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9 - ピエロと、金ヅル。

コメディ成分多めです


こういうのを本来やるつもりでしたw



後半はけっこう、いや、かなりシリアスなので、バランスは取れてると思いますが……どうなんでしょう

「……少し静かにしろ。シバくぞ」


「はいぃぃぃ、すんませんっしたぁぁぁ!!」



俺がちょっと脅すと、奴は恐ろしいスピードで土下座を繰り出す。



低頭な姿勢は評価するが、静かにしろって言ってんだろ……



「クロス、お客さん? 目、もう開けていい?」


「おお、忘れてた。 右目完成したからとりあえず開けていいぞ」


「忘れるなんてひっどーい。 それより、鏡貸して!」


「あっちの棚のところに置いてあるから取ってこい」


「分かった、行ってくる!」



「俺を忘れないでぇぇぇぇええ!!!」



どうやら俺達の会話中ずっと土下座を続けていたらしい。



「忘れた訳じゃない。 無視してただけだ」


「もっと酷いわ!!」


「分かったからもう少し音量を抑えてくれ……大きい音は苦手って何時も言ってるだろ」


「わ、悪い……まあ、俺のことは何一つ分かってくれて無いと思うが」



ある程度落ち着いたのか、うるさい男はソファまで歩き、腰かける。



「俺のナレーションすんな! しかもうるさい男って……で、あそこで鏡に向かってはしゃいでる女は一体、誰な、ん……」



また俺の心の声が漏れていたらしい……これからは気を付けなければ。



かのうるさい男は、ニーナの方を凝視したまま完全に硬直している。




「クロス、これ凄く良いよ!! 私、気に行っちゃった!!」



満面の笑みでこちらに歩み寄ってきたニーナの右目まわりは、黒ぶちピンクの大きなハート模様が描かれている。



これだけだとパンクロックのメイクに見えなくもない。




「も、もしかして、み、ミス・ベルマディ……?」



最初の威勢はどこへやら、彼は震える指でニーナを指差す。



彼女はその言葉でようやく彼の存在を認識したようで、制服のスカートを優雅につまみ、一礼する。



「はい。 御上覧の通り、わたくしはベルマディ家が長女、ニノライナ・ル・ベルマディにございます……で、クロス、この人は?」



とても会話できるような状態では無くなっている彼を見て、ニーナは俺に説明を求める。



「あー、こいつの名前はルフォーク・フォン・マクダネル。 この前話しただろ?」


「あぁ、あなたが噂のクロスの”金ヅル”さんなんですね!」



「ちょぉっと待てえぇぇぇぇぇえええええええ!!!」



ちっ、また復活しやがった。



「何で舌打ちされたの!? い、いや、そんなことより、ミス・ベルマディ今何と……?」



「え? ええと……『あなたが噂の”金ヅル”さんですね』って言ったんだけど」



「ノオぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!! ちょ、ダウトです、ダウトですよ、ミス・ベルマディ! あなたはこの男に騙されている!」


「え、そうなんですか?」


「そうなんです! コイツの顔を見てください、狡猾さがにじみ出てるでしょ!?」


「え、えぇ??」



ニーナは戸惑いながらもこちらをじっと見つめてくる。


少しの沈黙の後、


「べ、別にそんなこと無いと思いますけど」


と言いながら目を逸らした。



「な、なにちょっと赤くなってんですか! というかそもそもどうしてここに居るんですか……ハッ!! そう言えばさっきは二人で……お、お二人はどんなご関係で? ま、ま、まさか!?」



