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討伐

「つっ……」


 朝は頭痛で目を覚ました。

 近年稀にみる二日酔いだ。

 それほど飲んだわけでもないのにあの酒は相当な粗悪品だったらしい。

 断続的にリズムを刻む頭痛に頭を抱えながら階下に降りて水をもらう。


「ふぅ……もういっぱい」


 コップ一杯の水を飲みほして二杯目をもらう。

 少し頭痛が和らいだが今度は胃の中身がのど元までこみあげてきた。


「すまない……トイレはどこだ」


「そこの扉の向こう」


「借りるぞ……」


 あわててトイレに飛び込んで胃の中身を全て吐き出す。

 また頭痛がひどくなった気がする。


「うっぷ……」


 第二波を受けて再び嘔吐、ある程度落ち着いたところで外に出てまた水をもらった。

 ついでに頭から冷水を浴びて、落ち着いたところで部屋に戻ってベッドに飛び込んだ。

 ひどい頭痛だ、めまいがする。


 ……次は少し高くてもいいからまともなものを飲もう。

 そう心に決めてもう一度眠りについた。


 それからどれくらい経っただろうか。

 日差しを浴びて目を覚ました。


「う……」


 まだ完全ではないが頭痛はだいぶゆるくなっている。

 日差しで溶けそうだ。

 カーテンを閉めてしまいたいが流石にこのまま夜まで寝るのはどうかと思う。


 仕方ないのでトレーニングをして汗を流す。

 腹筋、背筋、スクワット、ストレッチ、その他諸々のトレーニングをいつも通りこなしていると頭痛はいつの間にか治っていた。

 それから汗を洗い流して、昼食をとってから傭兵の拠点とやらがどこにあるかを聞き出してそこに向かった。

 念のため完全装備での移動だ。


 三十分も歩いたころだろうか、目的地らしき場所にたどり着いたので扉を開け

る。

 中は非常にやかましい。

 受付のような場所があったのでそこに向かう。

 笑顔の似合う綺麗な女性だ。

 だが同性として、信用してはいけないような気がする。


「登録を頼みたい」


 私がそう口にした瞬間女性の顔から笑顔が消えた。

 先ほどまでの温和な表情から一転、獰猛な猛禽類のような表情を見せた。

 なるほどそちらが素の状態か。


「魔術の心得が? 」


「ない」


「剣術や槍術は」


「簡単なものなら」


「……冷やかしはお断り」


「残念ながら大真面目だよ」


 淡々としたやり取りだが腹の内は見えた。

 この女は私を舐めきっている。

 ならばそれに応じた対応をしてやろう。


「あの花瓶はいくらだ」


「は? 」


「あの花瓶はいくらだと聞いている」


「3エルで10個の安物。

傭兵なんてのは所詮荒くれ者の集まりだから備品が壊れる事はしょっちゅう。

だから高価な物なんておいていない。

おわかりかしらお嬢様? 」


「あぁよくわかった、壊しても問題がないという事はな」


 そう言って腰のG17ハンドガンを引き抜いて撃つ。

 射撃は可もなく不可もないという判定をもらう事が多かったが5mも離れていない距離なら外す事の方が難しい。

 発砲音と同時に花瓶が割れる、破片が地面に落ちてカチャカチャと音を立てた。

 先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返っている。


「さて、この程度の事しかできないが改めて言おう。

登録をしてもらえるな、お嬢さん」


「……名前と年齢、性別とできる事を書きなさい」


「ふむ」


 言われたとおり項目を埋める。


「なにこれ」


「私の出身地の文字だ。

まさか読めないのかい? 」


「おあいにく様、田舎には興味がないのよ」


「それは失礼した。

かび臭い田舎の出身なものでな、血なまぐさい都会の事情は知らないのだよ」


 もしかしたら私はこの女と仲良くなれるかもしれない。

 悪友、と言っても差し支えの無い仲になれるだろう。

 ただし向こうが心を開けば。


「はぁ……代筆してやるから口頭で言いなさい」


「名前はアンジェリカ・アルベド・アーシェンカ、長いからアンジェリカでいい。

年齢は25歳、性別は見ての通りだ。

出来る事、と言われてしまうと難しいが簡単に言えば戦法だろう。

遠距離からの射撃だ」


「……あんた貴族の出身? 」


「そんな大したもんじゃないさ」


「そう、ならいいわ。

それを首につけなさい」


 そう言って渡されてのはドッグタグによく似た金属の板だった。

 2枚一組の金属板、銀色のそれは何も書かれていない。


「アンジェリカ、25歳、女、登録承認」


