表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有名人な彼  作者: 武村 華音
13/23

番外編:澄香<後編>


「澄香<後編>」です。

本編になかった部分を書いちゃいました。

「やっほーっ」


 玄関を開けた彩が呆れたように私を見ていた。


「あんた元気ね?」


 そりゃそうでしょ。


「元気よ? 可愛い彼氏に会えるんだもん、楽しみで楽しみで。手土産も大量に持ってきたから♪」


 私は両手に抱えたレジ袋を見せて部屋にあがり込んだ。


 年下君♪ 年下君♪ どんなオトコノコかなぁ?


 リビングに入った私はそこに居る人物を見て、持っていたレジ袋を床に落とした。


「えぇぇぇぇえ?!」


 も……望月 海?!


「彩! こ……これっ望月海?!どういう事?!」


 何でここに居るの?!

 本物?!


「見ての通りよ、言ったでしょ? ある種ヤバイ人種だって」


 ヤバイなんてもんじゃないじゃない!


「挨拶しなさい、あんた会いたかったんでしょ?」


 彩の言葉に目の前の有名人がテレビでは見せないような笑顔を私に向けた。


 は……鼻血出そう……。

 ヤバイ……興奮度MAXだわ。


「初めまして、望月海です」


 しゃ……喋った!

 動いた!

 会釈したっ!!


 私は望月 海から視線を逸らす事も出来ずに彩の背中を叩いた。


「い……痛いっ……!」


 彩の背中を叩いていた私の手が数発目で空振りした。


「彩さんを苛めないでくれません?」


 彩は望月 海の腕の中にいた。


「あ……ごっごめん! ちょっとっていうか、かなり動揺しちゃって……!」


 羨ましいぞ彩!


「ちょっと……離して。動けないでしょ?」


 彩は鬱陶しそうに望月 海を見上げる。


 贅沢な……。

 私だったら一生その腕の中にいたっていい。


 望月 海は渋々と彩から手を離し床に座った。

 テレビでの印象とは随分違う。


 もしかしてそっくりさん?


「澄香、あんたも挨拶位しなさいよ」


 私は望月 海の目の前に腰を下ろした。

 座っても見上げてしまう。


 やっぱり大きいなぁ……。


「い……井守澄香です。彩とは高校からの付き合いでもう15年友達やってます……」


 何故か敬語。


「高校から? 15年も?」


 望月海が少年のように目を輝かせる。


「高校生の彩さんってどんな感じだったの?」

「え? 彩は……今と大差ないかもね……」


 ぶっちゃけ、私達はあの頃から成長してないと思う。


「じゃ、昔から人気者だったの?」

「そうかも。彩の周りにはいっつもたくさん人が居たなぁ……昔から結構誰とでも付き合うんだけど、 実際にしょっちゅう連絡を取り合うのは2〜3人よ」

「彩さんモテた?」

「何度か告白はされてたみたいだけど……どうかな……?」


 こっ酷くフってるのとかも見た事あるけど……それは言わない方がいいよね……。


 私はチラチラと彩の顔色を窺いながら話していた。


 余計な事言っちゃったら後が怖いからね……。






 もともと酒に強くない私はかなりハイになっていた。


「澄香、あんたもそろそろ帰りなさい。また来ていいから」


 彩が私の肩を叩く。


 帰れだって?

 私が帰ったらまた海とイチャつくんでしょ?!

 こんなイイ男捕まえちゃって……羨ましすぎるぞ、彩っ!


「海よ? もちうきかい(望月 海)!なんれ(何で)海があんらり惚れらのろ(惚れたのよ)?!」


 詳しく聞かせろっての!


「それ……私も疑問だし……」


 何で疑問なのよ?


「彩さんだからだよ。つい何でも話しちゃうし、時々無性に会いたくなるし、見てるだけで安心しちゃう……彩さんの代わりなんて誰も出来ない。澄香さんだってそう思うでしょ?」


