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有名人な彼  作者: 武村 華音
11/23

番外編:伊集院視点


伊集院の視点からちょっとだけ書いてみました。

会社での彩の様子が少しだけ見える気がします。

 俺の名は伊集院(いじゅういん) (すばる)

 大手と言われるような会社でつまらないサラリーマンをやっている。


 正直、あまり乗り気ではなかった会社だ。

 だが、俺が配属された部には彼女がいた。


 五十嵐(いがらし) (あや)


 俺と同じ年だった。

 彼女は短大卒、俺は専門卒。

 彼女と最初に話したのは配属された部署での自己紹介だった。


「伊集院君って昴って名前なのね、11月生まれだったりする?」

「よく分かったね、11月28日だよ」

「昴って秋から冬の星だもの。だからそんな気がしたの、当たるとは思わなかったけど」


 彼女は眼鏡を両手で抑えながら微笑んだ。


 あの瞬間から彼女が俺の中に巣くったんだ。

 特別美人というわけではない彼女が何故か気になる。


 他の部署奴等も何故か彼女の周りに集まる。

 性別も部署も上司も部下も関係なく好かれていて眩しい存在だ。


 彼女は素直で明るくて裏表もない。

 席は俺の正面。

 社内の同期、それ以上の人間は皆彼女を苗字ではなく “彩ちゃん” と名前で呼ぶ。


「伊集院、必要以上に彩ちゃんに近付くな。お前が傍に寄ると彩ちゃんが(けが)れる」


 部長も彼女がお気に入りだ。

 俺の顔の前にキングファイルを立てて彼女との間に壁を作った。


 俺は確かに女癖は悪かったかもしれない。

 それを自慢げに話してたし、部長が俺に警戒するのも分かる。

 でも、彼女に対する気持ちは真面目だ。


 彼女は仕事も出来るし、英語も堪能。

 人の顔を覚えるのも得意らしく、1回会えば彼女の頭に顔と名前がインプットされる。

 好みや考え方なども把握するのが早いため、頻繁にプレゼンに駆り出されている。

 落としどころを知っているから成功率が高い。


 彼女のプレゼンは “五十嵐マジック” と言われていて社内でも評価は高い。

 社長も知ってるくらい有名なのだ。

 “五十嵐マジック” はプレゼンだけじゃないんだけど。


 言っておくが、彼女は決して営業じゃない。

 なのに、営業の仕事をしているのだ。

 彼女は他の奴の成績になるというのにプレゼンを担当して、成功すれば素直に喜んでしまえるお人好し。


 俺と彼女と同じ部署の矢島と他の部署の榊・遠山は入社当時からの飲み仲間で、月・水・金に飲むのが暗黙の了解になっていた。


 行く店も毎回同じ。

 店内の装飾や店内の雰囲気がいいのだ。

 若いイケメン店長のセンスと人柄もいい。

 俺達は開店当時から既に3年通う常連で、店長がわざわざ席を取っておいてくれる。


 元モデルでイケメンの店長が居るあの店はいつも混雑している。

 顔馴染みの従業員も多く、時々おまけや試食品を貰う事もある。


 これも “五十嵐マジック” なのだろうか……?






「海外研修に行ってみる気はないか?」


 部長にそう言われてから2週間が過ぎた。

 定時を1時間ほど過ぎ、彼女の机の上が片付いてきた頃に榊がやって来た。


「彩ちゃん、そろそろ行かない? 上司抜きで」

「そうね」


 彼女は嬉しそうに笑った。


 エロ課長が居ると彼女はいつも触られている。

 彼女がトイレに立った瞬間に誰かが課長の隣に行ってお酌をする事で彼女を逃がす。

 情けないけどそれが俺達の精一杯。

 暗黙のルールだった。


 俺達は会社を出て新橋の店へと向かう。


「あ、彩ちゃん今日のプレゼンありがとうね。俺、英語苦手でさぁ……」


 矢島が苦笑した。


 英語が苦手……?

 お前確か帰国子女で英語ペラペラじゃなかったか?


