番外編:澄香<前編>
彩の親友の「澄香編」です。
色々な彩を知ってる筈です。
少しくらい新発見・・・あるかな・・・?
私と彩は高校からの付き合い。
お互いに遠慮しないで何でも話せる親友だ。
「彩、暇してる?」
『暇』
「じゃ毎度おなじみ池袋ね。待ち合わせは……サンシャイン通りのゲーセンの馬の前」
『また変な場所指定する……』
「じゃあビックカメラの1階」
『はい?』
「パルコの本屋」
『澄香ぁ……?』
「池袋東武の “アク●ハウス” 」
『何で分かりにくくするかな。待ち合わせって行きやすくて見つけやすい場所指定するものでしょ?』
彩は池袋東武の同じ出口から出て来れた事がない。
だから入るのを嫌ってるのを私は知っている。
「だから馬の前」
分かりやすいじゃない。
何か文句ある?
『……分かったわよ』
私達が学生だった頃から遊ぶのは必ず池袋。
背伸びせずに遊べる安心感からだったんだと思う。
彩は渋谷や新宿で遊ぶのを嫌ってるし、私も池袋の方が安心するし。
そういう意味でも彩とは気が合うのかもしれない。
「彩ぁ!」
私が手を振ると彩は嫌そうな顔しながら近付いてきた。
「あんたって本当恥ずかしい奴ね。そんな大声で呼ばなくても気付いてるってのに」
「取り敢えずバー●ーキング行こうか」
私は彩の言葉を聞き流して歩き出した。
「バーガー●ングって昔サンシャイン通りにあったわよね?」
「1回日本から撤退したんだよね、確か」
彩の交友関係はそんなに広くない。
彩の付き合い方は “狭く深く” なんだと思う。
私は結構 “広く浅く” なんだけど、彩だけは例外。
不思議なんだけど時々無性に会いたくなるのよね。
ワッパーに噛み付きながら私は愚痴り出す。
いつも彩は聞いてくれる。
聞き流してるってのが正しいかもしれないけど、私と彩は誰かに聞いてもらえるだけでスッキリするのでそれでも充分なのだ。
お互いにそれが分かってるから彩は今現在、私が持っていた雑誌を捲りながら簡単に相槌を打っている。
そんな彩の手がピタッと止まる。
その視線は最近人気のある俳優のページで止まっていた。
「あ、望月 海。彩好きなの?」
何となく訊いただけなんだけど、彩は想像以上に動揺した。
俳優の好き嫌いでここまで動揺する人っていないと思う。
「え……演技は上手いわよね」
「22歳かぁ……若いよなぁ。クールでカッコいいよね、私凄く好き」
私が呟くと彩の顔が暗くなった。
「ねぇ、何かあった?」
「べ……別に、何も……あ、あったと言えば海外研修に参加しないかって言われたかな」
海外研修?
「あんた事務じゃなかったっけ?」
「取り敢えずそういう職種のはずだけど?」
「事務ごときが海外研修なんて必要ないでしょうが?」
慰安旅行とかじゃないんでしょ?
変な会社……。
「だから返事に悩んでるのよね。せっかくのチャンスって気もするし、でも事務員だしって気持ちもあって……ちょっと複雑」
仕事の話を聞くのは初めてな気がする。
でも……悩んでるのはそんな事じゃない気がした。
勿論勘でしかないんだけど。
雑誌を見ている時のあんな切なそうな顔、久しぶりに見た。
あの顔は……男が絡んだときに見せる顔……。
「そういえば彩って彼氏いるの?」
「あんた喧嘩売ってる?」
彩が恐い目で睨んできた。
「いや、男が絡んで海外研修悩んでんのかなって思っただけ」
「んな訳ないでしょ? 男ごときで自分の行動範囲を狭めたりしないわよ」
確かに。
あんたってそういう奴よね。
だから前の男と別れたんだしね。
「男なんていらない。男に振り回されるのはうんざり」
彩はそう言いながら凄く悲しそうな顔をしていた。
そして数日後、私は彩から “海外研修に行って来る” というメールを受け取った。
