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セカイは難しい


本編では言いませんでしたが、あくまで『私』の使っている銃が古くて口径が小さいから撃たれても大丈夫なのです。豆鉄砲と同列なのです。

 この世界で現在出回っているのは全て口径がでかい『危険な』銃ですし、古い銃でもアサルトライフル用の弾を撃ち出せるような銃は人に有効なダメージを与えることが出来ます。

 この辺りが紛らわしいですがまあ、……。




Loading……


「一緒に……?」


「いやなぁ、この天然少女と一緒に旅すると疲れるんだよ。お前は大分常識も持ち合わせていそうだし」


「ねぇオジサンその一言の意味を向こうでじっくり聞かせてねお願い痛くはしないから寧ろ痛みすらも快感に変わるほどに躾してあげるから大丈夫五分もかからないからすぐになつかせて見せるから」


「……と、三分おきにこんな感じにこいつなるんだ。頼む」


「うーん……確かにグルムは身寄りもいませんから付いて行っても良いのですが……しかし命を本気で獲ろうとした負い目も有りますし……」


「それに」


「それに?」


「今のお前の足では『狩り』も難しいだろう。少なくともその傷が癒えるまでは盗賊は出来ない。さっきのお前の切羽詰まり方からして、お前は今日を暮らすにも困るぐらい貧窮しているとみた」


 今は確かに消えているが、先程まで身体から染み出ていたヘドロみたいな殺意。相当な執着性を持った殺意だ。


 そしてそもそも、世界の犯罪は大体金が絡んでいる。これは今も昔も変わらない、ある意味では不変の法則である。それに則れば、グルムもまた、恐らく。


「むむむ……」


「だとしたら、俺達と共に行くにせよ行かないにせよ傷は一刻も早く癒すべきだ。……が、お前の足では遠く離れた街の病院に行くのもままなるまい」


「確かに……いや、でも車が裏手に有りますし……」


「自律走行の?」


 自律走行。


 つまり行き先を入力すれば自動で走っていってくれるという優しい設計だ。デメリットとしては、速度調節等が一切出来ないので、『今日は飛ばしちゃう気分だぜヒャッハー』みたいな日でも時速六〇キロ固定である事か。簡単に言えば、暴走に向かない。


「……いえ、違います。むぅ、こんな足ではアクセル踏むのも辛いですね」


「だからそこで提案だ。街まで私達と一緒に来い。その間に、今までの生活をこれからも続けるか、或いは私達と一緒に来るか決めれば良い」


 うーん、とグルムが悩むように唸る。そこに追い討ちをかけるように少女が、


「私もグルムちゃんが一緒に来るのは嬉しいよー!」


「ううむ……」


「さあ、どうする? 今ここでお前が取れる選択は二つ……ここで自然治癒を待つか、」


「……オジサンと一緒に行きます。どう見てもそちらの方が良策、ですから」


「良い判断だ。それじゃ早速、行きますか。善は急げ」


「あ、食事の無償提供も追加で」


「認めよう。バカ一人の食事を抜くだけだから問題ない」


「オジサン。月無き夜は背中に十分気を付けてね」



 ◇



「(……なんだか、上手く誤魔化された気がしてならないのです。そもそも、この傷を作ったのはオジサンであって……)」


「おーいグルムちゃん。いっくよー」


「あ、はーい」


 ………………………………だからオジサンじゃないってば。精神年齢はお前らと同じだから。マジで。


「オジサンは歩けないグルムちゃん運んでねよろしくー」


「あ、ほーい」



 ◇



 グルムを背負っててくてく歩いて、さて、バギーに……と思った訳だが。


「…………。そうだった……」


「…………。大破してる……」


「すみませんです……グルムが壊したんでした……」


 ぺこぺこ頭を下げるグルムの後ろにはただの黒い塊になった(元)車が。最早ガソリン漏れ云々なんて問題ではない。


「どうする? オジサン」


「……馬車使うか。私とグルムが乗るからお前は、」


「牽かないからね」


「お前は、」


「いやだから私牽かないからね?」


「姉ちゃんは、」


 そこにグルムまで乗っかった。


「だから牽かないというか何で私の渾名姉ちゃんになってるのかしら?」


「何と無く年上な気がしましたからです。ところで姉ちゃんは、」


「私は姉を馬車馬扱いする妹なんて欲しくないわ……」


 ため息を吐きながら少女は首を振る。


「? 馬車馬だから馬車馬扱いされてるんだろ」


「最早月無き夜とか待つ必要無さそうね此処で会ったが百年目ぇ!」


 スルー安定。


「で、どうする? グルム」


「そうですねぇ……」


「ねえ少しは私に構ってくれても良いんじゃないかしらバチは当たらないと思うんだけれども」


 綺麗に私達に無視された少女が吠えるものの、私はおろかグルムまで無反応だ。


 何だか段々少女の立ち位置が決まりつつある気がする。


「そうです! そういえばグルム車持っているじゃないですか!」


「おお! そういえばそう言ってたな!」


「そうと決まればれっつごーなのです!」


「よし行こう! 戻るぞ!」


「あいあいさー!」


 あっはっはーと二人して笑いながらひょいとグルムを背負う。齢にして十六程度、しかし身体的にはおよそ十三程度の歳であるグルムは矢鱈と軽い。


「……私はもう弄られる宿命なのかしらー……」


 耐えろ少女。これは人生における試練というものなのだ。


 ……多分。





 砂ぼこりを巻き上げて車は進む。長い尾を引いているように見えなくもない程美しい直線が車の後部から産み出されていた。


 今にも分解しそうな位に程良く壊れている車だが、タイヤはどうやら合筋らしく揺れはほとんど無い。しかしシートは合皮製で、ぼろぼろになったそれは中身からスポンジを溢していた。


