転生したら王妃だったけど娘の様子が何だかおかしい
私が転生したのに気づいたのは、娘が呪われたその瞬間だった。
衝撃が強すぎたのかスコーンと思い出したのだ。
赤ちゃんに祝福を授ける魔女達。
その祝宴に呼ばれなかった13番目の魔女。
「王女に死の祝福を。15歳になると、紡ぎ車の錘が指に刺さって死ぬ。美しいまま死ねるのだから感謝するがいい」
お前何言ってんの?
感謝するわけないだろぉ!?
はっ倒したくなったけれど、一番悪いのは横で怒っている国王だ。
お前が仲間外れにするから!
12枚しか無いんだったら13枚目を用意しろや!
そう思ったけど、もう遅い。
でも大丈夫、一応保険はあるからね。
祝福を与えていなかった12番目の魔女が「死の呪い」を「眠りの呪い」にまで格下げしてくれた。
この後国王は国中の紡ぎ車を焼き捨てる命令を出すが、それはいい。
地雷のように国中に呪いの道具が散らばってるよりはね。
でも城の棟の最上階であの魔女が老婆に変身して娘を待っているのも知っている。
だから、私は必死で娘を教育する事にした。
「分かりましたわお母様」
娘のターリアは美しく聡明で優しくて、もう天使。
めっちゃ天使。
小さい頃から言いつけをよく守って、城の者達だけでなく国民達からも愛された。
姫が死ぬくらいなら紡ぎ車なんてなくても良いよなってなるくらい。
でも、15歳になるその日、ターリアが改まって私の前に来た。
「お母様。今日が運命の日でございます」
「ええ、そうね」
今日これから、まさにターリアは15歳になってしまう。
でも大丈夫、きっとあの場所に行かなければ。
けれど、娘はキリッとした顔で言い放った。
「ケジメをつけに参りますわ」
「え?ケ、ケジメ……?」
そんな言葉教えたかしら?
ヤクザ映画か何かよね?それ……。
っていうか直接対決は危険じゃない!
「だめよ!だめだめ!そんな事をしたら危ないわ!」
「でも、謝罪は必要ですし、わたくしも魔女様に申し上げたい事があるのです」
「あら……そうなの?じゃあわたくしも行くわ」
幼い頃からやれ15歳で死ぬの眠るのと言い続けてきたのだから、そりゃ思うところはあるわよね。
物語の眠り姫のようにお花畑でもなければ。
だいたい、それなあに?と聞くのが間違ってる。
私は図解付きでちゃんと説明したわ。
じゃないと間違って近寄ってしまうかもしれないじゃない。
騎士と侍女もつれて割と大人数で、わさわさと古い尖塔に上る。
石畳の階段は急で怖いし、上りにくい。
15歳の姫がそんな場所に上るって、そもそも無理が無い??
冬山に綺麗な花取りに行くわ!くらいの無茶ぶりでしょ。
ひいひい言いながら、重い衣装を引きずって登っていくと、古びた扉がある。
「行きますわよ?お母さま」
「え、ええ……」
目が据わった娘に私はぎこちなく頷いた。
逆らえない雰囲気がある。
これが女主人公パワーかしら。
「お初にお目にかかります、魔女様」
いきなりぶっこんだ娘に私は目玉が飛び出そうになる。
魔女だってびっくりとしていた。
「え?わ、私は魔女では…」
「いいえ、存じ上げております。まずは我が父が行った非礼について深くお詫び申し上げます」
ターリアは美しい淑女の礼を執り、更に三つ指をついて頭を下げた。
え?何その土下座。
私、断じて教えてない!
ほら、魔女だって驚いているじゃないの!
でも、娘だけに謝らせるなんて良くない。
私も同じく頭を深く下げた。
「その節は大変失礼いたしました」
本当はこちらにも言い分はあるけどね?
