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城壁は灰色

作中に出てくる街は大抵実在します。

 ただし、作中に出てくる街の描写は大抵本物とは遥かに掛け離れた『空想の街』になっています。というわけで、『この街はこんなに小さくない!』とかそんなの無しね。これはあくまでもフィクションです。




Loading……


 私のため息を乗せて、更に先へと、車は進む。


 とりあえず、一番近くの町に行こうか。グルムの足も治さなくちゃいけないし、な。



 ◇



 さて、場所も視点も変わり、グルム達が目指す街中。


 とある路地に一人の中年男と、少年がいた。中年男のほうは地に両膝をつき、ぼろぼろと涙を流していた。対して少年の方は、縄の束を片手に持ちにこにこしている。


「さて、と。それでは約束通り……(喜)」


 少年は実に嬉しそうな顔をしたまま、ロープを持った手を少し上に上げた。


「ま、待て。待ってくれ!」


「今更命乞いか? 恥ずかしいぞ(呆)。ほら、さっさとこの縄で首吊れって(笑)」


「ぐうう……!」


 直径1cm程のロープの束を渡された男は、呻く。それを見て、


「ありゃ。もしかして自殺用の輪の作り方が分からない? なら早く言ってくれー……(怠)」


「ふ、ふざけるな!」


 男の手からロープを取り上げ、尚もにこにこしたまま自殺結びを作ろうとしている少年に対し、男は吠えた。


「こ、この殺人狂が! お前、自分のやろうとしている事が分かっているのか! その死に方では脳は壊死する……本当に『死ぬ』んだよ!」


「あー(呆)」


 しかし少年は呆れたようにため息を吐くだけだ。


「殺人狂とか、ほんっと人聞きが悪いし。この負け犬。何を吠えてるんだよ、お前が悪いんだろうが(怒)。……よしっと、出来た(疲)」


 結び終わった縄を男の前に持っていき、輪っかの部分を男の目の前に差し出す少年。


「……命を賭けるって言ったのは誰だ? なあ、お前はここに何度も来ている常連の筈だ。こうなると分かっていて命を賭けたんだよなぁ(問)」


「うう……」


「殺人狂? 冗談よしてくれ(笑)。テメエから勝手に命賭けるだの金玉賭けるだの言ってくるだけだろうが(怒)。なら俺が賭けに勝った以上、お前らが好き勝手賭けたものを回収してはならない道理はあるまい(笑)」


「……くそ」


「ここの賭けの厳しさを知らない訳では無いだろう? 今逃げてもいずれ殺される。男らしくさっさと死ぬべきじゃないかなぁ? 男の泣き顔なんて汚物と同列だから……、そんなもん晒すくらいなら早く死ねというか汚ならしい顔いつまでもぶら下げてんじゃねえよカス」


