性能は抜群
こんな名前この地域では有り得ないとか、そんな突っ込みは一切なしでお願いします。
あくまでもフィクション。
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◇
(boot)
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(check2……clear)
(check3……clear)
(OK)
……。お。
ん、どうしたの、僕の可愛い可愛い娘よ。
やだな、気持ち悪いとか言わないでよ。思春期ってみんなこんな感じなのかな? 悲しいよ。
で、話ってなんだい? え、
……。
そうか、彼が。道理で鮮やかな手際だと思ったよ。天晴れだね。
いやぁ、体制は万全だと思ったんだけれども。あれで足りないとなると、なかなか難しいなあ。最悪、理論を最初から構築しなきゃいけないかもしれないね。
まあ正直、確かに『穴』には気付いていたよ。一応そこを然り気無く隠しておいたつもりなんだけど、まぁ、バレちゃうよね。
ああ、でも、丁度良いじゃないか。彼、滅ぼすんだろ? 世界を。
じゃあ、最初から作る分には打ってつけって訳だ。うんうん。既存の体制の完全破棄、及び、新体制の構築。こんなチャンスは中々無いね。ラッキーだよ、彼は。このチャンスを生かさない手は無いね。上手くやるんだよ。
僕が作り得なかった世界の、その更に先を行く世界、ね。……さしずめ、
《ユートピア》
と云った所かな。もしくは、その更に上位互換、《神の都》……。
いや、彼なら《魔王の墓》にもしかねないね。どれも僕が創れなかった世界だ。いやぁ、彼には果たしてそんな大層ものが創れるのか、見物だね。
革命が起きようとしているのに意外と動揺してないな、だって?
あのね……偉人は死ぬ前に名言を残す事が多いらしいよ。何でかって? 自分の死期を悟るとか、最後の悪足掻きとか。まあ、色々理由はあるだろうね。
そうそう、そういえば、かのアインシュタインの最期の言葉は謎らしいよ? ドイツ語で何か呟いたらしいんだけれどさ、近くに居た看護師は英語しか分かんなかったんだって。実に残念だよね。
つまり何が言いたいか……か。先ず、僕は紛う事なき偉人だってこと。死後も名前と云う存在が残るくらいの、ね。それと、そんな素晴らしい僕はもう死ぬってことかなぁ。
あれ。気付いてないとでも思ったかい? ポケットの中……君が右手で握っているそれ、銃でしょ。
ああ、今さら隠す必要は皆無だね。それと、引き金に指は掛けない方が良いよ。暴発が恐いからね。撃つ直前に掛けるんだ。
なに、筋肉の動きとポケットの膨らみ具合で分かるのさ。事僕の場合、その察知能力は常人の遥か上を行く。
実際に見せてあげよう。
口径はバカでかい。古い銃だね。アサルトライフル弾を撃ち出せるあれでしょ。まったく、そんなやんちゃな銃をどこで仕入れたんだい。
しかも改造付き。ライフリングは六条、総弾数は2発。しかも不恰好……バランス悪そうだなぁ、小型化の宿命かい。僕は銃に疎いから詳しくは知らないけどね。
それに、身体の方も最悪だ。殺気も隠しきれていない。甘いよ。まだまだ、ね。
もっと色々教えてあげたいけど、そんな時間もなさそうだね。君も忙しそうだ。じゃあ最後にひとつだけ、教えてくれたら嬉しいなぁ。
ねぇ、可愛い可愛い僕の娘よ、どうか、教えてくれ。
僕は、どこで間違えたのかな?
……。
泣かないで。大丈夫。僕は何処にもいかないよ。
ずっとここにいる。だから、会いたくなったらいつでもおいで。
さあ、よく狙うんだ。銃は精密機器だからね、慎重に……。
願わくは、君に最低で最悪な未来が訪れますように。
祈っているよ。
(error!)
