第1話 「焦げる恋と、魔法の卵焼き」
美咲の部屋に入った瞬間、
鼻の奥をくすぐる、ある意味で懐かしい匂いがした。
――焦げの香り。
「な、夏樹くん……できたよっ!」
キッチンから現れた美咲は、
“それ”を両手でお皿に乗せ、誇らしげに差し出してきた。
黒い。
いや、正確には“黒と黄色がまだら模様で、かろうじて原形を保っている卵焼き”。
俺は悟った。
これは、チャレンジ精神そのものだ。
「すっごく頑張ったんだけどね…火、強めの方が早く焼けるかなって思って……」
あぁ、典型的パターンだ。
火を強くしてはいけない料理ベタ界の“落とし穴”。
「よし、美咲。せっかくだし――一緒に作ろっか。」
「えっ、いいの…? 私の、これ……食べるの、無理だよね?」
「大丈夫。料理は魔法だ。
作り方をちょっと変えるだけで、味も、気分も、全部変わるんだ。」
美咲の顔に、ぱっと花が咲いたように笑顔が広がった。
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◆ドタバタ卵焼きクッキングの始まり
「まずね、美咲。卵は……」
「割るっ!」
勢いよくコンッ――バッシャァ。
半分、キッチン台にかかった。
「あぁぁ!? ご、ごめん、夏樹くん!」
「い、いや……これはこれで、大胆な割り方だね…」
泣きそうな顔の美咲の手を取る。
「大丈夫。料理は失敗してなんぼ。」
「……ほんとに?」
「うん。俺の母さんの卵焼きなんて、毎回“炭化”してたし。」
「えっ……それはそれで、すごいね?」
笑いながら、彼女はもう一度ゆっくり卵を割る。
今度は成功。
「できたっ……!」
「うん、上手。」
少し顔を赤くした美咲は、まるで褒められた子どものように嬉しそうだ。
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◆火加減の魔法
フライパンに油を薄く敷いて、
夏樹が美咲の手を添えて火を調整する。
「卵焼きはね、急いじゃダメなんだ。
弱火でじっくり――これが魔法。」
「弱火……魔法……なるほど……!」
その真剣な顔がかわいくて、思わず笑ってしまう。
卵液を少し流し込み、くるりと巻く。
美咲は目を輝かせる。
「わあ……動いてる……!」
「卵だからね。」
「魔法じゃないの!?」
「……まあ、そういうことにしとこうか。」
二人で笑いあいながら、ゆっくり、ゆっくりと巻いていく。
最後に形を整えた卵焼きは――ふっくら、黄金色に輝いていた。
「え、え、え、すごい……! 私でも、こんなの作れるんだ!」
「うん。二人で作ったからね。」
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◆そして味見
美咲が恐る恐る口に運ぶ。
「……おいしい……! なにこれ……!」
「それはね――」
夏樹は照れたように微笑む。
「誰かと作った味、だよ。」
美咲の顔が真っ赤になる。
焦げた卵焼きから始まる、
小さな魔法の日常――そんな、一日だった。
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③ レシピ:作中で使った簡単卵焼き
★ 夏樹流・ふっくら甘い卵焼き(基本版)
材料(2人分)
卵 3個
砂糖 小さじ2
しょうゆ 小さじ1/2
塩 ひとつまみ
油 少々
作り方
1. 卵をボウルに割り、調味料をすべて入れる。
2. 泡立てないように“軽く混ぜる”のがポイント。
3. フライパンを弱火にし、油を薄く敷く。
4. 卵液の1/3を流し、半熟のうちに手前へ巻く。
5. 巻いた卵を奥に滑らせ、残りの卵液を2回に分けて流しながら繰り返す。
6. 形を整えたら完成。
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★ 美咲でも作れる!ズボラ卵焼き(失敗しない版)
材料(2人分)
卵 2個
白だし 小さじ2(これだけで味が決まる)
砂糖 小さじ1
油 少々
コツはただ一つ
→ 必ず“弱火オンリー”で焼くこと!