 ゴッ! と少年が唐突に蹴りを放つ。その革靴に覆われた爪先が男の鼻面にめり込んだ。確かに何かが砕ける音が少年の耳に幽かに届き、と同時に男が後ろに弾け飛んだ。


 男の頭部をサッカーボールにでも見立てたかのような、全く容赦のない蹴りだった。


「がっ!」


「はは(笑)! かっくいー見事なやられっぷり! よっ! 負け犬の鑑! ……さて、というわけでさっさと首を括れ糞ハゲ(蔑)。話はそれからだ」


「いてえ……いてえよ……いでえぇええエエエエェェェよオおおぉおぢぐしょおぉぉぉおおおオオオオオオオォォォォォオオオオオオ!」


 ぼたぼたぼたぼた。


 血が滴る鼻を押さえつつ絶叫しながら踞る男。それを蔑んだ目で見ながら、少年は手に持った縄を男の目の前に放り、そしてゆっくりと背中を向ける。


「ぎさま……絶対に、ろくな死に方をしないぞ……呪う……呪ってやるぞ、畜生がぁぁああアアア!」


 鼻と口から血をぼたぼた垂らしながら典型的な捨て台詞を吐く男に少年は平然と、


「いゃあそりゃあ楽しみだ。 だ か ら 今はさよなら、とうさん」


 かつて自分を拾ってくれた筈の男の元から、足音を響かせながら立ち去る。


「汚物は浄化だ(笑)」



 ◇



 グルムは先ほどの少女のセクハラでかなり疲れたらしく、少女に体を預けてぐっすりと眠っている姿がバックミラーに映っていた。ぷくー……、と鼻提灯を膨らましている所とかを見ても、明らかにグルムはガキだった。


 さてさて、と。バックミラー越しに少女を見ながら、


「こっから一番近い街って?」


「うーん……ビシュケク」


 少女が宙を見詰めながら答える。恐らくは検索結果を見ているのだろうが、端から見ると不気味で仕様がない。


 しかしビシュケクか。


「キルギスまで行きたいのか」


 ビシュケクはキルギスの首都だ。とはいえ、この世界で首都なんてあんまり意味はない。国境すら曖昧なのだから。そもそも政府がまともに機能している国なんて、一握りも無いだろう。


「ごめんちゃい。ダランザドガド、かな。少し、ていうかかなり戻んなきゃだけど」


 さっきまで乗っていたバギーだとジェットエンジン紛いのモノが付いているからかなり飛ばせるんだが、この車は凄まじく古い。時速100kmぐらい出したらそれだけで空飛んでそのまま空中分解しそうなくらいにぼろぼろだ。


 つまり、遠距離走行は滅茶苦茶辛い。


「かなり、ってどのくらい……」


「直線距離で千キロとちょっとかな」


「さりげなく凄まじいこと暴露したな。本当にかなり時間かかるぞ……」


 単純に走る時間を計算すればおよそ半日。だが、半日ずっと運転しっぱなしは体に悪い。途中燃料補給や休憩を挟みながら……それに本当に直線ルートで行ける訳もない……という訳で、短くても二日はかかる。OH SHIT!


 ……まてよ。


 一番近いところがここから一千キロ? そりゃあいくらなんでも遠すぎやしないか?


