006.魔法。
物置小屋には麦わらがうず高く積まれていた。
ここは農具やわらを保管しておく場所らしい。
すぐ側に収穫を終えた麦畑らしい土地が広がっている。
麦わらも古いものではなく、収穫を終えたばかりの物のようだ。
小屋の中には脱穀した実が詰まった袋もないので、粉になる実のほうは家の食料庫や地下室に保管されているはず。
少なくとも以前本で読んだヨーロッパの農村ではではそうだった。
ということは、当分この小屋には誰も来ないと思われる。
気温はまだ温かいけれど、風は涼しい。
秋の訪れを感じさせる。
朝晩は冷えるだろうけど、雨風はしのげるし、藁があれば布団代わりにもぐって寝ることもできる。
何とかなりそうだわ。
それにしても重かった。
100Mを10㎏の荷物を背負ってさらに40㎏はある子供を抱き上げて歩くなんて、無茶だった。
でも普段の私ならなんとか子供を抱き上げることはできても、一歩も歩けなさそうだけど…。
何というか微妙なレベルアップよね。
胸も年齢も、なんていうかこの程度なら許されるだろうって言うあたりをうろついているというか。
…いや、このぐらいで充分と思うラインを行ってるのかもしれない。
確かに私なら絶世の美女になりたいかといったら、今の顔を少し手直ししたぐらいでいいと思う。
剣士のように剣を振るいたいかといったら、最低限の護身ができればいいと思う。
攻撃の手段を持っていたらかえって危ないとしか思えない。
自分の器を見誤るほど自惚れても卑下してもいない。
そう、普通を望んでいる。
そこまで考えていたら子供が身じろぎしだした。
こんなこと考えてる場合じゃないわ。
とにかくこの子が楽になるようにしないと。
そう考えて積み上げてある藁を、子供と私が寝られるほどに広げて整えて、その上に子供を寝かせた。
後は、どうしたら…。
そうだ、ご飯!
いきなり衰弱した体にこんな干し肉や固いパンを食べさせて、大丈夫とは思えないし、どうしたら…。
あっ、スープを作ってそれにパンをちぎって入れてお粥のようにして食べさせたらいいかも知れない。
幸いハーブも干し肉もあるし、何とかなるでしょう。うん。
バッグから干し肉、ハーブ、携帯用の小さな鍋を取り出す。
鍋に干し肉をナイフで削りながら入れ、香草を一掴みずつ入れる。
干し肉はかなり塩辛いので特に塩を入れる必要は無いはず。
鍋に水を入れたところで気が付いた。
火を起こす場所がない。
土間もかまども無い、板の間だし、窓も無いから煙も外に出せない。
外で火を起こすには、暗くなりかけていて涼しいを通り越して寒い。
薪になるものを探して、石を積んで鍋を火にかけるような即席かまどを作らないといけないが、暗くて作業ができるかどうか。
恨めしく思いながら材料の入った鍋をガン見する。
「お湯が沸けばいいのに…」
といった途端、急に鍋の中身が沸き出した。
え?!
ナニコレ。
マホウが使えるんですかワタクシ。
どんどんイケイケ!チート炸裂!