海外研修から帰って来た彩が週末に土産を持って私の部屋にやって来た。
気のせいかもしれないけど、元気がない気がした。
「海外研修どうだった?」
「疲れた」
一言で終わらせるなよ……。
「そうじゃなくて、もっと感想ないわけ?」
「感想ねぇ……」
彩はダイニングテーブルに頬杖をついて小さな溜め息を吐いた。
「いい男との出会いとか?」
「ないない」
「一夜だけの……」
「澄香。私がそういうの嫌いって分かってて言ってる?」
今日は冗談を控えた方がいいらしい。
「じゃあ、何でそんなに元気ないわけ?」
「時差ぼけ」
「うそつき」
「……自分でもどうしていいか分からないのよ、もう少しだけ待って。まだ、話せる状況でもないし……」
こんなに悩んでる彩を見るのは初めてだ。
勉強でも仕事でも男でもこんなに悩んだ事はなかったと思う。
そしてその溜め息の原因を知るのは約2週間後の事だった。
設計事務所に勤める私は土曜出勤も当たり前。
入社時に聞いた土日祝日休みってのはどうやら勘違いだったらしい。
それでも月に1回くらいは何とか連休を取る努力だけはしている。
そして念願の2連休。
まぁ、彼氏のいない私が2連休取ったところで予定なんかないんだけど。
よし、彩と遊びに出掛けて二日酔い覚悟で飲むか。
最近、彩の様子がおかしいのが気になってたし。
彩が動き出すのはいつも昼頃から。
私は昼になるのを待って携帯に電話を掛けた。
呼び出し音が流れて暫くすると留守電に切り替わった。
……携帯に出ないなんて珍しい。
再び携帯を鳴らす。
ベランダにでも出てるのかな?
天気いいし、もしかしたら布団でも干してるのかも。
そう思いながら携帯を耳に当てていると呼び出し音が途切れた。
「もしもし、彩?」
『あ、ごめんね。彩さん今風呂に入ってて出れないんだ。2回も掛けてきたんだから急用だよね? 用件だけ聞いて伝えとくけど……?』
……?
「え? あなた誰? コレ彩の携帯よね? 男いるなんて聞いてないんだけど?」
私は間違いなく彩の番号に掛けた。
この男……誰?
彩からここ最近男の話なんか聞いた事ないんだけど?
この間男なんか要らないなんて言ってなかったっけ?
「あなた、何君? 彩とはいつから付き合ってるの?」
もしかして彩が悩んでたのはこの男の事?
『俺、海って言います。彩さんとは最近知り合ったばかりなんだけど……?』
最近知り合ったばかり?
じゃあ違うのかな……。
「ねぇ、海君。そこどこ? ラブホ?」
『彩さんの部屋だけど?』
彩の部屋?
人をあげたがらない彩が海君を部屋に入れてる……。
それって何気に凄い事なんだけど?
「へぇ……珍しい。彩ってそう簡単に男を部屋に入れないんだけどなぁ……彩から告白って感じじゃないわね。海君から告ったの?」
ちょっと面白いじゃない。
私は好奇心で海君に質問を投げつける。
『うん、そう。俺の方が惚れて猛アタックしてる』
「進行形?」
部屋にあがってて進行形って意味が分からないんだけど?
『うん。信じてくれないんだよね彩さん』
なるほどね。
「あの子カタイからねぇ」
『ずっと片想いしてて、偶然話す機会があったから勢いで家まで押しかけて襲っちゃったんだ』
私は海君の言葉に噴き出した。
「襲っちゃったんだ?」
襲われちゃったんだ彩?
『うん。好きな人が目の前に居たら抑えなんか利かないでしょ?』
やっぱこの子が原因か……。
「海君は年下っぽいね?」
1〜2歳って感じじゃないなぁ。
もっと下っぽい。
『そうだね、下だよ。でも関係ないでしょ?』
「海君は気にしてなくっても多分彩は気にしてると思う。あの子そういう子だから」
20代前半って感じかな?