「おいバカ。現在地から西の方になんか街ないか」


「んー? ……お? なんだすぐ近くにアルタイって街がある! 見落としてた!」


 あぁ、見落としていたのか。


「この大バカ野郎」


 地図もまともに読めないバカのせいで危うく千キロ走破に乗り出すところだった。危ない危ない。


「こっちだと百キロも無いね」


「だと助かるが、お前の答えはあまり信用ならん。百キロとちょっとと認識しておこう」


「酷いなー。じゃ、最短ルートは……現在の進行方向を基準に、右に二度二十四分方向を変えてね」


 直線ルート=最短ルート。実に分かりやすい思考である。


 こいつの脳内は蛆でもわいているのだろうか。確かに直線ルート=最短ルートかも知れないが、道は直線には走ってくれていない。そもそも、


「そんな器用なこと出来るか!」


「不器用かオジサン!」


「ざっけんなこんな車でそんな曲芸紛いのこと出来るかってんだ! くらすぞ!」


「くらすぞ?」


「方言だ。知らなくて良い」


「成る程、エッチい意味だね! ほんっとオジサンはどうしようもないなぁ!」


「殴るぞって意味だ! 何でもかんでもエロい方向に持っていくお前こそどうしようもないだろうが!」


「なにおう!? 人間の本能なんだからしょうがないでしょ! それとも何? オジサンにはそういう要求が全く無いとでも!?」


 認めよったコイツ。自分がどうしようもないことを認めおった。


「ぐっ……!」


「ほら有るんでしょ! 有るんでしょ! 私みたいな美少女が近くにいるんだもん当然だよね!」


「黙れこの自己陶酔野郎! お前なんか見ても萎えるだけだ!」


「それは聞き捨てならない! 実際にやってやるぞオジサンー!」


「ちょ、運転中に頭を掴むな! やめろ事故る事故る事故る事故る!」


「オジサンも姉ちゃんもうるさい! いい加減にしろです!」


 結局いつの間にか起きていたグルムに二人とも頭を叩かれた。



 ◇



「お前のせいだぞバカ」


「オジサンのせいだよアホ」


「グルムからしたら二人とも悪いです」


「「クソッ……」」


「姉ちゃん、女の子がそんなはしたない言葉を使うのはどうかと思いますよ……」


 グルムに頭を叩かれてから休憩を挟みながらも数時間後。私と少女は未だに口喧嘩をしていた。くそ。この少女と一緒にいて良いことがない。


「街についたらグルムを病院に運ぶ。その後バカを奴隷市場に持っていくからな」


「遂に捨てられる羽目になるとは。オジサン、私のこと嫌いでしょ?」


「ああ、大嫌いだ」


「分かってはいたけど面と向かって言われるとショックだなぁ……」


「ところでグルム、あとどれくらいで着く?」


 グルムはどうもアルタイに少なくとも一度は行ったことがあるらしい。さっき『ところでアルタイに行くんですか?』とか何とか言っていたから。


「アルタイにですか? うーん……確か、もう後少しの筈ですが……あ」


 グルムがそう言った途端に灰色の点が地平線の向こうから現れた。


「あそこ。確かあの辺りがアルタイですね」


「だとすれば、あの灰色は多分、城壁……かな」


 城壁を街の回りに設ける街は意外と多い。略奪行為万歳なご時世ではそれも当然だろう。我が身は自分で守る。これは当然の事だ。


 因みに、同じ国の者でも街が違えば互いに敵同士なんてことは良く有ることだ。国という括りはあくまでも形式上。普通は、街単位の結束で人々は繋がっている。勿論、仲が良い街達も無くはないが……。


 その為、前の少女みたいに『街が国である』と誤解している人も多い。


「だろうね。でもこの辺りがそんなに治安が悪いとは思えない……し、そもそもこの辺りには他の街は無くない……?」


 少女が不思議そうに周りをきょろきょろと見回す。


「というかあれ、おかしいな。グルムが半年ほど前に来たときには城壁は無かった筈なんですが……」


「謎は全て解けた! じゃあ、急にヤバイ集団が現れてこの辺りに住み着いた、とか!」


「……いや、あの城壁は多分その目的じゃない」


 何だか急にテンションが上がった少女の憶測を否定する。


「あれは恐らく、内から外への道を閉じる為の壁だ。ほら、鉄串が見えるか」


 城壁の姿が徐々にはっきりとしてくる。そして、その城壁の上。沢山の鉄串が突き出している。明らかに城壁の上を通るルートを封じる目的であろうが、その鉄串が突き出している向きがおかしい。


「うん、見える」


「でもあれ、何で国内に向けて突き出しているんでしょう……?」


 つまりは、国内から国外への通行を禁止している。そう考えるのが自然だろう。


 その理由は幾らか考えられる。独自の技術を持ち出されるのが困るのかもしれない。人口の流出を食い止めたいのかも知れない。


To be continued……



 あとがき


?『なあに、それ』▼

 私が手に持った小瓶を指差し、少女が首を傾げる。その後ろでは別の少女も興味津々っといった感じで目を輝かせている。▼

私『これはね……』▼

 小瓶を開ける。独特のナッツ臭が鼻を突く。もっとも……コンソメスープに混ぜれば臭いなど分かるまいて。▼

私『これは……』▼

 小瓶を横に振りながら。私は勿体振るように、ゆっくりと話す。▼

 その実、今から自分が犯さねばならぬ罪に恐怖しているだけだなんて、随分とカッコ悪い私。▼

 カッコ悪い。そう、何時だって。▼


私『この状況を打開すべき一手さ』▼


 私は笑いながら小瓶の中身を口の中に流し込んだ。

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