 四人(五人)乗りで色は何故か赤。いや、トランクにももう一人入るから六人乗りか。


 ところでグルムの車って、


「オートマか」


「ふん! グルムは別に何の拘りも持っていないから構いませんもん! そもそもこれも戦利品ですから!」


 本人も少し気にしていたらしく、指摘すると首をブルブルと横に振った。小動物のようで可愛らしい。


「いや、別に悪いとは言ってないが。一長一短だし好みの問題……」


「だからグルムは知りませんって云うかオートマってなんですかマニュアルってなんですかそもそもなぜ車ひとつでバカにされなくちゃいけないんですかあああああ」


 血走った目で叫ぶグルム。これはトラウマか何かに触れてしまった気がする。


「グルムちゃん、オートマに何か嫌な思い出でも」


「無いですよ? 全くもって有りませんけど? ぜーんぜん、無いですけど!?」


「いやそんな『図星指された』って顔で否定されても……」


 少女が苦笑する。グルムがむがーっ! と吠えて少女にデコぴんした。


「いたっ」


「無いって言ってるじゃないですかぁ!」


「わ、分かった分かった……分かったからそんなに興奮するな、グルム」


 慌てグルムをなだめる。これは過去に相当腹が立つことがあったようだ。


 しかしつくづく、グルムも不運である。普通なら誰でもここで引き下がるだろう。私も例に漏れずそうだが、しかし、


「ふふふ……教えてぇ……グルムちゃん……」


「ぐっ! 姉ちゃんしつこい上に何だか怖いです!」


 この少女は特別製だ。流石心臓が剛毛に覆われた女。面の皮の厚さも数センチは有りそうだし、こいつにはデリカシーという言葉は無縁なようだ。


「ね? グルムちゃん……教えてくれなきゃ……やだよ……?」


「ぶ、ぶりっ子ぶってもダメです! 絶対に教えません……ひゃあっ!? どこ触って……!」


「教えてくれなきゃ……【自主規制】を【自主規制】して【自主規制】で【自主規制】しちゃうよ……後ろも【自主規制】を入れて【自主規制】させちゃうよ……新たな世界を教えちゃうよ……良いの……?」


 ……しかも、性に対してのデリカシーも0。鉄面皮標準装備は伊達ではない。後部座席でレズストーリーが始まりそうだ。気まずい。


「えっ……ちょっ……ちょおっ!? 姉ちゃん、下は流石にアウトっていうかそれ何なんでそんなもの持ってるの!」


「女の子には秘密の隠し所が幾つか有るの。今から全部教えてあげる……」


「怖いですから! ていうか色々アウトだからしまってその歪なモノ!」


「歪なモノとは失礼な! これは正真正銘バイb」


「はいそこまでー。それの登場は本気でアウトだから」


 流石にこちらの道徳的に不味いので止める。やるにしても私が居ないところでやって欲しい。


「えー残念」


 すごすごと引き下がる少女。その手に握られたブイブイ唸るものにモザイクを掛けておきたい。グルムは危機を切り抜けた事で安心顔だ。ふぅ、と一息ついている。


 だが。


 そんなことで諦めるような奴では無いことは、この少女と私が出会ってからおよそ四日間の内に判明している。


「……あ、じゃあさっきのグルムちゃんの一言から 上 は ア リ と判明したので」


 確かにグルムは『下は本当に不味い』と言った。ということは『上は本当は不味くない』と取れなくもない、というスーパー理論だ。人はそれを暴論と言う。この少女はやはり頭というか存在が少しぶっ飛んでいると思う。


「え」


 再び危機が訪れたのを察知したグルムがじり、と少女から距離を取るが、そこは狭い車内。逃げられる訳がない。


「ふふふ……吐くまで離さないからね?」


「え、ええええ! 助けて誰かうっ! いやぁぁぁああああああああああ!」


 本日二度目の悲鳴である。ただ、何故だかこっちの方が切実に聞こえたことを報告しておこう。




【しばらくお待ち下さい……】




「まったく、もっと平和な聞き方は出来なかったんだろうかね」


「私のある所にセクハラあり、だよオジサン!」


 やりきった感溢れる少女が胸を張るのをバックミラー越しに見る。全然威張れないからな、それ。


 少女の隣にはグルムが汗だくで横になって熱い吐息を漏らしている。妙に頬が上気していて目も潤んでいるが、私は断じて何も見ていないし聞いていない。グルムがなぜそうなったかなんて知らない。


 グルムのオートマ嫌いの理由を要約すると、こんな感じだ。


 結構前に街に行ったとき賭けでぼろ負けした。で、その威張り腐った賭けの相手からオートマをボロくそ言われた。


 これだけ。


「……ガキか」


「ひ、酷い……私は、あっ、凄く、嫌だ……った、んで……すって……ば……はぁ……」


「うん、分かったからもう少し休んでろ。直視できない」


 R18ではないはずだが、それでも私には厳しいかな。


 難しいね。色々と、この身体だと。



To be continued……



 あとがき


 文中、少女のセクハラを『私』とグルムはやたらとはしたないモノとして認識していましたが、よく考えください。『私』は一話目で

『〈大崩壊〉以降、性に対する倫理も変わった』

 みたいなこと言ってましたよね。

 即ち、少女の行動はこの世界に於いては普通なのかも知れないんです。

『私』とグルムは現代と同じ倫理観を持っていますから、二人が『はしたない』と考える事は案外作中では異常な事なのかも。

 だとしたら何だか、憧れますね。そんな世界。






 ……あ、今回はいつもの変なのは有りませんよ。なんかすいません。



あとがき(追加) 2015/07/12 改稿

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