喋り方も凄く子供っぽいし。
さすがに10代じゃないだろう。
犯罪だし。
そりゃ悩むわな……。
「でも……安心した。海君は本気なんでしょ?」
悩むって事はそれなりに好きだから悩むんだよね。
『勿論本気だよ。信じてもらえなくても……さ』
この子は彩に本気なんだ……。
幸せ者だなぁ彩って。
「海君、今度会おうよ。私海君に会ってみたい!」
彩を悩ませた年下君に会ってみたいと素直に思った。
彩は歳の離れた恋人は嫌だと言っていた記憶があるだけに、興味が湧くのは当然の事。
『うん、いいよ。都合が合えばいくらでも』
「本当? やった♪」
『オネエサンも彩さんの話たくさん聞かせてね』
「それが目的かぁ」
すんなりOKしたのはそのためか。
まぁ、自分の事をあまり語りたがらない彩を思うとそれも当然のような気がする。
『勿論。彩さんの友達に会ってみたいってのもあるけどね』
おまけのように海君が付け足す。
大人の扱いにも慣れているらしい。
「私達は大親友よ。彩の恥ずかしい話も何でも訊きたい事教えてあげる♪」
さて、どこから話してやろうか……。
私はこれから会うわけでもないのにウキウキしていた。
『本当? 約束だよ?』
声や話し方だけでイメージすると子犬みたいな子かな?
『ちょ……!』
彩の声が聞こえた。
『あ、彩さんが来たから代わるね。彩さん、井守さんだって』
『勝手に電話に出ないでよ!何考えてんの?!』
あぁ怒ってる怒ってる……。
私は電話の向こうの話し声を聞きながら笑った。
『1回目は出なかったんだけど、2回目が鳴ったから急用かなと思って』
『だからって……!』
『早く出てあげなよ』
『彩さん、怒ってる?』
『怒ってる』
まるで姉弟の会話だわね。
恋人同士って雰囲気じゃない。
それがおかしかった。
『……もしもし?』
「久しぶり〜あんた面白いのと付き合ってんのね」
まぁ約2週間ぶりなんだけど。
『何話してたのよ?』
不機嫌そうに彩が口を開いた。
「海君って言うんだね〜年下でしょ?」
『そうよ』
溜め息混じりに彩が答える。
「えらい猛烈アタックだったんだって? ずっと片想いしてて、偶然話す機会があったから勢いで家まで押しかけて襲っちゃいました、って言ってたよ?」
彩の怒る顔が目に浮かぶ。
『彩さん怒らないでよぉ……』
情けない男の声。
やっぱり睨まれたんだと思うと笑いが込み上げる。
「あははっ、何か可愛い男じゃない。今度会わせなさいよ、彼は都合が合えばいいって言ってたよ?」
『はぁ?! ちょっとあんた勝手に会う約束したの?!』
それはどっちに向けた言葉なんだろう?
『だって彩さんの友達に会ってみたいから……駄目?』
答えたのは海君のほうだった。
『駄目っていうか……自分の立場分かってんの?!』
『彩さんの友達なら安心でしょ? それとも信用できないような友達?』
自分の立場?
彩の友達なら安心って何?
「何? あんたの彼氏ってそんなにヤバイ人なの?」
やくざさんとか?
『ある種ヤバイ人種なのは否定しないわ……で? 用事って何だったの?』
ヤバイ人種って何よ?
納得いかないまま彩は話を打ち切った。
「今晩暇かなって思って電話したのよ」
本当は元気ない彩を励まそうと思ったんだけど……当然、予定変更。
海君の事じっくり聞かせてもらわなきゃね。
『今晩? 何で?』
「私が暇だったから」
彩の溜め息が聞こえた。
『今日帰るんでしょ?』
『何で? 帰らないよ?』
『準備は?』
『柴田さんがやってくれるから』
おいおい、何の話をしてるのかな?
私が電話してるって分かってるのか?
『あんたって本当にお子様ね。自分の用意くらい自分でしなさいよ』
『柴田さんがセンスないって言って服とか選ばせてくれないんだから仕方ないでしょ? 彼女来るの?』
チャンス!
「何? 行ってもいいの?」
海君は迷惑そうではなかったし♪
『澄香……今日は……』
「酒買って行くから! 時間は未定、早いかもしれないし遅いかもしれない……って事でこれ以上エッチはしないでね!」
都合の悪い事は聞こえません♪
『だから今日は……!』
「じゃ、後でね!」
私は一方的に電話を切った。
ふふふっ、楽しみが出来たぞ♪
さて、何着て行こうかな。
久しぶりに楽しい週末だわ♪
ご覧頂きありがとうございます。
「バーガー○ング」って本当に1回、日本から撤退したんです。
2度めの日本上陸。
結構ファン多いんですよね♪
武村もその1人です。
本日は澄香が彩の悩みの種に気付く所まででした♪
付き合いが長いと語らずとも悟られる事が多くなりますよね。
武村の周りにも悟り野郎が多いです。
明日は<後編>載せちゃいます!!
お楽しみに♪