(nosignal)
(nosignal)
(nosig――…………。
◇
風吹く砂漠を突き進む。タイヤが砂埃を巻き上げて、空気を少しだけ汚した。尤も、常に清浄された空気が通される車内においてそれは問題外であるが。
ウランバートル。
モンゴルの首都である。だが、結局私は街を通らずに砂漠の方を突き進んでいた。今ウランバートルに行くと、もしかして『警察』の皆様に捕まってしまうかもしれない。当然、それは避けたい。
タイヤとして合筋が付いている限り、駱駝なんて動物に頼る必要は皆無である。植物性のアルコールも大量に積んできたため、砂漠で立ち往生なんてことには成り得ない。安心だ。
寧ろ心配すべきは、助手席に座る同乗者の精神状態である。
「砂……砂をくれ……」
「砂漠が砂だらけなんて一種の幻想だからな」
砂漠といえば砂の世界、と思う人が多いだろうが、砂漠は寧ろ石と土が広がる植物に乏しい荒野という場合が多い。勿論、砂の砂漠も無いではないが。
とはいえ――砂をくれ、等とほざいている時点で明らかに精神に異常をきたしているのも確かだ。右側に座る少女を軽く小突くと、はっとしたように目を見開いた。
「見えるよオジサン……砂だらけの砂漠が」
「そりゃネットワーク検索の結果が視神経刺激で脳内提示されてるだけだ」
もしくは只の幻覚だな、と付け足して言うと、少女はがっくりと肩を落とした。
「……街に……人に、会いたい……」
「あー、諦めろ。今更ウランバートルに戻る気は無い。もう少し先の、ペルヘムって街まで待つんだな」
実は、そんな街は存在しないが。
「死ぬ……死ねる……死にたい……銃、頂戴」
「自殺は罪だぞ、四ツ辻に穴を掘らなくちゃいけなくなる。加えて、銃で頭を撃ち抜くのは何気に成功率が低い。止しとけ、後遺症に苦しむぞ」
吐き捨てるような説得で、少女を黙らせた。
少女の方は小さく口を尖らせると、
「それはもう、過去の話でしょ? 今は昔に比べてよっぽど性能の良い銃も沢山出てる」
「まあな。だが、今は医療技術も発達しているだろ。そうそう簡単に死ねるもんじゃない」
それは確かに、と少女は頷いて、
「医療技術の進歩は本当に目覚ましいものが有るわよね。理論上、1000歳まで生きられますってさ」
「私にそんな延命治療は必要ないね。80で十分だ」
「――治療せずとも、既に1000歳まで生きられる筈だけど。そのカラダは」
「あー……そういやそうか。不便だな」
しまった。
バ レ ナ イ ヨ ウ ニ。
誤魔化すように、欠伸を一つ。
暫しの沈黙。
静寂に満たされた車内に耐えきれなくなったのか、少女が口を開いた。
「ところで、オジサン。いつになったら私とチョメチョメしてくれるの?」
「お前が死んだらな」
「え、死姦? オジサン、それは流石に無いわ……」
「誰がんなことやるか、帰れ」
「うわー……オジサン、引く……そういう性癖、否定はしないけど……少し、異常だよ……」
「人の話、聞いてる? ねぇ」
「いや」
再び沈黙が訪れる。何だか気まずいから、止めて欲しい。もっとはっきり言うと、もう何行か会話を続けないと間が持たない。
こちらから何か言うか。
と、そんなことを思ったとき。突如、がごん、と車が揺れた。
「?」
少女と顔を合わせる。
少女も『?』と不思議そうな顔を浮かべたまま、首を傾げた。それもその筈、揺れたのだ。合筋をタイヤに採用している、この車が。
揺れや音をほぼ完全に打ち消すタイヤ。振動程度ならば多少感じることはあっても、がごん、と音が立つレベルの振動はあり得ない。
勿論、巨大な岩に乗り上げたのならそういうこともあり得るかもしれないが、見くびらないで欲しい。これでも一応、世界中を様々な交通機関と共に旅しているのだ。障害になりそうな岩など、目を瞑っても避けられる。
当然、タイヤが壊れるほど荒い運転もしないし、先に述べた通り、合筋はそれなりに強度を持っている。中々壊れるものではない。
ましてさっきまで万全に機能していたのが、突如として麻痺するなど。
