19日 第三ルクスリア 〜魔物観察〜
二度あることは三度ある、三度目の正直、など三にまつわる用語は多い。
なんでそんなことを起き抜けに思っているかというと、また夢に女神が出たからだ。
同じ夢を三度も見てしまった。発言内容が若干違うから、完全に同じではないが女神が同じだから同じ夢カウントとする。
仏の顔も三度までと言う言葉を知らないのか。……管轄が違うから、仏に会ったことがないのかもしれない。
うさぎのぬいぐるみをぎゅむぎゅむ握る。よく考えたら、日本で死んだらしいわたしも仏に会った覚えがなかった。ひとのこと言えない。
ベッドから飛び降りて、着地の決めポーズをなんとはなしに決める。うーん、十点。
リビングに顔を出すと、お父さんが固いパンにかじりついていて、それをお母さんが笑顔で見ていた。
「お父さん、お母さん、おはよう。」
「おはようアンネリーゼ。ちょっと寝癖ついてるわ、こっちおいで。」
口の中のパンのせいでもごもご言ってるお父さんをスルーして、お母さんの側に寄る。手ぐしで髪を整えてもらって、寝癖は直ったらしい。前世より今世の方が髪質がいいな。
「アンネリーゼ、おはよう。」
「……お父さん、そのうち喉につまるよ。」
仕事柄一気食いが癖になってるんだろうけど、身体には悪いと思う。ちゃんと咀嚼してほしい。
「アンネリーゼはお父さんの真似しちゃだめよ。」
「うん。」
笑顔の母に背後から刺されて、父がうなだれた。子供は親の真似をするから、母の注意は正しい。
でもお父さん、あの食べ方するとお母さんが喜ぶって知ってるから、あの食べ方してるみたいなんだよね。娘のカンである。
「お父さん、忙しいの今日まで?」
「うん、今日までだよ。明日はお休みをもらったから、アンネリーゼの好きなことをするか?」
「んー、明日決めるから今はいいー。」
ぱっと笑顔に変わった父の提案を保留とする。お父さん、それフラグってやつだよ。絶対なにかある前触れだよ。前世で苦労したような記憶がある。
「お母さんはギルド?」
「そうよー。いつも通りお昼過ぎくらいに終わって、その後お買い物して帰るわね。」
「わかったー。」
「アンネリーゼ、お留守番よろしくね。いつも言ってるけど、街の外には出ないように。」
「うん。」
よし、今日もこっそりログインするか。
* * *
“しいな”にログインして街中を歩く。走ってもいいんだけど、この街で走り回ってる人ってわたしくらいの子供だけだからちょっと目立つんだよね。
冒険者ギルドに入る。今日は他の冒険者の人はいないらしい。好きな依頼選び放題かも。
「ようこそいらっしゃいました。」
女性の声。画面の左下を見る。
【ギルド職員】ハンナ:ようこそいらっしゃいました
お母さんだ!
受付にお母さんがいる。お母さん受付業務も覚えたんだ! すごい!
あ、依頼探さなきゃ。掲示板の方へ移動してクリック。出てきたポップアップのページをクリックしてめくり、よさそうな依頼を探す。
崖上の警備……拘束時間が長い。却下。
猟師と一緒に狩り……パーティ組むのやだ。却下。
薬草集め……前と一緒のこれでいいか。
薬草集めの依頼を選んで受付に行く。
お母さんに依頼書を渡すと、あれこれ手続きか何かをして依頼書がアイテムインベントリに入る。
「お気をつけて。」
笑顔の母に見送られてギルドを出る。
そのまま自動移動で街の出入り口までの最短距離を歩く。
昨日とは違う守衛にギルド証と依頼書を見せて街の外に出た。自動移動で薬草が拾える地点まで“しいな”が歩く。
今日は薬草を早く集めて、グレーボア以外のMobを見たいかも。この辺りの平均レベルを把握したい。
“しいな”の足が止まった。カメラを動かして薬草を探す。……一個目発見。そのまま歩いて拾いに行く。
簡易レーダーに赤い点が三つ現れた。
興味がわいたので見に行くことにしよう。ノックバック無効バフだけかけて、移動する。
視界の範囲内にウサギが見えた。
ハイイロオオミミウサギ Lv4
ハイイロオオミミウサギ Lv4
ハイイロオオミミウサギ Lv5
灰色の体毛に、大きく垂れた耳が特徴的なウサギが三羽いる。名前の左側にノンアクティブモンスターであることを示す青いマークが付いている。
一昨日のグレーボアより十もレベルが低い。同じマップのはずなのにレベル差が極端だ。
……襲ってこないなら倒さなくてもいいか。かわいいし。
ウサギに背を向けて薬草探しに戻る。
薬草を探しつつ、レーダーに赤い点があればそこへ行き、モンスターを確認してはまた薬草探しに戻る。
そんなことを何度か繰り返して、薬草が五つ集まる頃には、だいたいのMobの情報が集まったと思う。
おそらく、最低レベルは四前後のウサギ。最高はまだわからないけど、一昨日のグレーボアの十四だろうか。
狼や熊も出ると聞いたことがあるから、そいつらが十四を超える可能性は高い。
しかし、“しいな”にとっては脅威ではないな。だって、レベルは百五十近いし。
やはりレベル差と言う名の暴力は偉大だ。
森を出て門に向かう。ちょっと遊びすぎちゃったから早く帰りたい。
門をくぐり、街中を歩いて冒険者ギルドに向かう。お母さんがまだ受付してますように!
「おかえりなさい。早かったですね。」
お母さんまだいた!
隣にバルト——メイベルのお父さん——もいる。
受付のカウンターまで行き、納品アイテムの薬草と依頼書を提出する。
依頼書を確認するお母さんの横からバルトが覗き込んで、薬草のチェックを一緒にしている。
……ドキドキする。
「はい、確認できました。では、報酬をお渡ししますね。」
カウンターの上にお金が出たので、クリックして取得する。
前回同様1500Gを手に入れた。
なんとなく、一礼のモーションを“しいな”にとらせて、ギルドをあとにする。
人けのない場所でログアウトして、急いで家に戻った。
アンネリーゼは今日一日家でだらだらしていましたよアピールだ。
「ただいま〜。アンネリーゼ、いる〜?」
「いるよー!」
「今日もいい子に留守番してた?」
「うん。」
嘘、してない。




