第68話 フラワームーン
夜空には満月が浮かんでいた。
5月に観測される満月のことを
『フラワームーン』と呼ぶのは
どこかの先住民の風習らしい。
月明かりの下、
僕達は無機質なコンクリートの
立方体の前に立っていた。
目の前には頑丈な鉄製の扉があった。
一度建物の周りをぐるりと回ってみたが、
壁のどこにも中を覗けるような窓はなかった。
宮崎が鍵穴に鍵を差し込むと
カチリという音がして扉が開かれた。
「ほぅ。
牢屋っていうから
もっと陰湿な部屋かと思っていたが、
随分と小奇麗じゃないか」
「キュキュキュキュ」
その時、
どこからともなく
鳥の啼き声が聞こえてきた。
「はぁ・・」
背後で菅野が溜息を吐いた。
僕はそっと振り向いた。
菅野の表情にはやや疲れが見えた。
明け方の娼婦。
そんな言葉が自然と頭に浮かんだ。
彼女は遊戯室を出てから
一言も口を開いていなかった。
そのことが若干の不安要素でもあった。
投票の結果、
菅野の投獄が決まった。
彼女の投獄に反対の意思を示したのは
僕1人だった。
西岡が宮崎の推理に
賛同したことも意外だったが、
それ以上に予想外だったのは、
千雪までもが投獄に賛成したことだった。
【犯人】は郷田。
そう推理していた彼女が
なぜ宮崎の意見に賛同したのか。
「・・さてと。
お年を召したお嬢さん。
こちらが新しいお部屋となっております」
宮崎が扉の前でおどけた。
菅野はそれに対して何の反応も示さず、
静かに扉の方へ歩き出した。
「心配するな。
ゲームが終わるまでの我慢だ」
そう言って宮崎は「わっはっは」と笑った。
次の瞬間。
「ぶっぶひっひ・・うぐぅぅぅ」
宮崎の笑い声が乱れた。
そして。
宮崎は背を丸めたまま膝から地面に崩れ落ちた。
老豚がその前足で
大きな腹を必死に押さえていた。
チョロチョロと流れ出る赤黒い液体が
地面を濡らしていた。
ブヒブヒと苦しそうに鳴く老豚を
娼婦が冷めた瞳で見下ろしていた。




