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第12話 同窓会の夜

廃校直前の校舎を眺めながら行う同窓会は、その日の夕刻から始まった。

地元の連中は毎年駅近くの居酒屋に集まって小さな同窓会をやっていたが、友哉はもちろん、その熱心な誘いを断っていた。


初めて同窓会に顔を出した友哉を、旧友たちは優しく迎えてくれた。

とはいえ、その日の出席者は友哉を入れて16名。そして恩師が2名だけだった。

富田達の姿もない。友哉はその事に正直ホッとした。

世話好きのメンバーがせっせとバーベキューを焼く間、出席者はビアガーデン風にセッティングされた席に座り、あるいは立食しながら、それぞれの近況を報告し合った。


「久しぶりじゃなあ、友哉。もう来てくれんのかと思っちょったけど、会えて良かったよ」

昔から世話好きだった元学級委員の高山圭太は、今回の幹事だった。

高山と話しているうちに、わりと仲の良かった4、5人が、懐かしそうに友哉を囲んだ。

体つきは皆ごつくなっていたが、面影は9年前と変わっていない。たわいもないわだかまりは、じんわりと溶けて無くなっていった。

友哉はホッと心が和むのを感じた。


「祖父母がまたこっちに引っ越してきたからね。ちょうどタイミングが良かったんだ。声を掛けてくれてありがとうな」

意識したわけではなかったが、方言が出てこなかった。けれど旧友たちは気にする様子もない。

「そう言えばなあ、富田も帰って来ちょるから、声かけたんじゃけどな。気が向いたら来るって言いよったのに、顔出さんなあ。山岸も木ノ下も、地元におるのに来たことないんよ」

高山が残念そうに言ったが、友哉は胸をなでおろした。

出来るなら、彼らとは話をしたくなかった。たとえ、何気ない世間話でも。


「俺なぁ、駅前で今日、富田見たんよ。なんかヤクザな格好しちょったわ。相変わらず借金こさえてウロウロしちょんやろうな。木ノ下が困っちょったわ。金貸してくれって、頼って来るっちゅうて」

昔よりも、でっぷりと太った北浜テツヤが苦笑いしながら続けた。

「ほいでな、観光客みたいなメチャクチャべっぴんの女に声掛けられよってよぉ。焦りまくって道、教えちょったわ。可笑しかったぞ。未だにあいつは女にモテんのやろうな。スケベが顔に出ちょるから、女に嫌われるんよ。昔も保奈美っちゅう子に散々嫌われちょったじゃん」

そこまでニヤニヤして聞いていた友人達は、保奈美の名が出ると、急に表情を曇らせた。

北浜も、しまったとばかりに言葉を詰まらせる。


友哉は、努めて平静を装い、穏やかに話題に入り、北浜を助けた。

「そうか。富田も帰って来てたんだな」

「うん。・・・それにしても、美人やったなあ。真っ赤なワンピースでなあ、女優みたいじゃった。声、掛けたら良かったかなあ、俺」

「結局、女しか見ちょらんのじゃ、テツヤは」

高山が北浜に突っ込むと、皆、可笑しそうに笑った。


それぞれが、由宇と仲の良かった友哉を気遣い、そして9年前の悲しい出来事に胸を痛めていたのが友哉には伝わって来る。

聞こえないふりをしていたが、始まってすぐの時間、友哉と少し離れた場所で女の子たちが由宇の話をしているのが聞こえていた。

あの事故から2年後、由宇の生還をあきらめた家族が、東京の父親の実家でひっそり告別式を行ったという。

式の正式な知らせも来ず、この学校から参列したものもいなかったらしい。

「友哉君、・・・参列したかったんじゃないんかな。仲よかったもん・・・」

女の子たちがしんみりとそう言った。


旧友たちは、皆優しい連中ばかりだった。

歪んでいじけて、拒絶していたのは自分のほうだった。今も、9年前も。


                ◇


したたかに酒を飲み、旧友達と語り合って校舎を後にした頃は、11時を過ぎていた。

車で送って行こうという友人の誘いをやんわり断り、友哉は酔いを醒ますように一人、寂れた商店街を歩いた。

田舎の深夜は相変わらず人っ子一人歩いておらず、呆れるほど寂しげだ。

飲み慣れない酒のせいで急にのどが渇いた友哉は、ポツンと立つ自動販売機に近寄り小銭を出した。

それと同時に、街灯の光に引き寄せられた大きな蛾が、ピタリと販売機のボタンの上に止まった。

大人の手の平ほどもある、ベージュのグロテスクなヤママユガだ。


その時、友哉の後ろで、何かに驚いたようなくぐもった声が聞こえた。

咄嗟に振り向いた友哉の顔が強ばる。

そこにはあの青年が立っていた。

ここに来たあの日、友哉にぶつかりそうになった、由宇によく似た青年だった。


「うわあー、でっかい蛾ですね。こんなの初めて見ました。蝶は好きなんだけど、蛾は怖くてダメなんです」

青年は心底おびえたように、けれど愛嬌たっぷりに笑った。

とてもきれいな標準語だ。

友哉が固まったように見つめていると、青年は困ったように懇願してきた。

「申し訳ないんだけど、代わりにお茶、買ってくれませんか?」

そう言って友哉に小銭を差し出して来た。

「あ・・・ああ・・・、いいけど」

思わず声が少し上ずってしまう。

友哉は小銭を受け取ると、蛾が止まっているすぐ横のボタンを押し、お茶のペットボトルを取りだして青年に渡した。

青年は友哉の手からペットボトルを受け取ると、「どうもありがとう」と、微笑んだ。

ほんの少し触れた手が熱を帯び、心臓の鼓動が速くなる。


友哉はその青年の目をじっと見つめた。無遠慮なほどに。


けれど青年は特に不快に感じた様子も無く、サラリとした茶色っぽい髪をかき上げた。


そして、優しく友哉の目を見つめ返すと、「僕は・・・そんなに貴方の昔の友人に、似ていますか?」

と言って、少し悲しげに微笑んだ。




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