007.雛のお世話中。
いきなり魔法が使えたので気が抜けた。
色々真剣に考えすぎていたのが馬鹿らしくなってきた。
こんな無茶苦茶な何でもアリな状況なら、夢かもしれない。
なんにせよ、子供が回復できるよう温かいご飯を食べさせることができる。
なんて、なんてありがたい!
親子って言って良いほどの年の差だもの、そりゃあ庇護欲を掻き立てられます。
スープもいい塩梅に煮込めて美味しいにおいが立ち込めてきた。
パンを切ってスープに入れていたら子供が目を覚ました。
「起きた? ご飯食べれそう? 簡単なスープだけど」
木の椀によそったスープに木のスプーンを入れ目の前に置いた。
木の椀を取ろうとする手が震えている。
そういえばさっき腕をつかまれた時も震えていた。
つかんだと言っても殆ど力は入っておらず、簡単に振り払えそうだった。
これでは上手く食べられそうも無い。
少し頭の位置を高くするからと声を掛け、藁を頭と背中の後ろに詰め込んだ。
「食べさせてあげるからそのままでいてね」
温度を確かめながら一口づつスープを口に運ぶ。
汚くて臭いけど素直に食べる姿がひな鳥のようで非常に可愛い。
好きで汚いわけでも臭いわけでもないしね…。
半分食べたところで力尽きたのか寝てしまった。
私もスープとパンを食べて寝ようかと思ったけど、その前にこの子の体を拭いておこう。
体拭くだけでだいぶすっきりするだろうし、私も臭いのを我慢しなくて済む。
何か大きなバケツみたいなものと思ったら、隅のほうにバケツサイズの木の桶が二つあったので使うことにした。
水は残念ながら体をぬぐえるほどは残っていない。
さっきの様にで魔法で出せるかもしれないので試してみたら、あっさり桶にお湯が溜まった。
うわー、簡単でいいわー。
ベンリー。
呆れたような感嘆したような微妙な感想をもらしながらバッグからフランネルの生地を出す。
タオルがあればいいのだけどと思ったら毛足の長いネル生地の特徴を持ったタオル地に変化した。
うわあ…
ナニコレー。
スッゴーイ。
我ながらだんだん生ぬるい視線になってきた。
熱めのお湯でぬらしたタオルで顔と首を拭く。
上着を脱がそうとして、小屋の中が寒いから温かくならないかなとつぶやいたら急にふんわりと温かくなった。
うっわー…。
ほんとに何でもありなんだわぁ、あははー、と乾いた笑いがでる。
体をぬぐったタオルを洗うと桶のお湯があっという間に泥水に変わる。
何度も湯を換えて全身を拭き終わるまでに30分以上かかった気がするが、時計が無いのでわからない。
途中で目覚めるかと思ったけどおなかがくちくなったせいか全然目覚めない。
ついでだからと頭を上半身を仰向けのまま膝に乗せ、首を片手で支えながら、頭を洗うことにした。
シャワーみたいにお湯が流れるようなイメージをしたら、本当にシャワーになった。
上手く桶でお湯を受けられるように位置を調整してシャワー状のお湯で頭を洗う。
ドライヤーのような温風をイメージして頭に温風を当てる。
あっという間に髪が乾いた。
どうせだからと服も洗ってしまった。
もちろん魔法の温風であっという間に乾かしてすぐに着せた。
真っ白にはならないけど、臭い匂いは取れたと思う。
魔法を使っても結構な労働だった。
ヒロインは親の介護経験もあります。
子供なんて楽勝よね。