第6話
こんにちは、メノウです……ぐすっ(泣)。ちょっと本編を先に読んでしまって……。俺、こういうところがダメなんだよな。あっ、それでもしかしたら俺みたいに泣いてしまう人もいるかもしれないのが今日のお話です。では、本編へどうぞ…ハンカチどこだっけ?
周りにはあの方と衛兵、それにたくさんの人達。
目の前には倒れた男性。
私の手には男性の死を表す赤い液体。
チャリ。
足かせを外され、両手を衛兵の前に差し出す。
衛兵は慣れた手つきで間に鎖のない手錠を私の腕に付けた。
意外に軽いが鉄で出来ているため非常に固い。
首には怪盗が盗もうとしているキャッツアイの首飾りにシルクで出来た純白のドレス。
そんな首飾りやドレスをも見劣りするほどの私の髪は月に照らされている。
その淡い光が私を包み込むように真夜中になっていく。
あの後、正気に戻ったあの方が衛兵達に探させたが、見つからなかったらしい。
変装していると私は思ったが聞かれなかったので言わなかった。
手錠を見ながらそんな事を考えていると付き添いの衛兵が歩き出した。
「衛兵さん」
「何だ?」
「私がもし、怪盗に盗まれたらどう思いますか?」
そんなのもう「残念」「あの方に何をされるか」に決まっている。
私は確信していた。なのに……
「やっとか、って思う。やっとこの子は自由になれたのかって」
月の光が雲で隠れ、石の廊下に衛兵の持つランプだけが灯っている。
衛兵は続けた。
「正直俺は、君に自由になってほしい。何者にも縛られずただ、自分の意志で生きてほしいと思っていた。だから怪盗には感謝している」
「今日、お城にいる皆さんに同じ質問をしました」
あの方以外の全員だとは口が裂けても言わない。
「皆さん、衛兵さんと同じ意見で驚きました」
全員一致。そんな事があり得るのかといろいろ疑ってしまった。
「それだけ君に自由になってほしいんだよ。俺もみんなも」
衛兵がにっこりとした顔で振り向いた。
「本当に自由になれるのでしょうか?」
「っそれは……」
衛兵は複雑そうに言葉を発した。
それから、いつもの場所に着くまで沈黙が続いた。
「サファイア」
「はい」
いきなり衛兵に名前で呼ばれた。
「本当にこれで良いのか?」
私はその質問に頷くことも横に振ることも声を出すことも出来なかった。
すると衛兵はまたにっこり笑うとランプを持って、もと来た道に足を進めた。
暗闇が私を締め付けた。
月が出始めたのはあの方の声が聞こえた時だった。
あちらとこちらを隔てている幕。
もう慣れてしまったこの場所。
暗くて寂しくて孤独で怖くて苦しくて。
それでもあの子達を守れるのなら私は……
「幕を上げろ」
あの方の声がホールにいる貴族達をより一層、ざわつかせた。
今日はいつもより人数が多い気がする。
1歩、足を踏み出せば口々に言葉を発する貴族達。
私は自由になんかなれない。
裸足の足に石の冷たさが伝わってくる。
そういえば今は冬だ。
あの子達はちゃんと寝てるかな。寒くないかな。
そんな考えを抱きながら、前を向いた。
それと同時に…
パリーーーン!