一人で青ざめたり赤くなったり忙しい奴だな。


さっきの場面も勘違いしたままだし――――おいニーナ、いかにも『良いこと思いついちゃった』みたいな顔してんじゃねえよ……また面倒なことになりそうだ………。



「さあ、どんなご関係でしょうか……ね、クロス?」



そう言いながら、俺の腕にギュっと抱きついてくる。



「なぁっ!?」



後ずさるルー―――この哀れな金ヅルの愛称だ―――はニーナのせいでさらに勘違いを深めてくれているようだ。




これは役得と喜ぶべきなのか、下らない茶番に付き合わされていると嘆くべきなのか……本当にどうでもいい事だが、当たってるんだよ、ニーナ………




そのまま勘違いさせておくのも面倒なので、訂正させることにする。



「ただの友達だ、勘違いすんじゃねーよバカ。 ニーナも早く離れないと、化粧してやんねーぞ」



ニーナは「むぅ…」と不満げな様子で、ようやく俺から離れる直前、



「泣きながら一夜を過ごした関係なのに……」


俺の耳元で囁き、妖艶な笑みを見せる。



「お前なぁ……」



ルーに聞かれたらどうすんだ……あながち否定できないのが性質タチが悪い。



まったく心臓に悪い……色んな意味で。




ニーナが素直に離れた直後、今度は「俺の扱い酷くね……?」と落ち込んでいたルーが詰め寄ってくる。



「っていうかクロス!! あのミス・ベルマディになんてこと吹き込んだんだよ!! 会う前から俺の評価が最低ランクだろうが!!」



「……人間は底辺から這い上がってきた時こそ、その真の力を発揮するみたいなことを言ったり言わなかったりするだろ?」


「なにその曖昧すぎる話! お前ゼッタイ今話作っただろ!!」



「えーと、金ヅ…えと、ミスタ・マクダネル? 一つお聞きしても?」


「もう金ヅルで定着しかけてんじゃねーか……なんでしょう、ミス・ベルマディ?」


「その前に、私のことはニーナで宜しいのですよ? 敬語も不要です」



そう言って反則級の笑顔をルーに見せる。


ルーはそれにクリティカルヒットした様子で、


「え、う、りょ、了解であります! わ、わたくしの事も、る、ルーとお呼びくだしゃい!!」


半端ではないテンパり具合である。



「では、ルー様。 クロスはあなたを”金ヅル”と呼んでいるのですが、実は私はその言葉の意味を知らないんです。 宜しければ、教えてくださいませんか?」


「……は?」



ニーナの爆弾が見事命中。


ルーは完全に石化した。



「あの、ルー様? 大丈夫ですか? それで、金ヅルとは一体……」



「う、うわああああああああん!! 覚えてろよ、クロスのばーーーーーーーか!!!」




ニーナのさらなる追撃に遂に耐えられなくなったルーが、安い悪人の如き捨てゼリフと共に部屋を飛び出していった。




なんで恨みの矛先が俺なんだよ。


とどめを刺したのはニーナだろうが……まあ、全ての元凶は俺なんだが。





色々と面倒なので、金ヅルの意味をニーナに教えて卒倒させた後、再びニーナのピエロメイクに取り掛かっていた。




「それにしても、ルー様は良い人だったね……後で謝りに行かないと」


「……あの状況の後で、どうしてそんな感想が飛び出してくるんだ?」


「だって、散々ヒドイこと言っちゃったのに怒られなかったし……マクダネル家の人って聞いたから少し身構えてたけど、何といってもクロスの友達だし、心配無かったね」


「いや、怒る余裕も無かっただけだと思うが……それに、友達じゃなくて舎弟兼パシリ兼金ヅルだ」


「どうせ、そのぱしりって言うのもあんまり良い意味じゃないんでしょ……どうしてそんなに酷いこと言うの?」



責めるような口調のニーナに少しだけ罪悪感を感じたが……



「アイツはすぐ調子に乗るんだ。 上級魔術暴発させて建物半壊させたり、七股かけて修羅場になったり……その度に泣きつかれる俺の気持ちも考えてくれ」



「うわぁ、その噂聞いたことある……あの人だったんだね」



眉をひそめる彼女を見て、心の中でざまーみろ、とルーに念を送っておく。




「まあ、その分使い勝手は良いんだが。 ――――――ほら、出来たぞ」




筆を置いて、鏡を手渡す。



今のニーナの顔は、それはおかしなことになっている。



右目部分の大きなハートに、左眼はクレオパトラ顔負けのアイシャドウ。



鼻の頭は紅く塗られ、唇の中心も同じ色だ。



後は頬をうっすらと着色しただけなのだが……



「ぷふっ、これ、ホントに私なのー!? うわぁ、私ピエロになったよ!! すっごーい!!」




手鏡を放り出して再びはしゃぎ出す。



「おい、室内で側転なんかすんじゃ―――――――」



ガラガラ、ガッシャーン!!



「いったぁ……」


「こんな狭い部屋でそんなことするからだ、まったく……」



ニーナが作品の保存用の大きな棚にぶつかり、中から飛び出た彫刻群が彼女を埋め立てていた。




「あはは、ごめんごめん……ん?」



(しまっ……!)



