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有名人な彼  作者: 武村 華音
7/23

10-7

海からのプレゼント・・・。

期待できない箱の中身は・・・?






 テレビが午前6時を知らせた瞬間にインターホンが鳴った。

 下で待機してたのではないか? と思うほど時間に正確。


 エントランスのカメラには柴田さんの姿が映っている。

 私は黙ってエントランスのロックを解除した。


「柴田さん来たわよ」


 洗面所にいる男に声を掛けて玄関の鍵を開ける。

 柴田さんは黙って上がってくるだろうし、出迎えの必要はないと思う。

 何よりものんびりしている時間がないのは私も同じなのだ。

 今日は休日ではない、平日なのだから。


「彩さん、約束は?」

「何か約束した?」

「風呂上りのキス。まだしてもらってないんだけど?」

「記憶にないわ」


 私はキッチンで食器を洗い始めた。


「おはようございます」


 やはり柴田さんはインターホンを押す事なく部屋に上がり込んできた。

 この人達の非常識さに一々怒ってたらキリがないので敢えてツッコミは入れない。


「預かり物は洗面所にありますよ」


 私の言葉に柴田さんは苦笑した。


「吹っ切れた?」

「……多少」

「それでいいんじゃない? 無理せず貴女のペースで」


 柴田さんはそう言って洗面所に向かった。


 無理せずに私のペースで、か。


「海。早くしなさい、時間ないわよ」

「分かってる、焦らせないでよ」

「早く早く早く早く!」

「柴田さぁん?!」


 2人のやり取りを聞きながら私はキッチンでクスクスと笑っていた。






「おはよ、彩ちゃん」


 少し早めに会社に着くと、既に伊集院君が自分の席に座っていた。


「おはよ」


 伊集院君は私の真正面の席。


「仲直りできた? 昨日店にいたでしょ?」

「やっぱり気付いてたんだ?」

「まぁね」


 伊集院君はそう言ってパソコンに視線を移した。


「そういえばこの間のプレゼン成功だったみたいだよ」


 この間のプレゼンって……。


「うちで決まりだってメールがきてる」


 伊集院君が私に微笑んだ。


「本当?!」


 海外研修前から水面下で進行していた企画。

 内容は伊集院君や矢島君と一緒に考えたが、プレゼンを担当したのは私だった。


「いい顔してる」


 伊集院君はそう言って私の頭に手を乗せた。


「伊集院! 彩ちゃんを口説くな! 触るな! 半径3m以内に近付くな!」


 部長が大きな足音をたてながら近付いて来て伊集院君の手を叩き落とす。


「彩ちゃん気を付けなきゃ……こんなのの餌食になっちゃ駄目だよ、勿体ない。彩ちゃんにはちゃんとした、いい男が見つかるはずだから。こんな男で妥協したら一生後悔するんだぞ?」


 もう苦笑するしかないだろう。

 さすがに最近の部長を見ていたら将来が不安になってきた。


 あの男の存在を知られたら大変な事になりそうだ。

 徐々に独身の男性陣全員を威嚇するようになってきたし。


 私の売れ残りの原因って部長も関係してたりして……?

 いやいや……他人様(ひとさま)のせいにしちゃいけない。

 原因は私にあるに決まっている。


「立候補はしてるんですけどね、強敵がいますから」


 伊集院君の言葉に私は肩を震わせた。


「強敵って誰だ……?!」

「部長」


 伊集院君は意地悪な笑みを浮かべていた。






 木曜日は飲みに行かない。

 いつの間にか、飲みに行くのは月・水・金と決まっていた。

 そんな日はのんびり買い物をしつつ部屋に帰るだけ。


 自宅に帰った私は風呂を済ませて寛ぎながら、ある物体を睨んでいた。

 カウンターの上に乗せてある箱だ。

 あの男からのプレゼントである。


 開けようかやめようか……。

 でも、このまま放置するのもなぁ……。


 結局、いつまでもこの状態で放置しておくのも目障りなので解体する事にした。

 私はリボンに手を掛けてラッピングを解いていく。

 贈り主があの男なだけに不安が過ぎる。


 あの男、常識ないからなぁ……。

 すっごい変な物が入ってそう。

 取り敢えず動いている気配はないので生き物ではないだろう。


 大体、この中途半端な大きさの箱は何?


 横40cm×縦60cm×高さ30cm位の箱。

 箱の中では何やらビニールの音。

 そして……妙に軽い。


 多分、女性が喜ぶものとは無縁だろう。

 包装紙を排除して、私は蓋を開けた……。


「……」


 言葉が出なかった。


 中に入っていたのは……先日からオンエアになった、あの男が出演しているCMの商品やその製菓会社の商品オンパレード。


 私は思わず噴き出した。

 1人きりの部屋で馬鹿みたいに笑い転げた。


 やっぱりあの男は馬鹿だ。

 これで私を釣ろうとしたのか?

