第88話 子羊の群れと牙を生やした狼
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「・・騙されるなよ、お嬢ちゃん」
静かな室内に西岡の声が響いた。
「あのおばさんを殺したのは俺じゃない。
・・それに。
今のお嬢ちゃんの推理を聞いた限り、
すべての元凶は郷田を殺した奴だ。
違うか?」
西岡は包丁を僕に向けたままそう言った。
「元凶・・ですか?」
千雪の表情が僅かに曇った。
「そう。
俺の推理にしても。
お嬢ちゃんの推理にしても。
郷田の死体がなければ
その後の悲劇は起こらなかった。
そうだろ?」
「何が・・仰りたいのですか?」
「そのままの意味だ。
誰が郷田を殺したのか?
名探偵のお嬢ちゃんには
当然、その見当が付いているんだろうな?」
「そ、それは・・」
千雪が眉をひそめた。
「くっくっく。
良いことを教えてやろう。
郷田はゲームが始まる前に
すでに殺されていたんだ。
まだゲームの存在すら
公表されていない段階で
郷田を殺した人間がいるんだよ」
そう言いながら
西岡は包丁をカウンターに置いた。
そして僕の方を見てニヤリと口元を歪めた。
「ま、まさか・・そ、そんなことが!」
千雪の表情には明らかに驚きが広がっていた。
「そいつは単なる殺人狂。
サイコパスだ」
西岡は2本目のジンジャーエールを飲み干した。
僕はショットグラスにテキーラを注いで
一気に流し込んだ。
喉が焼けるように痺れて僕は軽く咳込んだ。
すぐにミネラルウォーターのボトルを開けて
直接口をつけた。
「子羊の群れに一匹だけ、
牙を生やした狼が紛れ込んでいたのさ」
西岡が「くっくっく」と笑った。