だって評判の悪い魔女を呼びたくないとか、魔法の贈り物が変な魔法だったら困るし……とか思わないでもなかった。
でもそんな事をここでいえば「お前反省してないよね?」ってなってしまう。
思うところがあったにしても、非礼は非礼。
謝罪だけを口にするしかないのだ。
流石に土下座まではしないけれど、腰を折っての最敬礼なので王妃としては最上級の謝罪。
だから魔女も押し殺した声で呻く。
「うむぅ……」
魔女は悪い魔女と聞いていたけれど、苦虫を嚙み潰したような顔で、娘と私を交互に見る。
どうしたらいいのか分からないのだろう。
「つきましては、この件は当事者同士の話し合いが必要だと思われますので、是非謁見の間までいらしてください」
「そんな事を言って、私を捕まえるつもりだろう!」
わあ、悪役っぽい。
思わず私は微笑んでしまった。
だが、娘は真剣な顔で言う。
「わたくしは礼を尽くして貴女に親の罪を詫びました。もし、貴方を害する心算ならわざわざ謁見の間まで連れて行かずに此処で殺しておりますが」
「うっ」
「うっ」
魔女と被ってしまった。
確かにそうかもしれないけど、娘ェ……。
間抜けな声を発した者同士、魔女と共感を覚えてしまい、向こうが視線を送って来たので私は頷く。
「参りましょう、魔女様。ここまで登ってくるのもさぞお疲れだったでしょう。飲み物と茶菓も用意させますわ」
私の言葉に、大きく溜息をついて、魔女は私達と共に階段を下りていく。
魔女と娘を先に下りさせて、私は騎士に命じた。
「一応その紡ぎ車も運んで頂戴」
「はっ!」
騎士は素直に従った。
まかり間違っても転がり落としたり転がり落ちてうっかり娘に錘が刺さるという事がないように、時間を置いて下りてくるように指示をして、私も二人の後に続く。
そして謁見の間には、眉を顰めた我が夫もいた。
国王である。
「魔女め……」
怒りを募らせた国王に、姫が冷たい視線を向けた。
愛娘の氷点下の視線に、思わず国王も二度見する。
「お父様、魔女様に謝罪なさってください。わたくしが死の呪いをかけられたのはお父様の責任ですわ」
「誰がそんな事を……!」
「お母様ですわ」
ええ、言いました。
だって、そうだもん。
私悪くないもん。
本当の事だもん。
「わたくしとターリアは魔女様に謝罪しましたわよ。陛下もどうぞ謝罪なさって」
「王が魔女如きに頭を下げられるか!」
あーそんな事言っちゃう?
そういうとこだよ?
だから娘が呪われたんじゃない。
あの後からもう祝福自体廃止せざるを得なかったんじゃない。
おかげで他の子は祝福うけてないわよ。
この糞野郎が。
「ところで魔女様、わたくしはこの傲慢かつ狭量な父による罪を負わされましたけど、何故その呪いを父に与えなかったのですか?何故罪も無い無垢な赤子であったわたくしに?」
そう言われて魔女は痛い所をつかれたようで、目を泳がせながら言う。
「そりゃあ、あんたの祝いの席だったからねえ。親の因果が子に報いるともいうし」
「ええ、それは知っていますが、今からでも変更してくださいませ」
「へ、変更!?」
親に死の呪いをかけろと言ってるのか!?と魔女は驚嘆する。
まあ、私はどっちでもいいけど。
「でも殺せと言っている訳ではありません。出来ればあの頭を彩るふさふさの毛の根っこ……毛根を根絶やしにするのはどうでしょう」
「おい待てェ!」
国王が慌てて冠ごと頭を押さえる。
そんな事をしても無駄なのに。
ていうか、髪の毛大事なんだ、ふうん。
「じゃあほら、謝罪、なさったら?」
私はひらひらと手を振りながら言った。
思わず半笑いになってしまうのは仕方が無いと思う。
だってねえ。
人々の生活も顧みずに紡ぎ車を燃やしたのはまだ分かるわよ?
娘の為だって。
だから今も、頭を下げる機会があって、娘の命が脅かされずに済むかもしれないなら普通謝罪くらいするでしょ。
変なプライドで頭を下げないなんてどういうこと?
何?娘の命より長い友達の方を優先するってわけ?
「どうやらお父様は謝罪なさらないみたいなので、どうぞハゲ散らかさせてくださいまし」
「そうしようかのう」
「ま、待て、……謝ればいいのだろう」
そんなに髪が大事か。
娘の命よりふさふさでいたいのか、貴様は。
この場に立ち会っている他の妹王女や弟王子の顔からも何とも言えない父への軽蔑が見て取れる。
「非礼を詫びよう。…ほらこれでいいだろう」
そんなぞんざいな謝罪ってある?
「あなた、本当に悪いと思ってないでしょう?」
「当たり前だ、この女は悪しき魔女だぞ!」
謝罪したその口で指をさして言っちゃった。
あーあ。
「さ、魔女様、誰が悪人かもうお分かりでしょう?」
「うむ」
魔女も頷いた。
良かったわー。
これで娘の呪いが解けるなら安いもんだわー。
娘はすっと父親の背後に立った。
「ん?ん?」
娘と魔女を見比べる国王の前に、私は運ばせてきた紡ぎ車を置かせる。
「な、何だ!?全部焼き払ったのではないのか!?」
怯えた様に言う国王に、魔女はニヤリと笑いかけた。
「私が隠しておいたんだよ」
「何と姑息な!」
だが、娘が立ち上がった国王の背後の玉座に上ると、国王にヘッドロックをかました。
魔女が連携するように紡ぎ車に向かってなにやら魔法をかけている。
「や、やめろ!」
「貴方達も手伝いなさい」
「はい!」
娘の号令に騎士達もわらわらと駆け寄って、国王を押さえ込む。
おい!とかやめろ!と言うけど、姫の方が愛され度高いので。
「さーあとはこの錘でちくっとさすだけじゃ」
「では僭越ながら……」
私は慎重に糸車から錘を取り外した。
「フフフ。身から出た錆ですわよ、あなた」
「お前に人の心は無いのかッッ!」
「母は子供の為になら鬼にでも蛇にでもなるものですよ。さ、遠慮なくハゲ散らかしなさいませ」
「アッーーーー!!!」
ぷつり、と皮膚に刺さる感触がしたら、国王の冠の下の頭が光り輝いた。
と共に、ファサァと髪が散らばる。
でも全部ではなくて、頭頂部からまばらに髪の毛が散ったのだ。
「あら、魔女様、これはどういう?」
「ああ、12番目の魔女の魔法の影響さね。あれは私の魔法を薄めるために100年の期限を作っただろう。だから10年かけてハゲていくよ」
なるほど。
時間差ハゲか。
時差ハゲでもいいけど。
「ちゃんと謝罪なさらなかったお父様の自業自得でしてよ」
ヘッドロックを解いた姫が、土足のまま上がった玉座からぴょんと身軽に飛び降りた。
見事なヘッドロックだったわね。
そう誉めようとしたが、国王を見れば真っ赤な顔でプルプル震えている。
「処刑だ!魔女もお前達も!」
「え?そのハゲ散らかした頭でございますか?」
娘が氷点下の声で言う。
えぐい!
