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8 - 料理と、共同作業。

2章はお料理教室からスタートですw


おかげで長くなってしまい、申し訳ないですw


多分もう書きませんw

「やっほー、今日も来たよー!!」



バァン、と勢いよく開けられた扉。


そして響く鈴のような音色。



……音色だけで音量はかなり不快な領域だが。




「そろそろ来ると思ってたよ……」



今日でもう1週間連続である。



昼前にやってきて、俺に飯をたかる。


そして、延々と喋りまくって夕飯に誘う。



テンプレートな台詞で断ると、泣きそうな表情をして帰っていく――――――――





―――――――実に、実にストレスが溜まる毎日である。



特に、最後のは強烈だ。



夕飯の誘いを受けてしまうと、その時間まで面倒な彼女の暇つぶしに付き合わなければいけない。



そして断った後に見せる表情は……言うのも甚だ不本意なのだが、その、何というか、もの凄い罪悪感に囚われる。


よって彼女が帰った後も、しばらくイライラし続けなければならない。




どちらを選んでも不幸が待っている選択肢を毎回突きつけられて、俺の脆弱な精神は限界寸前。



……たまには夕飯に付き合ってやっても良いかな、と思う程には追い詰められている。





「ふっふーん」



ニーナがなにやら得意げな表情で歩いてくる。


手には大きめの袋が握られている。


そして、ソファに寝転がる俺の目の前にそれを突きつける。



「……なんだ、その袋は」



視界が遮られて鬱陶しいんだが。



「よくぞ聞いてくれました! じゃじゃーん!!」



そうして中身を見せてくる。



中に入っていたのは、細めの乾麺にトマト、ナス、ベーコンに玉ねぎ、にんにく、エトセトラ……



「いつも作ってもらってるので、今日は私が作ろうと思います!」



そう言って胸を張る彼女。



材料で何を作るのか簡単に分かってしまったが、別にトマトソースのパスタは嫌いでは無いし、料理を作る手間が省けるなら嬉しいことだ。



しかし問題は―――――――


「君は、料理出来るのか?」



「なッ!? く、クロスはまた私を馬鹿にして!! 料理くらい出来るもん! その……クロスのを見てたし」



最近、この女のスペックを理解してきた。



細かい経歴がどうであれ彼女は基本的にはお嬢様であり、家事全般の経験が殆ど無いのである。



旅に出たおかげか身の回りのことは大体出来るようだが……最後の不穏な一言を聞く限り、料理は不得手のようだ。





ここでの最良は俺が料理を作ってしまうことだが、彼女は絶対に自分がやると言って聞かないだろうし、だからと言って壊滅的な料理を食う羽目になるのは避けたい。



面倒だが、妥協案を出すことにした。




「俺も手伝う」


「え!?で、でも、いつものお礼だから手伝わせちゃったら意味ないし……」



変なところで律儀な奴だな、まったく……



「料理は慣れてないと時間が掛かるんだよ。 二人でやった方が効率的だ」


「……うん、まあそうだよね。 待たせちゃうのも悪いし」



俺の適当な説明で納得がいったらしい。


ま、いつもの料理の手間と変わらないだろうが。



「それじゃ、よろしくね!」



そう言ってはにかむ彼女を見れば、まあいつもと少し違う形式なのも良いかな、と思いかけてしまったある日のお昼前だったとさ。






「うぅ、グスッ……」



ニーナが涙を流しながら包丁を動かす……そう、玉ねぎを切っている。



「クロスぅ、目と鼻が痛いぃ……」


「料理初心者への洗礼だ、我慢しろ」


現在、ニーナは玉ねぎをみじん切りしている。


最初は見てられない手つきだったが、さすがは才女、みるみる上達してかなりのスピードで切れるようになっている。



そして、未知の苦しみに遭遇した訳である。