「大丈夫、クレインさんとは面識もあったし」

「やっぱ彩ちゃんだよなぁ。俺と付き合おう」


 おいおい……。


「今日のは決まりでしょ? 彩ちゃん、付き合うなら俺とにしようよ」


 まったく……。


「1週間以内に契約確定だね。彩ちゃん駄目だよ、付き合うなら俺だよね!」


 どいつもこいつも……。


「彩様様だね。じゃ、俺も立候補」


 ……とか思いつつしっかり俺も便乗。


「じゃ、感謝の証に奢ってもらおうかな?」


 彼女はそう言って笑った。

 いつも俺達の本当か嘘か分からない告白はスルーされる。

 これが俺達の日常会話。


 会話が途切れた時、彼女が溜め息を吐いた。


「彩ちゃん……元気ないね?」

「そんな事ないわよ、パソコンと睨めっこし過ぎて目が疲れちゃっただけ」


 嘘だ。

 10年間見てる俺の眼は誤魔化されない。


「こんばんわ」


 顔馴染みの店員に挨拶して、いつも座る席に向かい、いつものように適当に注文をする。


「そういえば彩ちゃん、海外研修の話どうした?」


 昼間、部長に明日が最終締め切りだと言われた。


「あぁ……まだ保留。今忙しい時期だし……ってもう締め切りよね、ちゃんと返事しなきゃね」

「彩ちゃんが居なくなったら俺ら仕事できないよ。寂し過ぎて」


 榊が情けない顔で呟く。

 強ち嘘じゃないと思う。


「大袈裟よ」


 たかが2週間、されど2週間。

 彩ちゃんが居ない職場での2週間は2ヶ月にも2年にも感じるだろう。


「伊集院君だって行くんでしょ?」


 彼女が俺に話を振ってきた。


「彩ちゃんが行かないなら考えるよ」

「駄目じゃん」


 妙な視線を感じたのは気のせいだろうか?

 誰も何も言わないので俺もその後、気にする事はなかった。


「次、カラオケ行くか?」


 矢島が嬉しそうに振り返る。


「私は帰るわ」


 彼女は必ず9時か遅くても10時には帰路につく。


「じゃ、また明日」


 俺達は彼女と店の前で別れカラオケに向かう。

 途中振り返ると彼女が長身の男と話していた。


 知り合いか……?


「伊集院!」


 遠山が俺を呼んだ。


「悪い悪い、今行く」


 気になりながらも俺は同僚の後を追った。


 翌朝、彼女は部長が来るなり研修参加を申し出た。

 それを見て俺も申し込んだが……彼女の様子がおかしいのが気になる。

 昨日、やっぱり何かあったんだろうか?






 研修は予想以上にハードだった。


 会社から開放されると思ったのが間違いだった。

 言葉の壁、スケジュールの細かさ、食生活の違い。

 それだけでも充分に疲れるのに、毎日部長からメールは来るし報告書も書かなければならなかった。

 半分が終わった頃にはうんざりしていた。


 だから、彼女を飲みに誘ってみた。

 彼女も相当疲れているだろうと思ったのだ。

 案の定凹んでいた。


「彼だって寂しいんじゃない?」


 酒を飲みながらそんな事を訊いてみた。


「別に……そんな事、ない……って言うかいないしっ」


 彼女は何故か動揺しながら否定した。


「喧嘩でもしたの?」


 何だかムキになってる気がして彼女の顔を覗き込んだ。


「だ……だからいないってば……!」

「そんな顔で “いない” なんて言っても全員が嘘だって言うよ」


 泣きそうな顔していないなんて……さ。


「でも……もし、本当にいないなら俺と付き合わない?」


 彼女は首を傾げた。

 こういう時、自分の日頃の行いを後悔せずにいられない。

 本気にされてない気がする。


「だから、俺と付き合わない?」

「付き合わせない」


 背後から男の声がした。

 間違いなく俺と彼女の会話に口を挟んだ。

 声の方向に顔を向けて俺は固まった。


「俺のだから口説かないでくれる?」


 テレビでよく見る顔がそこにあった。


「な……何してんのよ?」

「CM撮影」


 彼女の知り合いらしい。


「柴田さんは?」

「いるよ、仕事だって言ったでしょ?」


 男の顔はテレビ同様無表情だった。


「望月……海……?」


 人気俳優だ。


「伊集院君……あの、これは誤解……!」

「何が誤解? 黙ってこんなとこに来て俺が心配しなかったとでも思ってるの? 何で何も言わなかったの? ちゃんと答えてよね、彩さん」


 望月 海が彼女の彼氏(おとこ)……?!


 手を掴まれ強引に連れて行かれる彼女の背中を見つめながら俺は暫く呆然としていた。

 あんな奴が相手なら俺が敵う訳がない。


 恐るべし “五十嵐マジック” ……芸能人にまで有効だったとは……。

 彼女が他の男に靡かないわけだ。


 その晩の酒は最高に……不味かった。






 いつの間にか彼女の相談相手というポジションになってしまったようだ。

 それでも彼女の笑顔が見れるならと、俺は彼女の相談に乗ってみたりする。


「彼とは会ってるの?」

「ん? 帰国後は1回だけ」

「それでも仲直りが出来てよかったじゃん」


 俺的には面白くないけど。


「でもねぇ……聞いてくれる?」


 彼女は男からのプレゼントの話をした。


「確かに期待なんて全くしてなかったんだけど……予想できないって言うか予想しない物だと思わない? ありえないでしょ?」


 俺は大爆笑。

 理解不能な男だ。


「面白過ぎ……普通そんなもんあげないし、そんなもんにラッピングするか?」


 ありえない。


「でしょう? おつまみには不自由しないけど……素直に喜べないのよね」

「そりゃそうだ。でも意外だね、そんな天然馬鹿だとは思わなかった」


 笑いが止まらない。

 それも彼女への初めてのプレゼントだって言うんだから話にならない。


「特製春巻きと麻婆豆腐お待たせしました」


 店長が自ら運んで来るのは珍しい。

 年齢は……微妙だけど俺らよりも若干年上と言ったところだろうか。

 相変わらず綺麗な顔をしている。


「あっちで2人を呼んでる奴が居るんだけど」


 呼んでる奴……?