散らかった床の中で彼女が手に取ったのは、ちょうど彼女の手と同じくらいの大きさの彫刻。



文字が刻まれた台座の上には、凝った装飾がなされた十字架が生えている。



一本の細い木から作られた、それと同じような彫刻が彼女の周りにもいくつも散らばっている。



わざと暗い色で染め上げたそれらは、寂しさの中にどこか荘厳さを感じさせる。




そう、それはまるで――――――




「これ、墓標……?」



彼女の的確な呟きに、思わず頭を抱えてしまいそうになる。



一番見られたくない作品を見られてしまった。



「ああ、そうだ」



「え、え、本当に……!? ご、ごめんなさい!」



地面に横たわる木製の墓を、彼女が慌てたように、かつ慎重な手つきで元の場所に戻していく。




しかし俺はその手を止めさせ、本来の置き場所である窓の近くへと持っていく。



いくつもの同じ形の作品を日が当たる処に綺麗に並べる。




少しだけ久しぶりに見たそれらを懐かしむように見ていると、他の作品を棚の中に片付け終えたニーナがこちらに近づいてきた。




「あの、それ、大切な物なんだよね……私のせいで汚しちゃって……ごめんなさい」



泣きそうな顔で謝る中途半端ピエロに、思わず笑ってしまいそうになる。



「別に、壊れた訳じゃないんだ……怒ってないから気にすんな」


「……でも」


「ああもう、気にすんなっつってんだろが」



俺の言葉に顔を俯かせるニーナ。



……ああ、もう何なんだこの罪悪感は!



「悪い、言い方が少しキツかった。……ほら、顔上げろって。 せっかくの化粧が台無しになるだろ」




無理やり上を向かせ、ハンカチで目に溜まった涙を拭き取る。



「……ありがとぉ」



何度か繰り返してようやく涙が止まったようで、にへら、とふやけた笑みを向けてくる。



「……見られたくないもん見られたから、少し焦ったんだよ。悪いな」



「うん、こっちこそごめんね。……でも、一応それが何か聞いてみても良い?」



彼女にしては珍しい遠慮がちなセリフ。


気を使ってくれてるんだろうが、それがかえってむず痒い。



という訳で、少しだけ真実を話すことにした。



「……これは、俺の知り合いの墓だよ。……それも、目の前で死んだ、な」



「そ、んな……」



俺の目の前にあるのは、ほぼ同じ形をした11個の墓標。


愕然とした表情をしたニーナを見て、少し言い過ぎてしまったかな、と後悔する。





……いつも、そうだ。


おれのすること成すことは全てが不幸につながっている。


ホント、最低な人生だ。




―――――――でも。




こんな俺を”友達”と呼んでくれる彼女だけは、何としても悲しませる訳にはいかないんだよ。





「何で君がまた泣きそうになんだよ。 俺はもう気にしてないんだ。 ただ、こういう風に俺から手向けをしてやれば、彼らもきっと喜ぶと思うだろ?」



そして、俺には到底似合わないだろう微笑みを一つ浮かべてみる。




彼女はそんな俺を見て目を丸くしたけど、すぐに誰もが見とれるような微笑を返してくれた。



一筋の、宝石のような涙を伴なって。




「だから、なんで君が泣くんだ」



再びハンカチを取り出してそれを拭き取る。



「ぐす、そんなの分かんないよ……私、こんなに泣き虫じゃないはずなのに」



おかげで右目のハートが少し滲んでしまった。



元からだったが、さらに不恰好だな……。




「ありがと……もう大丈夫だから」



ハンカチを目元から離した直後、いつものはじけるような笑みに戻るニーナに安堵する。



「はあ……ニーナが泣くと、心臓に悪い」



「うふふ、ねぇクロス……私が死んじゃっても、こうやってお墓作ってくれる?」



「……縁起でも無いこと言うな」



さすがにそれは怒るぞ………?