もっと玉ねぎを水につけたり冷やしたりマスクを着けたりすれば良いのだが、それはニーナが一人の女として自分で学ぶべきことだ。


……決して教えるのが面倒だという訳じゃない。




俺はヘタを取り除いたトマトを潰している。


この世界にもホールトマトの瓶が売っているはずなのだが……どうやらニーナは一から作りたかったようだ。



面倒だが、サラダ用の普通のトマトじゃなく、料理用の小ぶりで細長いトマトを持ってきたので及第点だ。



気を利かせてくれたのであろう八百屋の売り子に感謝しつつ、潰したトマトを鍋に放り込む。



今さらだが、この世界の食文化は元の世界と変わらない。



呼び名はこの世界の言語を勝手に翻訳しているだけだ。



あの夜、ニーナと食べたポトフは彼女のお気に入りらしく、この1週間で二回も作らされた。




玉ねぎとの格闘を終え、涙をぬぐうニーナに木べらを渡す。


「焦がさないようにかき混ぜてくれ。 アクを取ってくれるとなお良し」


「了解です、料理長!」



俺の指示に嬉しそうに従う。



その間に、俺は潰したニンニクとオリーブオイルを弱火で炒める。



ニンニクが色づき始めたので匂いがきつくならないように取り除くと、今度はニーナの切った玉ねぎを入れ、火を少し強くする。




「料理って楽しいですね、料理長!」



だんだんと形が崩れていくトマトを見ながら、彼女は無邪気に喜ぶ。



その様子を見て、俺も料理を始めた頃はけっこう楽しかったかもな、と昔を少し思い出す。




二つの鍋の火力を弱め、じっくりと火にかける。




玉ねぎが世間で良く言う黄金色になったので、煮込んだトマトをそこに移す。



ピューレにはまだ早いが、そこまで煮込む必要も無いし時間も無いのでそれはそれで良し。




「30分くらい煮込んで塩コショウで味付けすればポモドーロの完成だ」


「ぽもどーろ?」


「トマトソースのこと。生のトマトで作ったのはサルサ・ポモドーロ・フレスカって言うんだ」



この世界では多分言わないだろうがな。



「へー!勉強になります、料理長!」


「誰が料理長だ。 アク取りは俺がやるから、ナスとベーコン切っとけ」


「はーい」



彼女は食材を手際よく切っていく。



なんて上達ぶりだ……さすがは特待生だな。



「クロスも特待生でしょーが……でも、褒めてくれてありがと…えへへ」



……思考が漏れていたみたいだ。



そして、俺も特待生だったと今さらに思い出す。




空けた鍋を洗い、水を入れて沸騰させる。



塩を入れ、パスタを放射状に投入する。



「固さはどんなもんが良いんだ?」


「んー、私は固めが好きかも」


「ん、了解」



そろそろソースが完成だ。


鍋をコンロから外し、入れ替えでフライパンを置く。



再びニンニクと先程より多めのオリーブオイルを炒めながら、ソースの出来を確かめる。



少し酸味が強いが、まあ許容範囲だ。


もう少し時間を置くとまろやかになるのだが―――――――



「あー、私も味見する!」


俺の手からスプーンをひったくり、ソースを口に運ぶ。



「んぅー!おいしいです、料理長!」


「……そうかよ。 ほら、ベーコン入れて早く炒めろ」


「はいです、料理長」



だから料理長じゃないとか、それ間接キスだろもっと気にしろとか色々言いたいことはあったが、面倒なので黙ってパスタの面倒をみることにした。



「うっふふー」



ベーコンとニンニクの良い匂いが漂う中に、ニーナがナスを投下する。



「どうした、急に笑い出して。思い出し笑いは気持ち悪いから止めとけって言ったろ」



「いやー、こうして二人で料理してるとね? まるで夫婦みたいだなーと思ってさ」



そう言って瑠璃色のキラキラした瞳でこちらを見つめてくる。



「……なに、馬鹿なこと言ってんだか」




コイツはたまにおかしな発言をしてくるから心臓に悪い。


……だからこっちを見るな!




