5 - 消えた彼あれば、探す彼女あり。
「もう、待っててって言ったのにぃ……」
お世話になった先生方と同じクラスの生徒達に軽く挨拶を済ませた後、騒ぎになる前に旅先から届けておいたお土産を受け取り再び塔に登ったのだが、そこにはすでに彼の姿は無かった。
まるで元からそこには誰も存在しなかったように私だけがポツンと取り残され、強く吹き付けてくる風が寂しさを倍加させる。
……だんだん腹が立ってきた。
「場所変えるなら私が行く前に言いなさいよーっ!!」
よぉーっ、ょぉーっ、ょぉー……
力いっぱいの叫び声が空しく響き渡る。
……クロスにも聞こえたかな?
まあ、このくらいでへこたれる私じゃないからね。
お土産渡すついでに自慢話しまくってやるんだから!
とは言え彼の居場所に当てが無かったので、彼の担任の教師に聞いてみることにした。
注目を浴びて気まずい思いをしながら職員室に入ると、目的の人物を見つけた。
マイトン先生はいつも気難しそうな顔をしているダンディなオジサマで、私達の学年全体の剣術指導を行う中々の敏腕教師だ。
私にも面識はあったのでお土産を渡しがてらクロスのことを聞いてみると、マイトン先生はめちゃくちゃ渋い表情になり、思わず吹き出しそうになる。
聞けば、彼は今まで数えきれない程の問題を起こしてきて、そのくせ成績は超一級という厄介極まりない人物とのこと。
先程の会話で薄々分かっていたけど、ため息をついて頭を抱え始めたマイトン先生を見て、相当な問題児なんだなーと確信した。
先生に少しだけ同情し、しかし笑いを堪えながら彼の居場所について聞いてみると、先生が信じられないものを見たような顔をする。
私が彼に会いたがっているのが予想外なのだろう。
だからってそこまで驚かなくても……
もう一度真剣に聞いてみると、先生は渋々ながら教えてくれた。
彼は”特待生”の特権である研究室を所有しているらしい。
先生いわく彼が提出した研究内容は『魔方陣の性質変化と簡略化』らしいのだが、一向に取り掛かる気配を見せず、よりによって”芸術活動”に取り組んでいるんだとか。
私は先生に一礼して、早々に職員室を出た。
昼休みが始まれば、私が帰ってきた事実が学園中に広がってしまうだろう。
軽い足取りで学園東端の研究棟に向かう。
あまり人が寄り付かないあそこなら生徒たちに囲まれる心配も無い。
私を見送るマイトン先生の訝しげな顔を思い出し、思わず口元が綻ぶ。
「鉄仮面」と呼ばれる程に表情に乏しいあの先生をあそこまで困らせるなんて、クロスは一体どんなことをしてきたのだろうか。
彼に対する興味は尽きることがない。
思えば、「何か」ではなく「誰か」にこれほど興味を持ったのは初めてかもしれない。
……彼の方はこちらにあまり興味ないみたいだったけど。
それでもちゃんと会話できたし、むしろ凄く楽しかったし。
……勢いでちゅーしようとしたのは、ちょっとやり過ぎだったなぁ。
あれは私らしくなかったな…思い出したら恥ずかしくなってきた。
……にしても、あそこまで避けることないのに。
というか終始嫌がってたけど。
私の繊細な乙女心が……まあそんなモノは持ち合わせてはいないのだけど。
でも、もう来るなとは言われなかったし、最後はちょっとだけ歩み寄ってくれたから。
勝手に押しかけるのは私だけど、怒ってもいいよね。
”友達”を置き去りにするクロスが悪いんだから!
真っ当な理由で武装した私は、彼に拒絶されそうな不安を踏みつけるように軽い足取りで目的の場所に向かった。