「……まさか」
嫌な予感がして、急ブレーキを掛ける。掛けた次の瞬間、ビシッ! と鞭が地を弾くような音と共に、小さく抉れた。
前方の地面が。
それはもしも、ブレーキを掛けなかった場合に車が居た筈の座標であって、
「やっぱりか!」
運が悪い。
銃か弓か。何にせよ、何らかの飛び道具で攻撃されている。タイヤも同じ理由で潰されたのだろう。最悪だ。
いや、タイヤだけならまだ良い。
もっと最悪なのは、『急所』をぶち抜かれることだ。
この車は植物性アルコールだけではなく、ガソリンも使っている。ガソリンタンクやエンジンを撃ち抜かれれば、ただ事では済まないのは火を見るよりも明らかだ。
このまま逃げ続けていても、いずれはエンジンを撃ち抜かれる。近代兵器は優秀だ。たった一人の人間の知恵や技術、運や努力で逃れられるほど甘い作りはしていない。
それが私にはよく分かっているからこそ。私だから、よく分かっているからこそ。
「Shit!」
ドアを蹴り開け、助手席に座っている少女の襟首を掴み、
「お?」
「おらァァあああああああ!」
車の外に放り投げる。
「おおおおおおおお? おぉおお!?」
小さいながらも綺麗に放物線を描いた少女は、べしゃっ、と潰れるように着地した。
ここで少女に怪我が無いか心配している暇はない。ドアを蹴り、車を飛び出す。そのまま滑るように地面に伏せて、およそ一秒後。
がぎん、と金属を叩く音がして、それに被さるように轟音がした。
爆発。
危険物を大量に搭載した車は、ある意味で大きな爆弾でしかなかった。
背後で車が膨れた。風船のようにぷくりと膨れた訳ではなく、内からの無茶な圧力により車が弾けたというところか。硝子や金属片が四散し、まるで巨大な手榴弾のようだ。
伏せているにも関わらず爆風に身体が浮くような気がした。錯覚とは思うが、身体が大きく前にずれた気がした。
「くっ……」
軈て。
爆風は収まり、しゅうしゅうと音を立てている元機械だけが、私の背後には残った。
◇
「よーしよしよし……」
少女は、『クロスボウ』を車に向けて構えていた。小さく舌を出して、乾いた唇を舐める。
こんな砂漠を走る車は少ない。久々の獲物である。ここで仕留めなければ、明日の生活に困る。少女が車を狙う理由は、おおよそそんな感じだった。
そんな感じだった、とはいえ、狙われている方としては堪ったものではなかろうが。そこは弱肉強食、といったところだ。運が悪かったと思ってください、と少女は小さく呟く。
ぎりぎりぎり、と少女――名を、グルムと云う――は、『クロスボウ』を何の躊躇いも無しに、引いた。クロスボウとはいってもそれは形だけで、撃ち出されるのは青い光線だ。
ギュバッ! と空中に長さ一〇センチ程の光の筋が出来る。それは微妙に時空を歪めながらまっすぐ空間を貫くと、車の前輪、合筋製タイヤに突き刺さった。
がご、と車が揺れる。
光が合筋の表層を抉り、しかし血は飛び散らない。光線であると同時に熱線でもある青い光は、ぶち抜いた傷を瞬時に焦がし、傷口を固める。
表層を食い破り更に内側に食い込んだ熱は、合筋に通う血を、肉を、瞬間的に沸騰させる。熱くなりすぎた血は内側から爆発し、肉は蛋白質組成が変形してガチガチに固まる。瞬時に使い物にならなくなった合筋は、小さく爆発を起こして、弾けた。
「んっふっふー。正に内から崩れるあの感じ。いーですねー」
通常の人間の動体視力ではとても追い付けないレベルの速さの出来事であったにも関わらず、グルムの目は完全に光線発射から爆発までの一部始終を捉えていた。
To be continued……
あとがき
?『いらっしゃーい、よく来たわねーん』▼
本気で張り倒してやろうかとも思ったが、やめておいた。▼
横で少女が一歩退いた。▼
全く、相も変わらず長い睫毛が気色悪い男だ。▼
こんなヤツがこの村の長なのだから、世界はいよいよ狂ってしまった。▼
あとがき(追加)
2015/06/30 改稿済