「ごめんごめん、冗談だよ。 これ、何て書いてあるの? 私、読めないんだけど……」



そういって彼女が指し示すのは、墓標の台座に刻まれた文字。



「ああ、それは俺のいた国の言葉で刻んであるんだ。それぞれの名前と、『安らかに眠れ』って書いてある」



「名前は、さすがに教えてくれないよね……?」



「……教えたところで、何の意味も無いだろ?」



「ううん、ちゃんと意味はあるよ?……その名前を知れば、私も背負えるから。 クロスの辛いことも苦しいことも、分けてもらえるから」




真っすぐ俺のことを見つめてくるニーナ。



あまりにも澄んだその瞳――――――俺は心臓が張り裂けるような痛みに襲われる。



優しすぎるその言葉。



毒にも似た甘い誘惑に、全てを、吐き出してしまいたくなる。




でも、彼女に俺の過去を背負わせることなんて、汚してしまうことなんて、絶対に出来ない。



たとえ、このままでは俺の心が壊れてしまうと分かっていても――――――



「そんなこと言われたら、なおさら言えねぇだろ……」




何とか紡ぎ出した言葉。



彼女は笑みを崩しはしなかったが、その瞳の輝きが少しだけ、悲しげに揺らめいた気がした。




「そっかぁ、残念。 ――――――あ、疑問に思ったんだけど、クロスってサーカス見たことあるんだよね?」


「ああ、子供の頃に一回だけ、な」


「へぇ、そうなんだ! 私はけっこう最近に見たんだよねー」


「サーカスは大陸の南方が中心じゃなかったか?」


「それがね! 2週間限定でヴィシュタルテまで興行に来てたの!! 3日だけしか滞在出来なかったんだけど、まるで夢みたいだったなぁ」



幸せそうに記憶を呼び覚ますニーナを見て、俺はホッとする。



そして、自分が何故サーカスの絵を描いていたのか、理解した。



(ああ、俺も、”幸せ”だったんだな)



無垢だった、幸福だった頃の日々。



部屋を見渡せば、その頃の記憶を呼び覚ます物ばかりだと、今さらになって気付く。




「それでね、待ちに待った滞在最終日に、大きな花火がたくさん上がる予定だったのに……なんと、大雨が降ってきたんですよ!!」


「なぜ敬語に……それに、ヴィシュタルテは乾燥地域じゃなかったか?」


「そーなのよ!! まさに数年に一度の大雨だったらしくて、皆ボー然としてたわ……もう、あれは神様のイタズラとしか思えない……」



不貞腐れる彼女を見てまた笑ってしまいそうになるのを堪えながら、俺も記憶を思い出し続けていた。



ほんの少しで途切れてしまうはずの幸福の日々。


でも、それがほんの少しだけ増えたことも、俺は知っている。



その全ての中心にあるのは、彼女の姿――――――




「あーあ、見たかったなぁ、花火……」



「なぁ、ニーナ」


「ん、なに?」


「今日作ったソースが、かなり余ったんだが……」


「あはは、ちょっと作りすぎちゃったね」


「……一人じゃ処理しきれないから、今日の晩飯、君も一緒に食べてくれないか」



すっかり落ち込んでいた彼女は、その言葉で飛び上がらんばかりに立ち上がる。



「ホントに!?良いの!?」


「またトマトソース中心の料理になるし、君にも手伝ってもらうが……それで良いなら」


「全っ然大丈夫!! むしろ断る要素無し!! さっそく買い出しに行かなきゃ!!」


「お、おい、ピエロのまま外に出るつもりか?」


「だーいじょうぶ! こんな顔じゃ誰か分かんないって!!」


「んなわけ、って、お、おい!」



中途半端で、どこか可愛らしいピエロの温かな手に引かれ、部屋を出て行く。



やっぱ言わなきゃ良かったと思いかけるも、彼女の心から嬉しそうな顔を見て、まあ今日くらいは良いかとため息をつきながら、学園内にある馴染みの青果店へと足を運ぶのであった。















俺は、嘘をついた。



たった一人を覗いて、「彼らへの手向け」などと思ったことなど一度も無い。


「安らかに眠れ」など、どこにも書いてはいない。


刻んだのは、彼らの名前……それだけだ。



そこにあるのは、ただただ、俺を苛む罪の意識、負の記憶。



何故それらを作ったのかは、いまだに分からないまま。



そして、台座に刻んだ文字を彼女に知られなかったことに、俺は心の底から安堵していた―――――









――――――11個の内の2つに刻まれた「守屋」という字を、彼女に知られなかったことに―――――――





なんだかまた長くなってしまいました……申し訳ない



クロスの過去は、少しずつ明かしていく予定です


正直、相当残酷です……間違い無く批判を食らうレベルで


卑怯だとは分かっていますが、先に謝罪しておきます 


ごめんなさい



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