第91話 ラベンダー
応接室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
僕はソファーに体を沈めて天井を見上げた。
先ほど西岡を撃ち殺した時の光景が
僕の脳裏にはっきりと刻み込まれていた。
僕の撃った拳銃の弾は正確に
西岡の眉間を撃ち抜いていた。
西岡は脳髄をまき散らして床に倒れた。
即死だった。
僕は大きく溜息を吐いた。
ふいにドアが開いた。
膝の上にトレイを載せた少女が
慎重に車椅子を操りながら入ってきた。
僕は体を起こして前屈みになった。
そしてテーブルに肘をついて頭を抱えた。
「ハーブティーを淹れてきました」
僕は顔を上げた。
少女がティーカップをテーブルに並べた。
どうやら彼女はわざわざ厨房で
紅茶を淹れてきてくれたようだ。
その気遣いに僕は心から感謝した。
まさに堕天使。
いや、これはもはや天使と呼ぶに相応しい。
天使が堕天して探偵となり
ふたたび天に舞い戻った。
と。
そこまで考えたところで
ふいに笑いがこみ上げてきた。
僕はそれを誤魔化すように
カップを手に取って鼻に近づけた。
甘い香りの中にも
土臭さ、
強いて言えば
懐かしい田舎のような匂いを感じた。
僕はそっと口をつけた。
爽やかさの中にも渋みがあり、
それらが混じり合って口の中に広がった。
「ラベンダーの香りは
心を落ち着かせる効果があるそうです」
天使が優しく微笑んだ。
僕はカップをテーブルに置いた。
「ぼ、僕は・・
と、とんでもないことを・・」
そして改めて頭を抱えた。
「・・鈴木さん。
そんなに自分を責めないで下さい。
こんなことを言って
慰めになるかわかりませんが、
西岡さんは明らかに挑発していました。
それに。
鈴木さんが・・
彼を撃たなければ・・。
私達は彼に殺されていたかもしれません。
六条さんのように・・」
「えっ・・?」
僕は思わず顔を上げた。
「よく考えてください。
西岡さんは私と同じ
『六条犯人説』に辿り着いていました。
だからこそ【犯人】である六条さんを殺した。
にもかかわらず。
私達の前では
なぜか『犯人不在説』を披露しました。
どうしてでしょうか?」
僕は首を傾げた。
「あの人は【犯人】はいないと
私達を油断させておいて
皆殺しにするつもりだったのでは
ないでしょうか」
「な、何だって!」
「覚えていますか?
西岡さんの発言を。
『【市民】が【市民】を殺すことだってある』
あの人はそう仰っていました」
「西岡くんが報酬のために・・
僕達全員を殺そうとしたと?」
「西岡さんは否定していましたが
その素性は『少年A』で間違いないはずです。
人の本質は変わりません。
それが異常者なら猶更のことです。
こういう言い方をするのは
良くないかもしれませんが、
あの人は・・
死んで当然の人間だったのです」
天使の潤んだ瞳が僕を真っ直ぐに見つめていた。
甘い香りが周囲を包み込んでいた。