えぐいけど、その返しは汎用性があるわね。
「あらあなた、冠を被れば頭頂部は隠せるわ。今度から王冠ではなくてハゲ隠しと呼ぼうかしら」
「まあ素敵ですわ、お母様」
かろうじて金髪だから、金のハゲ隠しを被れば、まあ頭頂部の反射なのか金の反射なのかも分かりにくいし。
バルコニーから手を振るくらいなら国民達からも分からないだろう。
国王もはたと気づいて、問いかける。
「隠れるか……?」
「ええまあ。今のところは隠せますわね。誰か鏡を持ってきて頂戴」
騎士が持ってきたちょっと埃を被った大きな鏡を向けると、国王は必死でポーズを取っている。
まあ幾らポーズを取ろうとも無くなった髪が生えてくる訳じゃない。
そして恐る恐るハゲ隠しを上に上げて、現実と向き合う事にしたらしい。
まだらハゲになった地肌とご対面である。
「……う、ううっ………」
「謝罪をすれば良かったのですよ」
私は棒読みで国王に言う。
実際謝ったところで、多分無理だった。
だって、娘は自分の呪いを何とかしたかったし、わたしも娘の命が助かるなら夫も夫の兄弟もまた従兄弟にいたるまで全員ハゲにしたって構わない。
そもそもこういう傲慢な人だから、呪われるんだしね。
「ところでこの鏡何だか、魔法の鏡っぽいわね」
ちょっと装飾が豪華だし、と思って指でつつくとぶわん!と顔が現れた。
「えっ?」
ちょっと待ってこれ眠り姫の世界でしょ?
なのになんで白雪姫のアイテムが出てくるの?
私は試しに聞いてみた。
「世界で一番のハゲは誰?」
「回答に少々時間がかかります」
検索中なのね、と私は頭の中にぐるぐる回る光の輪っかを思い浮かべた。
「ハゲている者が沢山居すぎて、何をもって順位を付ければ良いのか分かりません」
「そう。では、こちらにいる国王は何番目位にハゲているかしら?」
「王妃様、このお方はハゲているのではありません」
魔法の鏡が反論した……だと!?
国王の目がキラリと光る。
「『世界で最も、これ以上の領土(毛髪)喪失を断固拒否している防衛戦の第一位』ございます。他者は皆、潔く全滅(完ハゲ)の道を辿りますが、王様だけは崖っぷちで踏み止まる執念において、誰にも負けておりません」
「な、何と……」
この鏡、処世術を弁えているわね!?
国王は涙を流しながら、魔法の鏡を抱きしめた。
そして重々しく宣言する。
「本日よりこの鏡を国宝とし、私の部屋に置く事とする」
言葉自体はまあ国王としてカッコいいけど、魔法の鏡に慰められて国宝にするってどうなの。
でも、それくらいならいいか。
心の均衡を倉庫から出してきたっぽい魔法の鏡が保ってくれるのならコスパいいしね。
娘も、魔女も生温かい目で魔法の鏡を大事に部屋に持ち帰るハゲ散らかした国王の後ろ姿を見送った。
「あらいけない。お茶とお菓子を運んで頂戴。さあさあ魔女様、ターリア、一緒にお茶を楽しみましょう」
その後毎朝、国王はかかさずに魔法の鏡に話しかけている。
「いいえ、王様。本日もまた、世界で最も『現状維持』に成功している勇者でございます」
魔法の鏡の朗々とした声が響いてくるので私は知っている。
実際には少しずつ魔女の呪いでハゲていってるけど、ハゲ隠しもあるから大丈夫でしょう。
めでたし、めでたし。
魔法の鏡ってAIなんじゃないか疑惑。忖度機能付き。ちなみに多分転生者は他にもいるんじゃないかな?変な童話シリーズにしようかと思います。ハゲハゲ書いてたらハゲの歌ー正式題名「小フーガ ハゲ短調」聞きたくなってきた。
レンチンレシピありがとうございました。まだかに玉にはまったままです。たまごおいしい。




