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14 - 孤独な白ウサギは、暗闇へと駆け出す。 前



今日で私が学園に帰ってきてから双月が一巡りし、ちょうど30日を学園で過ごしたことになる。



すでに研究内容が学園側に承認されて、旅の準備も整っている。



しかし、しかーしなのである!



私の前に立ち塞がる巨大な敵、その名も”怠惰王クロス”が行く手を阻んでいるのだ!



……え、塞ぐも阻むも同じ意味じゃないかって?



ま、まあそれはともかくとして、私は未だ悩み中だったりする。



後が無い状況になってしまえば決心もつくかなと思っていたけれど、全然そんなことは無かった。



心残りが無いようにクロスと色んなことをした。


でも、まだやりたいことがたくさん残っているし、それが無くてもクロスがその手から見たことも無いような芸術作品を生み出すのを見ているだけで満足なのだ。



さらに、その心残りをさらに大きくしたのがこの1週間だ。



発端は、シェリル先輩と初めて会った日だ。




私が知った、いや知ってしまったのは二つのこと。



一つは、クロスが私といるのを悪く思ってはいないということ。


もう一つは、シェリル先輩のこと。




この二つの事実は、私をかなり動揺させた。



何をそんなに動揺することがあるの?って聞かれたら

「そりゃするよっ!」と叫びたくなるくらいに私は動揺した。




人は未知の領域に踏み込むのを躊躇うでしょ?


私もそう。


今まで考えたことの無い”アイデア”が頭に浮かんできて、私は混乱せざるを得なかったの……




え? もうちょっと分かりやすく言えって?


うぅ、分かったよ………





そう、私は”恋愛”について考えているのです!



……あー寒い。


なのに顔はすごく熱いよ?


何なんだろうね、一体。




私はずっと周りから切り離されて生きてきた。


他人との交流も上辺だけのものだった私が、人並みに恋なんか出来るはずも無かった。




そこに現れたのが、クロスだ。



初めて出来た、対等な存在。


私達は特別な互いの気持ちを「似た物同士」として認め合っていた。



でも、本当にそれだけなのかな?



もしかしたら、彼に抱いている”特別な気持ち”は、俗に言う”恋愛感情”に属するものではないのだろうか?


もしそうなら、彼もまた私に対してどんな気持ちを抱いているのだろうか?




そんなことをグルグル考えながらのクロスとの会話は当然どこかぎこちないものになり、軽々しく彼に触ったりからかったり出来なくなってしまった。




そんな自分が口惜しくて、なのに中々踏み込めないままで、気付けば自分の中で決めていた滞在期間の限界日になってしまった。




でも、気付いたこともある。



私は、クロスの過去を全く知らないのだ。



私の過去は自分から喋ってしまったけど、これじゃあ対等とは言えないよね。




そこで、私は逃げの一手を取ることにする。



まずはクロスの過去を聞き出して、対等の立場になってから結論を出す。



もちろん、クロスの意見も聞いてからね。



よし!


案ずるより産むが易し、という訳で早速行きますか!




壁との独り会話を終えた私は次の時間の授業を放り出し、急ぎ足でいつもの場所へと向かった。












いつもより少しだけ早い時間。



出だしの挨拶をどうしようか考えながらも扉を開く。





「おはようクロス。 話があってきたん、だけ、ど――――――」





クロスを見た私は、息をのむ。



彼の上半身が顕わになっているからでは無い。





彼の背中にびっしりと彫られた、何か。



首筋から尾てい骨に縦のライン、そして肩甲骨の下に横のラインの赤黒い大きな十字が彫刻され、それ以外の背中の肌色の部分を埋めるように黒くぐねぐねした線が這っている。



刺青と呼ぶのには余りにも禍々しいその刻印。



見ていると吐き気を催すようなそれは、何かの儀式のための呪印のようにも見える。




クロスは一瞬目を見開いて硬直し、すぐに背中を隠すように後ずさる。




「クロ、ス? そ、その背中、どうしたの?」



状況に頭が追いつかず、そんな言葉しか出てこない。





「……でていけ」



「……え?」



「ここから、出て行けっ!!」



「え、え、でも、クロス、どうして」



「いいから出てけよっっ!!!」




研究棟が震えるくらいの叫び声を上げ、クロスは拒絶の言葉をぶつける。




始めて見る彼の鬼のような顔に、私は頭が真っ白になる。




扉を開き、無我夢中に走り出した。





「はあっ、はあっ、どうして、ぅぐ、どうし、うっ、おぇ」




学園のどこかも分からない森の中。




我に返った私は、全力で走った疲れと彼が発した拒絶の言葉を一気に思いだし、その場に胃の中のモノを全て吐き出してしまう。




「一体、何なのよぉ………」




ボタボタと溢れ出す涙さえ気にもならず、吐しゃ物にまみれた地面にへたり込む。




いつかと同じような状況。




違ったのは、クロスに最初に拒絶された時より何倍も何十倍も苦しくて悲しかったことと、彼が私を連れ戻しに来てくれることは決してないだろうと分かっていることだった。

心の臓が痛い……


まだクロスの過去篇も残ってるのに、これじゃ持たないです……

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