 望月 海は愛おしそうに彩を見ていた。


「海君はぁ、彩りろっこんらろれ〜(彩にぞっこんなのねぇ)」

「そうだよ、俺の基準は全て彩さんだから」

「ご馳走様〜」


 私はフラフラと立ち上がった。


「ちょっと待ってなさいよ、タクシーで送ってくから」


 彩はそう言って寝室に上着を取りに行った。


「海君、彩を泣かへらいれろれ(泣かせないでよね)」


 それだけは言っておきたかった。


「うん、約束する」


 海君は真剣な目をしている。

 その目を見た瞬間、酒が私の体内から消えた。


 この子は彩に本気なんだ……。

 改めてそう思った。


「本気なら何でも出来る事協力してあげる。コレ私の携帯番号とメールアドレス」


 私は鞄から合コン用のお手製名刺を取り出して海君に手渡した。


「ありがと澄香サン」


 海君の笑顔に私は顔を赤らめた。

 いや、抜けたと思ったアルコールが私の中に舞い戻ってきたような感覚だ。


「こりらころれーらくらりかんありがと(こちらこそ贅沢な時間ありがと)♪まっられ〜(またね〜)」


 私は千鳥足で玄関に向かいながら微笑んだ。


「澄香っ送っていくってば!」

「らいりょうぶら〜あんらら海君とイチャイチャしれらひゃい(大丈夫だ〜あんたは海君とイチャイチャしてなさい)」

「ちょっと澄香送ってくるから!」


 彩は海君にそう呼び掛けてから私の腕を掴んで部屋を出た。


「あんた幸せ者ね〜、心配して損した〜」


 海君の姿が見えなくなって幾分落ち着いた私は、マンションの入口の階段に腰を下ろして彩を見上げた。


「な……何言ってんのよ?」

「海君本気じゃぁん」


 彩は背を向けたまま黙り込んだ。


「もしかして疑ってる〜?」

「現実って受け止められないのよね……」


 素直な言葉だったと思う。

 海君を信じないんじゃなくて、この状況が夢を見ているようで現実味がないというのは私も同じだ。


「確かにね〜、でも信じてやらなきゃ海君も可哀相じゃなぁい?」

「そ……そうなんだけど」

「じゃあ〜、彩はどうしたら海君を信じてあげられるわけ?」


 羨ましいくらい愛おしそうにあんたの事見てるのに……。


「……分かんない」

「彩がずっとおかしかったのは海君のせいでしょ〜? 悩むほど好きなのに何で好きな人の事信じてあげないわけぇ?」


 何で信じてあげられないの?


「俳優なんて……好きになるもんじゃないわね……」


 彩は哀しそうに微笑んだ。


「テレビであんなに歯の浮くような台詞吐いてるのよ? そう簡単に信じられるわけないじゃない……」

「彩は……不安なんだ?」


 堰を切ったようにあやの目から涙が溢れた。


「信じたいわよ……認めたくないけど……あの子が好きなの、だから信じたいの……でも駄目なの、あんな綺麗な人達に囲まれてる海が何で私なんかを好きになったのかも分からない」


 自信がなさ過ぎるよ彩は。


「私も男だったら彩に惚れてるわよ〜。彩はさぁ……いつも中身を見てくれるじゃない、上っ面じゃなくてさ。ちょ〜っと厳しいかもって思う事もあるけどぉ、正直に話してくれる。だから私は何でも彩に話せるしぃ。他人事なのに真剣に悩んでくれたり、自分が正しいと思えば周囲を納得させるように頑張るしぃ、絶対に損得勘定じゃ動かないでしょぉ? 私はそういう彩がすごぉく好きよ〜。きっと海君もそうなんだろうなぁ。あの眼はぜっったい芝居なんかじゃないわよぉ」


