17日 第三インウィディア 〜始まり〜(中)
再び変身——ログイン——して、アイテムインベントリを開く。
見た感じ、持ってるポーションや素材の数も、おそらくサービス終了の時と変化なし。正直覚えていないが、たぶん変化はない。
スキルを選択。試しにノックバック無効を自分に掛けてみた。問題なく発動し、バフアイコンが左上のステータスの下に表示された。残り時間、四分五十五秒。効果時間も一回五分で変化なしだな。
次、モーションテストだ。
試しに礼を選択する。“しいな”が優雅に一礼した。……誰もいない空間で一礼するの、なんかシュールだな。
次から次へとモーションを選択する。
モニターの“しいな”も対応した動きを行う。ちょっと面白い。
……うーん、これ前世で遊んでいたMMORPGそのまんまだわ。いや、自分のキャラクターが出てきた時点で察してはいたけど。
ログアウトして、ベッドに腰掛けて腕を組み考えてみる。
……難しいことはわからないが、わたしはもう一度ゲームで遊べるわけだな?
気が変わった。外に出て、もっと色々試してみよう。
うさぎのぬいぐるみをひと撫でして立ち上がる。
お気に入りのポシェットにハンカチを入れて、出かける準備だ。服は……このままでいいか。
ウキウキした気持ちで家を出る。目指すは人けのない場所。まずそこでログインして、やりたいことを試してみよう。
「あら、アンネリーゼちゃん。お出かけ?」
「マーサさんこんにちは。お散歩です。」
近所に住むマーサおばあちゃんだ。わたしたちちびっ子によくお菓子をくれるいい人だ。媚は売っておいて損はない。笑顔で対応する。
「アンネリーゼちゃんはほんとエレオノーラさまの若い頃に似てるわね〜。将来きっと美人になるわよ〜。」
「ありがとうございます。」
エレオノーラさまが誰かは知らないが、褒められているのには違いない。
クッキーをもらってマーサおばあちゃんと別れた。このクッキーはポシェットにしまってあとで食べよう。
人けのない場所を探してうろうろとさまよっていると、色々な人に声をかけられた。
案外、人けのない場所を探すのって難しいのかもしれない。
歩き回っていつも遊んでいる空き地まで来た。一つ年上の三つ子が遊んでいるらしい声が聞こえる。
「あ! アンネリーゼだ!」
「アンネリーゼ! 遊ぼうよ!」
「泥団子つくろー!」
タロー、ジロー、ミローが喋る。すまないな、わたしは懐かしのゲームで遊びたいんだ。
「今日は忙しいから今度ね。」
「えー!」
「仕方ないなー。」
「じゃあ今度ねー。」
「うん。じゃあね。」
三つ子と別れて再び歩き出す。かくれんぼでよく使う場所なら人目もない気がする。今日はインウィディアの日だから、崖上から魔物の襲来を監視してる人も少ないと思うし。
……うん、ここがいい。せり出した岩の陰になって上から見にくいし、見たところ崖上には巡回の人もいない。
さっそくログインする。視界がブレて、視点が変わる。
何をして遊ぼうか。
……そういえば、MMORPGではプレイヤーは人間に混ざって冒険者として活動しながら、封印から解かれた魔王たちと戦うと言うストーリーだったな。
よし、冒険者ギルドで冒険者登録してみよう。母の職場だから場所は知っている。前に一度、ついて行ったことがある。
それに、母の話だと冒険者になるには身分は問わないらしい。よくわからないけど、派遣に登録するようなものかな?
Wキーを押して移動を開始する。急いでないから徒歩にしよう。
歩く“しいな”の背中を見やる。
視界の範囲内を道行く人々の頭上に、名前が表示されているのに気がついた。人の名前を思い出せない時にほしい能力だ。
……そういえば、HPバーはHPが満タンの時は非表示だったな。
辻ヒールしまくるヒーラーだったから、他の人のHPの減少をついつい見てしまう。死んでも治らないのか、この癖。
てくてく歩いてギルド付近にまで来た。確か特徴的な建物だったはず。
立ち止まって視界を動かす。あ、冒険者ギルドって書いてる建物発見。お邪魔するわよ。
……意気揚々とお邪魔したのはいいものの、登録ってどうやるんだろう。
棒立ちのまま、思わずお母さんを探してしまう。
「……おう、若いの。そんなとこに突っ立ってたら邪魔だ。こっち来な。」
声が聞こえた。スピーカーから聞こえる音声みたいで発生源がわからない。
視線がさまよう。左下を見て気がついた。
【ギルド職員】バルト:おう、若いの
【ギルド職員】バルト:そんなとこに突っ立ってたら邪魔だ
【ギルド職員】バルト:こっち来な
チャット欄に発言者と発言内容が表示されている。
発言者らしい【ギルド職員】バルトを探す。奥のカウンターから“しいな”を見ている男性がそうらしい。やはり、頭上に名前が表示されているのは便利だ。
呼ばれた以上、行かないのも不自然だろう。それに出入り口をふさぐのはよくない。
トコトコ歩いてカウンターまで近寄ると、ため息が聞こえた。
「……はあ。お前さん、ギルドは初めてか?」
【ギルド職員】バルト:はあ
【ギルド職員】バルト:お前さん、ギルドは初めてか?
