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MMORPGの後日譚  作者: 志村くるむ
早緑月
1/8

17日 第三インウィディア 〜始まり〜(前)

 目覚めた時から気分は良くなかった。

 夢の中で女神を名乗る不審者に一方的に喋りかけられたせいだ。

 しかも、その不審者は前世でハマっていたMMORPGの進行役の女神にそっくりだったのが余計である。

 女神は言った。

 ――抹殺の使徒よ、目覚めの時である、と。

 使徒ってなんやねん。思わず枕元のうさぎのぬいぐるみを握りしめた。

 このぬいぐるみは、五歳の誕生日プレゼントとして先日両親にもらったものだ。ぬいぐるみに小さな手が埋まる。

 ……そういえば、MMORPGでもプレイヤーキャラクターの設定は、神から遣わされた魔王抹殺の使徒だったな。

 地味に設定を拾ってくるな、夢のくせに。小癪な。

 女神……名前は何だったか。確か、ステータスでFAIに永続バフくれる女神だったはず。

 うさぎを解放してベッドから降りる。

 とりあえず着替えて朝ごはんを食べよう。腹が減っては何とやら、だ。




「おはよう、アンネリーゼ。よく眠れた?」


 笑顔の母に頷いて返事をする。

 よく眠れたが、夢見はよろしくない。

 既に朝ごはんを食べている父が、軽く手を挙げたのを見て同じように手を挙げ返す。

 カチカチのパンに苦戦しているらしい。わたしはヤギ乳にひたして食べることにしよう。牛乳も好きだが、ヤギ乳は慣れるとうまい。


「あなた、今日は何時に帰宅できそう?」

「……うーん、明後日のルクスリアの日までに仕上げないといけない書類があるから少し遅くなるかもしれない。

俺のことは気にせずに、アンネリーゼと先に晩御飯食べててくれ。」

「わかったわ……。無理しないでね。」


 父は今日残業のようだ。領主さまの秘書は忙しいらしい。

 ヤギ乳にひたしたパンを咀嚼する。うーん、日本のふわふわな食パンが恋しい。


「ハンナは今日もギルドで仕事か?」

「ええ、昼過ぎには帰る予定よ。」


 母は冒険者ギルドで週に三回ほど時短パートをしている。仕事の内容は知らないが、冒険者が少ない街なのでそんなに忙しくはないんじゃないかと思う。知らんけど。


「アンネリーゼ、お父さんとお母さんはこの後お仕事しにいくから、一人でお留守番していてね?」

「わかった。お仕事頑張ってね。」

「家の外には出てもいいけど、街の外には出ないようにな?」

「うん。」


 少し柔らかくなったパンを食べながら返事をする。お行儀が悪いが五歳児なんてこんなものだ。

 食べ終わった皿をキッチンに持っていって朝食は終了。お母さんがお皿を持ってきたことを褒めてくれたが、もうわたしは五歳のお姉さんだからな。えっへん。

 ちゃっちゃと用意を終えた父と母を玄関で見送り、わたし一人の時間が到来である。

 さて、どうしようか。印刷技術が発展していないのか、本は貴重で子供が暇をつぶせそうな絵本なんてものはないし、家の中でゴロゴロするのも気分じゃない。

 家の中をウロウロと徘徊する。だからといって外に出るのも気分ではない。

 自分の部屋のベッドに腰掛けて、なんとなく夢のことを思い出す。

 ……ぐってして、バァーっと力を込めたら使徒に変身できるらしい。暇をつぶすにはいいかもしれない。


 …………。

 ……視界がぶれた。

 視点がおかしい。斜め上から見下ろしているような視点だ。中央に黒いなにかが見える。

 既視感を覚えながら、左上を見る。


 しいな Lv148

 ビショップ Lv98


 ……前世で遊んでいたMMORPGやないか。

 異世界転生だけかと思ったが、MMORPGもあるとは。前世のわたしは知らない間にずいぶん徳を積んだらしい。

 感覚があやふやだが、右手でなにかを握っているらしい。動かすと視界にある三角形の矢印が動いた。……マウスカーソルだな。

 右クリックしたままぐるりと動かし、ホイールを回転させる。視界もぐるりと回転して、中央に寄る。

 “しいな”の顔がドアップになった。

 黒い髪に金色の目。前世でこだわり抜いた美少女フェイス。……そういえば、この顔を作るのに時間がかかったなぁ。懐かしい。

 ぐりぐり視界を動かして“しいな”を観察する。服装もサービス終了時に着ていたアバターの黒い燕尾服だ。特殊二次職の【バトラー/メイド】で遊ぶときに好んで着ていたはず。

 ……で、これ、戻れるのか?

 マウスを動かして、メニューを選び、設定を開く。

 ……ログアウトボタンがあった。

 これで戻れるのかもわからないが、試す価値はある。

 ログアウトボタンを押す。

 視界がぶれて、気がつけばベッドの上だった。

 ……どうやら戻れるらしい。ならば問題はなさそうだ。

 暇つぶしには丁度いい。

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