009.甘い声
目を開けてじっとこちらを見るその顔は、ほんのり上気して血色がよくなっていた。
あら…?
ずいぶんヒーリングが効いてる?
元気一杯というわけではなさそうだが、風邪をひいて治ったばかりのような気だるさが見えるばかりで先ほどのような悲壮で重病な感じはしない。
億劫そうだが体を起こして自分の様子を確認する姿は、震えも見られず案外しっかりしている。
さっきまでの死にそうな勢いはどこへやら、顔色の良くなった男の子はあわてている。
「…あの、 あ…れ… 」
呆然としながらでも自分の状態が信じられないのか思わずといった感じで声が漏れる。
まあ、そうよね。
私だってびっくりだ。
いきなり体は楽になってるし、汚れまくってたはずなのに綺麗になってるし、服まで洗ってある。
言葉が出なくて当たり前だ。
笑いをかみ殺しながら声を掛ける。
「具合はどう?」
「あ… 」
と言ったきり言葉が続かない様子。
「元気が出る薬草をスープに入れたの。
だから体が楽になったと思うけど、どうかしら?」
嘘だけど。
ハーブには若返りのハーブといわれるローズマリーもあったけど、このハーブにいきなり元気になるほどの効果はない。
長期服用してゆっくり効果が出るものだ。
一気に沢山飲めば元気になるというものでもない。
それに見た目と香りは同じだけどここの世界と同じものかどうか根拠は全く無いといっていい。
でもその嘘で納得したのか、とつとつとしゃべりだした。
「ありがと…う、ございます」
うっわー、子供だってーのになんつー甘い声。
低音ながら甘く響く声だわ。
これは育ったら相当女の子に騒がれるぞ。
ご飯を食べて3時間ぐらいしか経っていないがもしかしたらもっと食べるかも知れないと
「さっきのスープ、もっと食べる?」
と聞くとうなずくので、体の影に隠して鍋を温める。
隠す必要も無いのかもしれないが、これが普通じゃなかったら色々と問題がありそうだし、何よりおびえたら困るので隠すことにする。
「私はミキ。
あなた名前はなんていうの?」
「俺…は、あ、…イザーク」
「イザークね」
彼はこくりとうなずく。
温めたスープを全部渡す。
「無理して食べちゃ駄目よ。
気分が悪くなったらそこで止めなさいね。
吐くからね」
うなずいて、結構な勢いで食べ始める。
結局全部食べてしまい、そのまますぐに寝てしまった。
イザーク、意識が無かったとはいえ裸に剥かれたこともスルーか。
子供だからか男だからか。
それともミキがおばさんだからか(笑)