 受付の女がそういった瞬間、金属板から光が発せられた。

 よく見ると板にはミミズのような絵柄が書かれている。

 もしかしたら名前なのかもしれない。


「で、今日は働くの」


「あぁ、せっかくなんで簡単に終わらせられる物を頼もうか」


「一人で? 」


「生憎、仲のいい相手というのは数えるほどしかいないうえに……ここにいるのは忙しそうなやつか信用できなさそうなのしかいないからね」


「それは同意しておきましょう。

まあいいわ、ならこれを」


「こいつは? 」


 差し出された用紙には何かが書かれている。

 それを読み解くことは私にはできない。


「街の周囲にいるモンスターの討伐。

好きなように狩ってきなさい。

ただし生態系に影響のない範囲で」


「なるほど、初心者向けのいい仕事だ。

いってくるとしよう」


「生きて帰ったら拍手してあげるわ」


「それは楽しみだ」


 くくくっと喉の奥で笑いながら拠点を後にする。

 そのまま街の外に出て適当に散策を開始した。

 カラシニコフに長距離射撃用のスコープを取り付けて周囲を見渡す。

 どちらかというと銃弾をばらまく事が仕事のこの銃に、こんなものは必要ないが双眼鏡の代わりに使っている。


「発見、あれがウルフか」


 昨晩シルフリッドが話していたモンスターを発見する。

 1匹だけのようだ、周囲を探索しても他に同様の個体は見当たらない。

 本来狼は集団で狩りを行う生物だから単独行動をしているという事は斥候かはぐれ者という事になる。

 周囲をどれだけ見渡しても群れのようなものは見えないので今回ははぐれだろうと辺りをつけて射程まで距離を詰めた。


「ロック解除」


 安全装置を外して頭部に狙いを定めて3発撃つ。

 銃弾は反れたものの、一発が脚に命中、残る二発も傷をえぐるように脚に当たった。

 続けて3発、3発と撃っていく。


「目標沈黙、警戒しつつ周囲の索敵」


 カラシニコフを構えたままじりじりとウルフに近づく。

 ある程度の距離まで近づいたので頭部にも一発打ち込む。

 完全に死んだものとしてみていいだろう。


「目標死亡確認……これどうやって持っていけばいいのかしら」


 ウルフはかなりの巨体だ。

 おそらく100kg以上あるだろう。

 私一人ではとてもじゃないが無理だ。


 そう考えていると街の方から人が走ってきた。

 服装からして見張りの兵士だろう、二人の男が武器を構えている。

 おそらく銃撃音に気が付いて何事かと飛んできたのだろう。


「何をしていた」


「見てのとおりさ、ウルフを狩っていた」


「その、妙な物体でか」


「私の武器さ、詳しく話すつもりはないがね」


「……街に危害を加えないなら特に聞くことはない。

邪魔をしたな」


「ちょっと待ちな」


 そう言って立ち去ろうとする兵士を引き留めた。

 カラシニコフには触れずに両手を広げた状態でだ。


「なんだ、こっちはそれなりに忙しいんだ」


「街に戻るつもりなら手伝ってくれないか。

女の細腕でこいつを持って帰るのは骨が折れそうだ」


 そう言って懐から銅貨を2枚出す。

 人手を借りる事が出来るなら多少の出費は問題ではない。


「……こいつの毛皮は丈夫だがこれだけ傷がついていたら売り物にはならん。

討伐証明の部位だけ持って帰れ」


「すまないな、新人なもんでどこを持って帰ればいいのかわからん」


「ウルフなら耳と牙をセットで持って帰れ。

この犬歯と両耳だ。

死体は埋めるか燃やすかしておけ、他のモンスターが集まってくる」


「ふむ、助言感謝する。

一度出した物を引っ込めるのは性に合わないから礼と思ってとっておいてくれ」


 そう言って銅貨を投げ渡す。

 向こうの返答は待たずにナイフを使って耳を切り落とし、牙を引き抜いた。

 さて、こいつはどうするべきだろうか。

 生憎これだけの巨体を燃やすための手段は持ち合わせていない。

 穴を掘るにしても道具がない。

 改めて困った。


「……はぁ、仕方がない。

鉄の……我が…………古の………………フレア」


 兵士が何やら唱えると炎が現れてウルフの死体を燃やし尽くした。

 魔術というやつだろう。

 随分と火力があるらしい。


「これで銅貨二枚分の仕事だ。

次からはそれなりの準備をしておけ」


「重ね重ね感謝しよう」


 兵士に礼を言って適当に探索を続けた。

 モンスターは数匹見つけたが、討伐後の対処法がないので見送る事にした。


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