その温もりに戸惑う
連作ではないけどもういっちょ。
生徒達ががやがやと賑やかに校門から出てきて、向かいに立っていた彼女は俯いた。
とても同じ高校生とは思えないくらいに、誰も彼も大人っぽい。三人組の女生徒が彼女の前を通り過ぎて、化粧や香水の混じった残り香だけが辺りに漂う。
三人組は一人として彼女を見過ごしては居なかったのだけれど、彼女はそれには気付かなかった。
はあっとかじかんだ手に息を吐く。学校に、手袋を忘れてきてしまった。
去年のクリスマスにおさななじみがプレゼントしてくれてからのお気に入りで、毎日のように付けていたのに。今日に限って忘れてくるなんて。
あいつは気にするだろうか、と考えてから、少し自惚れ過ぎたと恥ずかしくなる。自分達は、ただのおさななじみでしかないのだから。
しかし今こうして彼女を呼び出しておいて待たせているのも件のおさななじみであり、一緒に図書館で勉強しようと誘われたのだった。
ホームルームの後に電源を入れた携帯がそんなメールを吐き出し、すっ飛ぶようにして彼の学校までやって来たというのに。
冷えた指は、こすり合わせてなお冷たい。
もう一度息を吐いて鞄を体の横に置き、コートのポケットに手を突っ込んだ。
「おーい!」
耳に心地良い、よく知った声に顔を上げると、ぱたぱたと彼が途中途中で何人かの生徒に邪魔をされながらも走ってくる。
明るく髪を染めた者が多い中、その亜麻色がやけに目を引く気がするのは、作られたものではない自然の色だからだろうか。それとも、単に見慣れているせいだろうか。
「ごめんね。先生に捕まっちゃって…ってこら!」
お前、そんなコートだけじゃ寒いだろう! と怒ったように自分のマフラーを彼女の首にぐるぐると巻きつける。周りから口笛やら囃す声やらが聞こえて、それに彼が何か応えているが、彼女はそれどころではない。
巻かれたマフラーは彼の匂いとぬくもりで、こんなのまるで、まるで!
「それじゃ、行こっか」
はい、とごく当たり前のように彼が手を差し出す。脇に置いてあったはずの鞄は、いつの間にか彼のもう一方の腕に自身のそれと一緒に抱えられている。
彼女は手袋のない手を出すか出すまいか、ポケットの中でぎゅ、と拳を握りしめた。
この二人の関係は、あくまで「おさななじみ」。




