休憩
戦闘から半日進んだところで地図とコンパスを見る。
方角は間違っていない、そう考え後方に視線を向けた。
先ほど男たちは追ってきていない。
「……フラッシュグレネード、残数3。
チャフグレネード残数2。
グレネード残数、4。
……十分だ」
これだけあれば十分な戦闘が可能だ。
ただし小数を相手取る、という条件付きだが。
相手が小隊規模であればどうにかできる自信はある。
不意打ちにトラップ、その他あらゆる手段を使用すれば十中八九勝てる。
だが、中隊以上の規模になってくると勝率はぐんと落ちる。
あらゆる手段を行使して、あらゆる武器を使用して、それでも勝てるかどうか怪しい。
そこに装備の差は関係ない。
数というのは力だ。
たとえ子供であっても20人も集まれば完全武装した大人を組み伏せる事も可能だ。
大隊規模になれば戦う事すらばからしい。
逃走の一手しか残されていない。
もしくはこの身を差し出して命だけは都命乞いをするか……いやないな、私の性格上一人でも多く殺すことを考える。
だとするとトラップと不意打ちでできる限り数を減らすか、身体を使って楽しませて酒でも飲ませてある程度の行動力を奪ってから殺すか……どちらにせよ大所帯相手には勝てないだろう。
「補給……」
ふと装備を確認しながら思い出した。
昨晩は補給は来なかった、だが今夜はどうだろうか。
おそらく例として補給をしたから昨晩0時の補給は見送られたのだろう。
そればかりは今晩にならないとわからないことだが期待していい物か。
何が運ばれてくるのか、それが気になるところだがはっきり言って食料と水以外は今のところ必要ない。
むしろ荷物が増える分進行速度が落ちるので弾薬とかは次回以降にまとめて送ってほしい。
「まぁ、無理だろうな」
あのスーツ男はそう言ったことは気にしないだろう。
そもそも兵士をスカウトするのにスーツというのがふざけている。
戦場に来るのだからもう少しそれらしい恰好をしろと言いたい。
せめて防弾チョッキとヘルメットは装着しろ。
拳銃の一つくらい持ち歩け。
迷彩服などで身を隠す方法を考えろ。
思い出すと徐々に腹が立ってきた。
思わず手に持ったカラシニコフを岩に向けて放つ。
よく考えてみるとこちらに来てから一度も発砲していない。
丸一日銃を撃たなかった、というのは実に久しぶりの事だ。
結果的に銃身のブレや歪みなどがなかったことが確認できたのでよしとする。
ついでに持ち合わせていたハンドガンも撃って調子を確かめる。
すべて問題はなさそうだ。
使用した分の銃弾を装填して日陰を探す。
腕時計は正午を過ぎてすでに二時近い。
昼食もとらずに移動を続けていたせいか空腹感はなかったが、実際に時間を見ると途端に腹の虫が騒ぎ始めた。
それから五分ほど歩いてようやく日陰を見つける事が出来た。
それなりに大きな木が一本立っていたので装備をおろし、各部を締め付けているベルトやボタンをはずして休憩する。
ついでに携帯食料を取り出して口に放り込んだ。
薬臭いうえにパサパサしているので正直にいって不味い。
それを味わうことなく水で流し込んで、ついでにコップ一杯分ほど頭からかぶって火照った頭を冷やす。
「ふぅ……」
首、肩、腰、膝と順に動かして調子を整えてから大きく伸びをした。
そして軽く目を閉じて耳を澄ませる。
遠方で動物の鳴き声が聞こえる。
犬だろうか。
銃撃音は聞こえない。
爆撃音も同様だ。
飛行機などのエンジン音もせず、葉の擦れ合う音をとらえる。
こんなに平和でいいのだろうか、そう不安に思いながらカラシニコフを抱きしめた。
五分ほどして目を開けて崩した服装を整える。
装備を担いで休憩を終えた。
今日は少しスローペースだ、急がなければ村への到着は明後日になってしまうだろう。