 ありえない。


 私は箱の中から煎餅を取り出し早速封を開けた。


「あ~笑った。暫くつまみには不自由しないわね」


 買って来たビールを開けて煎餅を摘みながら私の夕飯は終わった。

 独身で頻繁にやってくる彼もいなくて特別自炊に拘るわけではない女の日常とはこんなものだ。






 金曜日の夜、私はいつもの店にいた。

 伊集院君と2人きりなんて研修以来である。

 他の3人は外に出ているので遅れて合流するのだと伊集院君は言っていた。


「彼とは会ってるの?」

「ん? 帰国後は1回だけ」

「それでも仲直りが出来てよかったじゃん」


 伊集院君は優しく微笑む。


「でもねぇ……聞いてくれる?」


 私は男からのプレゼントの話をした。

 笑わせようなどと思ってはいないので、脚色もせずありのままそのままを。


「確かに期待なんて全くしてなかったんだけど……予想できないっていうか、普通に予想しない物だと思わない? ありえないでしょ?」


 伊集院君は大爆笑。


 気持ちは分かるけど……。

 私もかなり昨日笑ったし。


「面白過ぎ……普通そんなもんあげないし、そんなもんにラッピングするかな?」

「でしょ? おつまみには不自由しないけど……素直に喜べないのよね」

「そりゃそうだ。でも意外だね、そんな天然馬鹿だとは思わなかった」


 伊集院君は尚も笑い続ける。


 さすがに笑い過ぎじゃ……?


「特製春巻きと麻婆豆腐お待たせしました」


 やって来たのは店長の大久保さん。

 私が軽く会釈すると大久保さんは私に微笑んだ。


「あっちで2人を呼んでる奴がいるんだけど」


 大久保さんが小声で告げる。


 呼んでる奴……?


 私と伊集院君は顔を見合わせた。


「この席はそのままにしておくから行ってやってくれません?」


 私達は鞄だけ持って大久保さんの後に付いて行った。


「彩さん、何で2人で飲んでんのさ?」


 そこには機嫌の悪い男がいた。


「嫉妬か坊や?」


 伊集院君が企んだような笑みを浮かべながら私の肩を抱く。


「彩さんに触んないでよ」

「羨ましいだろ?」


 なんで挑発するかな……。


「何で2人っきりなのさ?」

「デートだから」

「伊集院君」


 私は伊集院君の手を退けて彼を軽く睨んだ。


「まったく……皆遅れて来るだけよ」


 私は溜め息を吐いた。


 なんでそんな事で呼ぶのよ?

 他のお客さんが気付いたらどうする気?


「結構余裕ないんだな、お菓子野郎」


 お菓子野郎って……確かにそうなんだけど、でもちょっと……。


 伊集院君は思い出したように笑い出した。


「彩さん、この人イカレてるの?」


 いや、イカレてるのはあんただし。


「普通ありえないでしょ、お菓子の詰め合わせなんて」

「なんで知ってんのさ?」


 男が不機嫌に伊集院君を睨む。


「彩ちゃんから聞いたからに決まってるだろ?」


 伊集院君は笑い出すとなかなか止まらないらしい。

 お腹を押さえながら目尻を拭っている。


 泣くまで笑わなくても……。


「彩ちゃん、席戻ろう。春巻き冷えちゃうよ、温かいのが美味しいのに」

「あ、うん」


 私は笑いが治まらない伊集院君に手を掴まれて席に戻った。

 直後にメールが届く。


『部屋で待ってるから』


 あの男にしては上出来だ。

 伊集院君の前で言わなかっただけでも進歩だろう。

 私がメールを見ながら微笑むと、伊集院君が苦笑した。


「彼から?」

「え? あっ……いや……」

「結構ショックだったりして」

「え?」

「そんな顔されると凹むよ」

「何で?」

「俺マジだから」


 意味が分からない。


 再び携帯が鳴った。

 今度は電話のようだ。


「もしもし?」

『何口説かれてんのさ?』

「は?」

『鈍いよ彩さん、鈍過ぎ。その目の前の男に代わって』


 私が顔を上げると伊集院君が不思議そうに私を見ていた。


「代われって……」

「俺? もしもし?」


 伊集院君は私から携帯を受け取り平然と話し出した。


「は? ……あぁ聞こえてたの? ……そういう環境の方が燃えるよ。実際、会社にも君以上の強敵がいるからね。……さぁ?」


 伊集院君は楽しそうに話している。

 きっと、座敷にいる男は不機嫌だろう。

 伊集院君の顔を見ているとそうとしか思えない。


「でも、結局は彼女次第でしょ?」


 伊集院君はいつものようにフフフッと笑い電話を切った。

 そして、身を乗り出して私の掌に携帯電話を載せながら小さな声で囁く。


「嫉妬されちゃったみたいだね」

「嫉妬?」

「愛されてるんだね彩ちゃん」


 自分の顔が真っ赤になっていくのが分かる。


 愛されてるって……私が……?!

 あ……ありえない。


「あの男、相当彩ちゃんに惚れてるよ。自信持ちなよ」


 持てるわけないでしょ……。


「伊集院、彩ちゃん口説いてるのか? 抜け駆けはズルイぞ」


 遅れて来た同僚達が店内に入って来て苦笑している。


「気を利かしてあと1時間位遅れてくれたら落とせたかもな」

「「「無理無理」」」


 とんでもない事をサラッと言う伊集院君に同僚達は笑いながら手や首を振って否定する。

 私も無理だと思うけれど、仲間内だから言える台詞。


 奥の席から殺気を感じるのは気のせいではないだろう……。


 私は奥から発せられる冷たい視線に大きな溜め息を吐いた。




ご覧頂きありがとうございます。


海からの贈り物。

お菓子の詰め合わせでした。

撮影後に貰ったんでしょうね。

やっぱり分からない男です。

何か考えがあったのかなかったのか……。

やっぱ続編(海視点)書かなきゃ……。

いや、超書きたい……!!

海の気持ちも分かってもらいたい!!


☆また明日お会いしましょう☆

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