 目の前の彩が凄く可愛らしく感じる。

 彩をこんなふうにしたのは海君なんだよね。

 男の事で泣くなんて。


「もし、万が一海君があんたを泣かしたら私がどんな手を使ってでも報復してあげる」


 彩は涙を拭いながら私に微笑んだ。


「そうね……澄香のビンタでも食らわせてもらおうかな」

「任せなさいっ♪」


 そうそう、彩は笑ってなきゃ。

 すっかり酔いが冷めたころにタクシーがやって来た。


「あぁ、私も彼氏欲しくなっちゃったな〜。また合コンでも行くかな」

「ろくなのいないって言ってなかった……?」


 その通り……。


「何か、彩見てると彼氏欲しいなって思っただけよ。私も早く春が来ないかなぁ」


 1人の男の事で泣いて笑って悩んで怒って……。

 そんな男に私も早く会いたいな……。

 ……なんて、珍しくそんな事を考えた夜だった。






 海君が海外ロケに出たと聞いて、私は彩を池袋のハンズ前に呼び出した。


「彩」


 珍しく私より早く来ていた彩の後頭部を雑誌で叩いた。


「海君載ってるから買って来た」


 駅の本屋で買った雑誌にはどう考えても彩の事としか思えない内容の記事だったのだ。


 私達は近くの喫茶店に入って雑誌を捲った。

 さすがに気付いたらしく、彩が顔を赤らめる。


「愛されてるねぇ、彩。普通に素で話してんじゃん……って言うか思いっきり公の場で告ってる」


 羨ましいぞ、と私は彩の額にデコピンした。


「気のせいよ」


 俯く彩の顔は耳まで真っ赤だった。


「でも……これ読んで納得できる人間いないだろうね、イメージ違い過ぎ」

「いても困るわよ」


 彩の言葉に私は微笑んだ。

 最近、私の前では妙に素直だ。


「まだ帰って来ないんでしょ?」

「3週間って言ってたけど……延びそうだって」


 頻繁に連絡は取り合ってるらしい。


「そっか……帰って来たらまた遊びに行ってもいい?」

「駄目って言っても来るでしょ?」

「まぁね」


 当然でしょ。

 眼福♪ 眼福♪


「そういえば、6月22日って海君の誕生日なんだってよ?」

「へぇ……」


 あやの反応は薄かった。

 もともとそう言う事をあまり気にしない子だ。


「知らなかった?」

「うん、興味ないし」

「好きな男の誕生日くらい覚えてあげようよ……」


 彩の記念日嫌いは昔付き合った男のせいだ。


「おめでとうとかは彩の性格的に無理そうだし……さり気なく何かしてあげるとか言ってあげるとか?」


 どうよ?

 あんたにも出来そうでしょ?

 いいアイディアじゃない?


「海君の事名前で呼んだ事ないんでしょ?」

「それが何か?」

「呼んじゃえば?」


 彩は心底嫌そうな顔をした。


 好きな男の名前を呼ぶのを嫌がるって何考えてるんだか……。

 たまに彩って理解できないのよね。


「う〜ん……でも、何か考えてみようかな」


 雑誌の写真を眺めながら小さく呟いた彩はやっぱり可愛かった。

 素直じゃないけどね。






 そして7月に入ってから会った2人はやっぱり仲睦まじくて……。


「海君、ちゃんと約束守ってるみたいだね」


 キッチンに立つ彩を眺めながら私は海君に尋ねた。


「約束って……泣かすなってやつ?」

「うん、そう」

「守ってるよ。ベッドの上以外では泣かせてないはず」


 そういう事をしれっと言うあたりが俳優なのかもしれない。


「はいはい、ご馳走様」


 まったく……ベッドの上で泣かすってどれだけ盛ってんのよ?


 正直、最近望月 海という人間の見方が変わってきた。

 どう見てもこっちの方が素だ。

 会うのは2度目だけど、緊張はない。

 この2人を見てると緊張するだけ馬鹿らしく思えたのだ。


「海、ちょっとテーブル空けて」


 キッチンから彩が声を掛けた。


 ……海?


「はいはぁい」


 海君は大人しくテーブルの上に広げていた台本を片付け始める。


 そんなに頻繁に会ってる訳じゃない筈だけど……。

 誕生日に会ったという話は聞いている。


 結局……彩は私にも素直じゃなかったって事か。

 まぁ、10年以上の付き合いで分かってはいたけどね。


 私は彩を見ながら微笑んだ。


「何笑ってるのよ?」


 彩が私の顔を見て眉間に皺を寄せる。

 私は立ち上がってキッチンに向かい、彩の耳元で小さく呟いた。


「“海” ねぇ? 誕生日には何をあげたのかなぁ?」


 彩の顔がボッという効果音が聞こえそうな勢いで真っ赤になった。


「すっ……澄香っ!」

「なぁに?」


 私は声を出して笑った。

 リビングでは海君が怪訝そうに私達を見ている。


 あぁ……恋がしたいなぁ。


 ちょっとだけ彼氏という存在が欲しくなった。


 感覚が麻痺するくらいに2人にアツアツぶりを見せ付けられちゃったからかもしれない。

 まぁ、どっちかって言うと海君が彩から離れないんだけど。


 この2人の馬鹿っぷりを見て憧れちゃうあたり私もあまあまな恋愛に飢えてるのかもしれない。

 ……らしくないけどね。


 あぁ……私にも早く春が来ないかなぁ……。










                                   ――――――― fin ―――――――


ご覧頂きありがとうございます。


澄香は結構いいアドバイザーなのかも。

彼女にも早く春が来るといいのになぁ♪


続編・・・何とか執筆開始しました。

そんなに長くはしない予定です。

掲載時期はあらすじでお知らせさせていただきます。

お楽しみに♪


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
          NEWVEL投票は→ ここ ←です。
          押してもらえると武村が泣いて喜びます。


          海視点の「大好きな彼女」もよろしくです♪
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