俺は決して彼女と目を合わせないようにしながら、ソースをフライパンに投入する。



「後は俺がやるから、皿の準備頼む」


「……はーい、料理長」



何やら不満げの様子だが、その理由は考えないことにした。



パスタを鍋から取り出し湯を切った後、フライパンの中の具と絡め、塩コショウで味を整える。




ニーナから受け取った皿に盛り付け、乾燥チーズを削ってふりかけバジルの葉をのせれば、ナスとベーコンのアマトリーチェの完成だ。




「うわぁ、まるでレストランのパスタみたい!!」



まあ、材料が揃えばそれらしい物は大体作れるからな。



「これ、私達が作ったんだよね」



感動したように言うニーナに、思わず苦笑してしまった。



「別にそこまで凄いことじゃないだろ」



「……笑った」



「あ?」



「クロスがまた笑ったー!!やったぁ!!」



そう言ってぴょんぴょん跳ね回るニーナに、ポカンとする。



「……どういうことだ?」



「だって、クロスって全然笑わないでしょ?前に笑ってくれた時に凄く嬉しくて―――まあ、理由が理由だから恥ずかしかったんだけど―――、また笑ってくれないかなぁって思ってたんだ」



ニコニコとこちらを見つめるニーナ。



俺はいたたまれなくなって目を逸らした。




「恥ずかしいこと言うのは止めてくれ……パスタが伸びる前にさっさと食うぞ」


「あー、料理長照れてるぅー」


「だから誰が料理長だ」





「それでは、二人の初共同作業を祝って」


「何だそれ」


「いーからいーから」


「……突っ込むのも面倒だしな」



「「いただきます」」




~~~~~~~



「いやー、おいしかったねぇ」


「分かったって言ってるだろ」



食後のお茶を飲みながら、ニーナが何回目か分からない感想を繰り返す。



「だってぇ、おいしかったんだもん」


ニーナはパスタを食べ始めた直後からずっとふやけた表情のままだ。


そんなに自分で作ったのが嬉しかったのだろうか。



……答えは彼女の顔にはっきり書いてあるけどな。




そして、作業用の机に移った俺は、日課とも言える芸術活動に取り掛かる。




記憶を呼び覚ましながら、白いキャンパスに色を加えていく。



「今日は何描いてるの?」



集中していたのか、ニーナが隣に来ているのに気付かなかった。



「これ、サーカスの絵でしょ? 可愛いー!」



そう、俺が描いているのはサーカス団の絵。


火をくぐる虎やら、一輪車で綱渡りする人やら、思いつく限りのものを一枚の絵に収めている。



「あはは、このピエロおもしろーい」



その中でも彼女のお気に召したのは、滑稽にどつきあう5人のピエロのようだ。



「本当にクロスは上手だよね……ねぇねぇ、私もピエロになりたい!」



はぁ?


また訳の分からないことを……



「それを俺に言って、一体どうしろっていうんだ?」


「うーん、そうだねぇ……それじゃ、わたしにピエロの化粧をして欲しいな」


「なんだそれ……俺は化粧なんてしたこと無いんだが」


「大丈夫だって! 私の顔に絵を描く感じでやってみてよ!」



んな無茶な……まあでも、できないことも無いか。



「一応やってみるが……完成度の保証は出来ないからな」


「やった! お願いします!」



そう言って目を瞑って顔をこちらにグイッと近づけてくる。


不意の動作に少しだけドキドキしながら、絵具に使っている化粧用の顔料を取り出す。



それらしくすれば良いだけだし、目の周りと鼻先と口元に色づけするくらいで良いか。



俺は左利きなので、一番やりやすい右目から取り掛かる。



まつ毛がふるふると震え、くすぐったそうだ。




……なんだか楽しくなってきた。


気分も乗ってきて、とりあえず右目の部分が完成したその時――――――――




バァン!!



「よぉっす! 久々に遊びに来てやっ、た、ぜ……?」



勢いよく扉を開け入って来たのは、カール気味の金髪をなびかせ、青い色の目をした小柄な青年―――いや少年と呼ぶべきか。



意気揚々と部屋に入ってきた彼は、こちらを見た瞬間、語尾と共に硬直する。




ちょうど俺の左手が映らない位置にいる彼の目に恐らく映っているのは、目を瞑るニーナに顔を近づけている様にしか見えない俺の姿であろう。



「お、お楽しみ中失礼しましたぁ!!」



腹立たしい程に予想通りの勘違いをした少年は、脱兎のごとく部屋を飛び出し、扉を閉める。




しかし直後、再びすごい勢いで扉が開き、



「あのクロスが女を連れ込んでるだとおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?」



再び戻ってきた彼が耳をつんざくような叫び声を上げたのだった。

金ヅル君登場です(笑)


一応、主要キャラの予定ですw


次回タイトルはズバリ、「ピエロと、金ヅル。」ですw

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