした。
元より買う気はないし、金もないが客に逃げられたくないなら愛想をよくした方がいいのではないだろうか。
それからいろいろな店を歩き回って、商品価値を確かめた。
最低価格は1エルというらしい。
それを前提にして1エル未満の商品は抱き合わせ、もしくは一山いくらで売買しているようだ。
「こいつを売りたい」
ある程度価格が分かったところで腰の日本刀を引き抜く。
近接戦闘が苦手な私には無用の長物だ。
持ち込んだのは武器屋、ではなく骨董屋とでもいうべき店。
美術品などが置かれていたので持ち込んだ。
「……30エルだ」
「邪魔したな」
30エル、おそらく二日ほど宿に泊まれば消し飛んでしまう値段だ。
「まて50出そう」
「そうやって吊り上げるというのは愚策だ。
得をしようとしているのがすすけている」
「ぐっ……」
「500だ」
店主の顔が引きつるのがわかる。
私自身流石にそんな値段はつかないだろうと理解したうえでの発言だ。
「馬鹿言うんじゃねえ」
「この機会を逃したら二度と手に入らないだろう至高の武器だ。
この三倍はくだらないと思うが」
二度と手に入らない可能性があるというのはうそではない。
あの補給は何時途絶えてもおかしくないうえに、中身があのスーツの気まぐれだ。
あの日本刀だって何のためによこしたのかわからない。
だからと言って500エルというのは少し、いやかなりぼったくっている気がする。
「……300、これ以上は出せん」
「いいだろう、交渉成立だ」
そう言って日本刀を手渡す。
代わりに向こうは銀色のゆがんだ硬貨を五枚ずつ6回に分けて渡してきた。
おそらくこれ一枚で10エルなのだろう。
「二度とくんな」
客に対する態度ではないだろう、そう思いつつも口に出さずに適当に手を振っておいた。
とりあえずこれでいくらかの軍資金はできた。
あとは適当に宿を探して休むとしよう。
そう考えた矢先だった。
「あー! 」
背後から聞き覚えのある叫び声が発せられたのは。