……この場合どう返すのが一番いいのだろう。とりあえず、エモーションの頷くを使用してみる。
「だろうな。……んで、内容は? 仕事の依頼か?」
【ギルド職員】バルト:だろうな
【ギルド職員】バルト:んで、内容は?
【ギルド職員】バルト:仕事の依頼か?
あかん。依頼者だと思われてる。冒険者登録したいんだけど、チャットで発言したらいけるかな?
冒険者登録しに来ましたと書き込んで、エンターを押す。
「冒険者登録しに来ました」
少年っぽい声が響く。なんか棒読みだけどまあええやろ。
「冒険者登録? ……そうか、名前は?」
しいな:冒険者登録しに来ました
【ギルド職員】バルト:冒険者登録?
【ギルド職員】バルト:そうか、名前は?
しいな:しいな
音声とともに、チャット欄が更新される。
このチャット欄も実際にほしい能力だな。
「待たせたな、できたぞ。ギルド証だ。……失くすなよ、再発行は手間がかかる。」
【ギルド職員】バルト:待たせたな、できたぞ
【ギルド職員】バルト:ギルド証だ
【ギルド職員】バルト:失くすなよ、再発行は手間がかかる
システム:ギルド証を入手しました
差し出されたものを自動で受け取る。アイテムインベントリを開くと見覚えのないアイテムがあったので、カーソルを合わせて説明文を読む。
ギルド証
冒険者ギルドから発行された銅製のドッグタグ。
街やダンジョンへの出入りに使う。
癖のある字で「第四鉱区都市/シーナ」と彫られている。
……とりあえず、これで登録できたのかな? このあとは依頼を受けたらいいのかな? よくわからない。どうしよう。
「ちょっと待て、新人。……ギルドにはルールがある。お前にも教えといてやる。ついて来い。」
カウンターから出てきたバルトがついて来るように言うので後を追う。
よく見たら、友達のメイベルのお父さんだ。
「面倒見がいいねぇ、バルトの旦那。」
「うるせぇ。」
【冒険者】イドル:面倒見がいいねぇ、バルトの旦那
【ギルド職員】バルト:うるせぇ
冒険者のおじさんの名前を初めて把握したかもしれない。ユリスの家の宿屋に宿泊してて、時々お菓子をくれる優しいおじさんとしか認識してなかった。
掲示物がまばらに貼られた板の前でバルトおじさんが立ち止まり、“しいな”を見る。
「依頼はギルドで精査されて、こちらに張り出される。文字は読めるか? 読めなければギルドの奴に頼め。」
チュートリアル助かる。掲示物の貼られた板にカーソルを動かすと、クリックできることを表すアイコンがカーソルの近くに表示された。
クリック。画面中央にポップアップが出た。ここから依頼を受けられるらしい。
「めぼしい依頼はあったか? 受けたい依頼は引っ剥がして受付に持って来な。早いもの勝ちだから文句は言うなよ。」
ポップアップを閉じて、チャット欄にわかりましたと書き込み、エンターを押す。
おじさんは用は済んだとばかりにカウンターの方へ戻って行った。
冒険者のイドルおじさんは“しいな”を気にしてるのか、こっちを見てるのがわかる。“しいな”は背中を向けてるからわからないと思ってるんだろうけど、俯瞰視点だからめちゃくちゃバレてる。
もう一度ポップアップを表示させて、暇つぶしになりそうな依頼を探す。
……薬草探し、これいいな。
子供は入っちゃいけないと口酸っぱく言われてる、街の外の森の中に合法的に遊びに行ける!
依頼を受ける。ポップアップが閉じて、“しいな”が掲示物を取るような動作をする。
……受付まで持って来いって言ったよね?
そのまま受付まで移動してバルトをカーソルでクリックすると、なにかを差し出すような動作のあと、画面の右側の今現在受注しているクエスト一覧に『薬草集め 0/5』と出た。
「おう、頑張れよ、新人。」
初クエストだ。




