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進軍

「……ここは」


 気が付いたら私は海岸にいた。

 潮の香りが鼻につく、ついさっきまで荒野で血と硝煙の臭いをかいでいたせいだろうか。

 随分とはっきり匂う。


「周囲警戒、人影は……なし。

会場に船影なし、上空に機影なし。

……安全を確認、移動開始」


 周囲の安全を確認してから海岸を離れる。

 見通しの良いところにいるのはどうにも落ち着かない。


 しばらく歩き続けたところで林にたどり着いたので腰を落として装備のチェックを行う。

 首から下げたカラシニコフは健在、弾も入っている。

 ポケットの中には弾薬を詰めたマガジンが5つ、腰のベルトにはG17が2丁とそのマガジンが2つ。

 手榴弾が2つにナイフが2本…に簡易救命具その他諸々。

 戦場で戦うには随分心もとないが自衛だけと考えれば上々だろう。


「右腕……異常なし、左腕……異常なし、右足……異常なし、左足……異常なし。

腹部……異常なし、胸部…………異常あり」


 身体のチェックを行っていると胸元で異常を見つけた。

 肩や背中に入れ墨を入れる者は少なくない。

 だが私は、単純に痛いのが嫌なので墨を入れたことはなかった。

 

「なんだこれ」


 小さく膨らんだ私の胸元には文様が刻み込まれていた。

 こんな刺青を施してもらった覚えはない。

 鏡などを使って体をよく見てみると腰とうなじにも墨が入っている。

 なんだこれは、まったく意味が分からん。

 誰かに悪戯でやられたか……と思ったが荒野から海岸に移動していたことといい生きていたことといい、それらをひっくるめて考えればあの夢が本物だったという事か。


「それにしても、どこともわからん場所に放り出されると……」


 言葉を区切って地面に伏せる。

 カラシニコフを構えて呼吸音を限界まで消す。

 私の視線の先には見慣れた箱が一つ置かれていた。


 航空機からの支援物資輸送に使われる木箱だ。

 何度か世話になったことがあるが通常の物と比べるとだいぶ小さい。


 周囲に銃口を向ける事5分、安全確保を確認して接近して安全装置をロックする。

 そのまま銃で殴りつけて箱のふたを取り除いた。


「食料に弾薬、救命器具に鞄に着替え……なぜ下着まで完備されているんだ。

それから……手紙と地図か」


 とりあえず鞄に全て放り込む。

 それから周囲を警戒しつつ移動を開始した。

 この場所にとどまるのは得策ではない。

 こういった支援物資の落下地点では何が起こるかわからないからだ。


 救援物資を取りに行った部隊が二度と帰ってこなかった、なんてのは日常茶飯事だ。


「周囲、敵影なし」


 安全確認を済ませて手紙を広げる。

 これはやはり夢に出てきた男からのようだ。


『よう小娘、無事たどり着いたみたいだな。

その辺は気性の穏やかな動物しかいないから安心しろ。

入れ墨は俺の趣味だ、気にするな。

それとたばこは控えろ、便利だが身体に悪い。

特に子供を産む際にはハンデとなるからな』



 どうでもいい、子供を産むことは……望んで子供を産む機会なんてものは来ないだろうから心底どうでもいい。

 実際タバコとライターがあると便利なんだ。

 傷口にフィルター詰め込むだけでも簡単な止血にはなる。

 そう思うと吸いたくなってきたが、安全確保が出来ていないから今は控えて続きを読む。


『とりあえず今何をすればいいか悩んでいるだろう。

何でもしていい、と言うと語弊があるな。

適切な言葉が見つからん。

今は金銭を稼ぐことを考えろ。

得意だろ、そういうのは。

この補給は続けてやる。

毎日午前0時にお前のいる場所に届けよう。

箱はそのまま捨て置けばいい。

それとその世界においてお前の持つ武器は異端だから気をつけろ。

そのうち他の武器も支給してやる』


 他人の言葉をうのみにするのはよくない、だが今だけは信じておこう。

 希望があるというのはそれだけでも大きな違いだ。


『最後に、お前が今いる世界には化け物もいるし魔法もある。

だがお前は魔法が使えないし肉体能力はそこら辺の女に毛が生えた程度だ。

だからひとつ能力をくれてやった。

お前にぴったりの能力だ。

……使い方は今度、そうだな。

お前がひと月生き残ったら教えてやる。

せいぜい俺を楽しませろ』


 手紙を読み終えたところで火をつけて捨てる。

 手紙というのは燃やしてしまえば簡単に証拠が消せるから楽でいい。

 すべて燃え尽きるまで確認してから足で灰を蹴散らして、再び移動する。


 地図とコンパスを照らし合わせると南東の方角に村があるようだ。

 距離的には200kmはないだろう。

 この地図がどれだけ正確かは知らないが丸一日、休憩を含めて安全を確保しながらすすむなら三日を目安にしておこう。

 荷物がかなり重いから休憩はこまめにとった方がよさそうだ。

 幸い水や食料は補給物資の中に入っていた物がある。


「……できるなら車がほしかった」


 これだけの大荷物を背負って移動する事など、訓練以外ではほとんどない。

 そう考えると不安に押しつぶされそうになるが今は進むことを考えよう。

 周囲を警戒しつつだ。


 先が思いやられるが今夜の夕飯を楽しみにしておこう。

 物資の中に私の好物の赤飯が入っていた。

 日本の食料はイタリアにも負けず劣らずだ。

 アメリカのレーションは酷い味付けだったからな。

 食事は軍人にとっての宝だ、今夜はそれを楽しむとしよう。

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