「怪盗ブレイブ参上!!!!」
大きなホールの1つの窓を1人の男が両腕をクロスし、かがんだような姿勢で入ってきた。
いや、これはぶち破ったの方が当てはまるだろうか。
さらに、その男は私の目の前にある大きなガラス窓から入ってきたのだ。
男は一回転し着地した。それはもう見事なほどに。
男に破片や傷はない。
そして、放った一言があれだった。
しかし、その男は紛れもなくあの偽物の衛兵であり、一国の王子でもあった。
周りの貴族達は大騒ぎ。
「怪盗だ~!」
「王子達の噂は本当だったのか!」
「早くここから出るぞ!」
口々にそう言っている。
そんな中…
「アゲート!1人で目立つな!!」
男が入ってきた所の横からまた、パリーーーンという音が3つと3人の男が窓から入ってきた。
3人共、さっきの男のように見事な着地をして見せた。
その中の1人がそう大声で言ったのだった。
数分ぐらい経った頃だろうか。
「静かにしろ!!!!」
突然、あの方の声がホールに響き、辺りは何事もなかったかのような静寂が数秒続いた。
最初に声を発したのはあの方だった。
「ブレイブと言ったな。まだ12時には早いと思うが?」
最もである。
12時にはまだ、1時間早いと思った。
すると、怪盗達は顔を見合わせニヤリと笑った。
「「「「うっせーくそじじい」」」」
口を揃えてあの方に言ってしまった。
不覚にも驚いてしまった。
貴族達も大層、驚いていた。
そして言われた本人は身体を小刻みに動かしていた。
さきほどの沈黙がまた、続いた。
するとあの方が怪盗達をギロッと睨んだと思えば、
「お前達よりわしの方が身分は上であるぞ!!高貴なわしにそのような言葉遣い、けしからん!!サファイア!我の名前を言ってみよ!!」
あの方が私の方を向く。
大騒ぎをしていた貴族達も私の方を向く。
「はい…エメラルド王でございます」
静かになったホールに私の声が木霊する。
あの方は満足そうに笑った。
「本心を言え」
誰かがそう言った。
声のした方へ顔を向けると怪盗達の中の1人だった。
朝に会った男だ。
男が続ける。
「自由なんてこの世に存在しないかもしれない。ずっとありはしないかもしれない。だが、少しくらい我が儘を言っても良いんじゃないか?少しくらい自分の意志を言えばいいんじゃないか?それが自由なんじゃないのか?」
月が雲に覆われた。
一瞬、心が揺れたのは気のせいだ。でも…
考えたことがあった。
自由になれたらと。
でも出来ないんだ。
この髪がある限り。
あの契約がある限り。
「私には自由になる資格などありません」
「じゃあさ、望みはあるか?」
望み。それなら…
「この城にいる奴隷の子供達を家に帰してあげたいです」
「サファイア!!何を言っている!!お前、契約のことは忘れてないだろうな!!!!」
あぁ、私はまた縛られる。
俯く時、私はどんな顔をしていただろう。
「なぁなぁ、王様」
「なんだ!!」
偽物の衛兵があの方に敬語も使わないで話している。
「誘拐ってのはな、犯罪ってこと知ってたか?特に小さい子供」
「なっ…」
見えなくても、あの方が動揺している事は分かった。
「やっぱりなぁ~。んじゃ、オパール、行ってくるわ!」
「あぁ」
すると、こちらに足音が近づいているのが分かった。
偽物の衛兵がこちらに来ているのだろう。
横を通り過ぎる時、
「自由なんて自分で勝ち取るもんだぜ、あんた」
と言った。
振り向くと男は幕の中に入っていった。
男が消え、前を向くとそこに貴族達の姿はなかった。
いるのは私とあの方と怪盗の3人だけであった。
「もう1度聞く。なぜサファイアを狙う?」
「もう1度言う。自由にするためだ」
「所詮、お前らも金だろう?ここに来た者達は皆、そうだった。だから、わしが保護しているんだ」
「保護だって?毎夜毎夜、貴族達への見せ物がか?」
男の意見は最もだ。
だけど自由になった時、私はまた……
「助けてくれた人が目の前で死んでいくところなんてもう見たくないの!お願いだから…放っておいて!!」
崩れるように力なく座る。
あの方が何か言っているようだけど、全く耳に入ってこない。
声が手が足が息が身体がすべて震えてしまうほどの恐怖が押し寄せてくる。
それが怖くてまた俯く。
自分の肩を抱きたくても手錠をしていて震えが止まらない。
すると誰かの足音が近づいてきて、反射的に震える自分の手をぎゅっと握り、目を瞑る。
強く強く。一切の光を入れないように。
そして足音が止まったかと思うと、何かが私を覆う。
優しくて陽だまりのような温もり。
ゆっくり目を開けると黒い髪が見えた。
あぁ…あの怪盗だ。
怪盗は強く私を抱きしめるとゆっくり話し始めた。
「俺たちは殺されねぇし死なねぇ。あんたは、自分の自由から逃げている。お前の人生なんだぞ?誰の物でもないんだ。だから、自分の人生を人に預けるな。1人で目の前の壁と戦っても勝てない時がある。そんな時は周りを頼れ。信じれる奴なら1人でも2人でも何人だって構わない。あんたさ、自由を犠牲にしてまで1人で背負い込む必要なんかないんだぞ。苦しくて怖くてもうどうしようもなくなった時あんた、心に仕舞い込むだろ。何でもかんでも心に仕舞うな。そん時はな、思いっきり泣け。思いっきり弱音を吐け。傍にいてやるし、話も聞くから。あんたを不幸になんかさせねぇ。幸せだって、自由だって、その口からあんたの本音が聞けるまで一緒にいてやるから!」
怪盗の声はよく聞こえた。
近くにいるからなのか何なのか、よく分からない。
それに身体の震えも止まっていた。
だけど、どうしても止まらなかったもの。
それは…10年間、誰にも見せずに堪え続けてきた大粒の涙だった。
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