第82話 疑心暗鬼と群集心理
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「くっくっく」
突然、西岡が笑い出した。
「残念ながら。
あんたの考えていることは見当違いだ」
「何・・だって?」
「あんたは俺とお嬢ちゃんのどちらかが
【犯人】と考えているんだろ?
だがそれは見当違いだ。
俺達はまんまと騙されていたのさ」
西岡がふたたび「くっくっく」と笑った。
「だ、誰に。
な、何を・・。
騙されていたと言うんですか?」
千雪が震える声で西岡に疑問を投げかけた。
西岡は大きく溜息を吐き出した。
「いいか、お嬢ちゃん。
このゲームには元々、
【犯人】なんて存在してないんだ」
そして西岡はジンジャーエールの瓶に
口をつけてゴクゴクゴクと飲み干した。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「郷田のカードは『クラブの2』だ。
そしてあのおばさんは
『クラブの8』を持っていた」
西岡は空瓶をトンッとカウンターに置いた。
千雪がハッと息を呑んだのがわかった。
「思い出したか?
”すべてのカードの数字は連続している。
同じ役職のカードについても同様である”
それがルールだったよな?
つまり。
【市民】のカードは2から8までの7枚。
そして。
【探偵】の宮崎は『ハートのA』だ」
「【犯人】のカードがない・・」
自然と声が漏れた。
「わかったか?
俺達は存在しない【犯人】を
追いかけていたというわけだ」
【犯人】はいない。
もしそれが本当なら・・。
「恐らく主催者は
疑心暗鬼に陥った人間の行動を
観察するために
この舞台を用意したんじゃないのか?
つまり。
俺達は実験動物だったわけだ。
実際。
ルールには
【市民】を煽るようなモノが多かった。
覚えてるか?
市民が全員生存の場合、報酬はなし。
つまり。
最低でも1人は死者が出るように
【市民】の目の前には
人参がぶら下げられていたんだ。
1人が死ねば後はドミノ倒しのように
不審と不信が連鎖する。
1人の行動が恐怖を煽り、
それが少しずつ他人を侵食していく。
愚かな群集心理というわけだ」
そして西岡は大袈裟に前髪をかきあげた。
その仕草が鎌を振り上げた死神に見えて、
僕は思わず身震いした。