 俺は彼女と顔を見合わせた。


「この席はそのままにしておくんで行ってやってくれません?」


 鞄だけ持って俺達は店長の後について行った。


「彩さん、何で2人で飲んでんのさ?」


 機嫌の悪い “お菓子野郎” が居た。


「嫉妬か坊や?」


 その存在がムカつく。

 俺は挑発するように彼女の肩を抱いた。


「彩さんに触んないでよ」

「羨ましいだろ?」


 お前には出来ないだろう?

 芸能人は不便だな。


 俺はそう思いながら勝ち誇ったように微笑む。


「何で2人っきりなのさ?」

「デートだから」

「伊集院君」


 さすがに彼女に睨まれて肩に回した手を叩かれた。


「まったく……皆遅れて来るだけよ」


 溜め息を吐きながら彼女が答える。


「結構余裕ないんだな、お菓子野郎」


 彼女に相当惚れ込んでるらしい。

 俺はお菓子の話を思い出し再び笑い出した。


「彩さん、この人イカレてるの?」


 イカレてるのは貴様だ。


「普通ありえないでしょ、お菓子の詰め合わせなんて」

「何で知ってんのさ?」


 奴に睨まれたが、そんな事くらいでビビるわけないだろ。


「彩ちゃんから聞いたからに決まってるだろ?」


 相当ガキだな。

 テレビとのギャップに更に笑いが込み上げる。


「彩ちゃん、席戻ろう。春巻き冷えちゃうよ」

「あ、うん」


 俺は彼女の手を掴んで席に戻った。

 その直後に彼女の携帯が鳴った。

 彼女が携帯を見ながら嬉しそうに微笑む。

 苦笑するしかない。


「彼から?」

「え? あっ……いや……」


 図星かよ……。


「結構ショックだったりして」

「え?」

「そんな顔されると凹むよ」

「何で?」

「俺マジだから」


 信じてくれないだろうなぁ……。


 再び携帯が鳴った。

 今度は電話のようだ。


「もしもし? ……は?」


 彼女が顔を上げて俺の顔を見た。


 何なんだ?


「代われって……」

「俺? もしもし?」

『あんた何考えてんのさ? 彩さんは俺のだって言ったじゃん』

「は?」


 やっぱり貴様か……。


『口説かないでって言ってんの』

「あぁ聞こえてたの?」


 まぁ、聞こえるように口説いてんだけど。


『あんた男がいる女が好きなの?』

「そういう環境の方が燃えるよ。実際、会社にも君以上の強敵が居るからね」

『強敵? 強敵って誰さ?』

「さぁ?」


 不安になっとけ、馬鹿。


『彩さんだけは譲らないよ』

「でも、結局彼女次第でしょ?」


 俺は余裕もないくせに余裕の笑みを浮かべて電話を切った。


「嫉妬されちゃったみたいだね」

「嫉妬?」


 彼女は首を傾げる。

 俺は身体を乗り出し、彼女の傍で囁くように告げた。


「愛されてるんだね彩ちゃん」


 彼女の顔が真っ赤になった。

 口説いてると勘違いしとけ。


「あの男、相当彩ちゃんに惚れてるよ。自信持ちなよ」


 あぁ……何でこんな事教えてやっちゃうんだろ……。


「伊集院、彩ちゃん口説いてるのか? 抜け駆けはズルイぞ」


 遅れて来た同僚達が店内に入って来て苦笑した。


「気を利かしてあと1時間位遅れてくれたら落とせたかもな」


 俺は同僚に微笑んだ。

 奥の席から殺気を感じるのは気のせいではないだろう。


 何でこんな奴を選んだんだ?

 ……母性本能か?

 それならば勝ち目はない。

 何故なら甘えるのは俺の苦手分野だからだ。


 でも、そう簡単に諦められるものではない。

 なんと言っても長い時間彼女の目の前に居るのは俺。

 まだまだチャンスはある筈だ。


 見てろよ、望月海!!












                                      ――――― Fin ―――――





ご覧頂きありがとうございます。


伊集院編です。

彩に本気だったんですねぇ。

彩の前でカッコつけてるけど、海相手に対抗意識を燃やしているあたり伊集院も大人気ない・・・。

そしていつも挨拶のように口説いてるから本気で言っても本気にされない・・・ま、自業自得ですよね。


海編「大好きな彼女」として別に載せようと思います。

今月中にUPしたかったのですが私事都合で書き上がりませんでした・・・。

すみません。

11月1日から上記タイトルで投稿開始します。

ご迷惑をお掛けしてすみません。

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