第87話 少年A
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「・・西岡さん。
貴方に支給されたパスポートのことは
鈴木さんに聞きました」
千雪が静かに続けた。
「今ここで俺の素性は関係ないだろ?」
西岡が僕の方をチラリと見て
「チッ」と舌打ちをした。
「それはどうだろうね?
素性を明かせない人間の言葉は
にわかには信じられないな」
そして僕はグラスにミネラルウォーターを注いで
ゴクゴクゴクと飲んだ。
やけに喉が渇いていた。
「9年前。
稲置市の小学生5人が殺傷され
2人が死亡、
3人が重軽傷を負った事件がありました。
犯人は近くに住む
中学3年生の男子生徒でした。
彼は医療少年院に送致されましたが、
僅か8年で退院し社会復帰しました」
千雪は原稿を読むアナウンサーのように
淡々と冷静かつ事務的に話していた。
それがこの場の雰囲気に似つかわしくなく
僕は微かに戸惑った。
西岡を見ると
その表情には微かに困惑の色が浮かんでいた。
「当時『少年A』の顔写真が
とある週刊誌に掲載され、
瞬く間にネットで拡散されました。
今の貴方の目・・。
あの時の顔写真の少年にそっくりです。
その前髪はその目を隠すために
わざと伸ばしているんですか?」
千雪はグラスに口をつけて
カルーア・ミルクをこくこくと飲んだ。
それから「ふぅ」と小さく息を吐いた。
「もう一度聞きます。
六条さんを殺したのは・・貴方ですね?」




