第59話 『クラブの7』
菅野は僕達の方へトントンと歩いてくると
カウンターにポンッと腰を下ろした。
そして千雪のグラスをチラリと確認してから
「ウォッカベースの強いヤツ」
とぶっきらぼうに答えた。
「六条さんは大人しく従いましたか?」
「ええ。
手錠でしっかりベッドに繋いできたわ。
・・それよりも。
懲りずに【犯人】探しをしてたのね?」
「そ、それは・・」
僕は動揺を悟られまいと
菅野から視線をそらした。
「ま、どうでもいいけどね。
グラスを用意したのは
アタシとあのオバサンだけど、
そのグラスに触る機会は誰にでもあったわよ」
菅野の言う通りだった。
それに。
結局は毒の問題に行きつく。
毒の存在を知っていたのは六条だけなのか。
そして。
その毒はどの段階で盗まれたのか。
もしくは盗まれたというのは虚言で
六条が使ったのか・・。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「『モスコミュール』になります」
僕はグラスをそっとカウンターに置いた。
菅野はそれを手に取ると
「乾杯っ」
と満面の笑みで掲げた。
そのあまりにも場違いで明るい振舞いに
僕は一瞬、
今置かれている状況を忘れかけた。
「それより。
あの物騒な物を
いつまであそこに置いておくつもり?」
菅野に言われて
僕はビリヤード台の方へ視線を向けた。
「もしアタシが【犯人】で
さっき部屋に入ってきた時に
アレを手にしてたら
アンタ達、死んでたわよ」
菅野はさらりと恐ろしいことを口にした。
僕は慌ててカウンターを出た。
ビリヤード台の上の鉄の塊を手に取ると
想像していたよりも随分と軽く感じた。
ついでにキッチンバサミも拾って
僕はカウンターに戻った。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
「あの・・」
ふいに千雪が口を開いた。
「機会を失って
なかなか言い出せなかったのですが。
私のカードは『クラブの7』です。
そして私も皆さんと同じように
カードは破棄したので
お見せすることはできませんが・・」
そして少女は唇を固く結んで俯いた。
「なるほどね。
それが本当なら
いよいよ絞られてきたわね。
人の皮を被った狼が」
菅野はそう言ってグラスに口をつけた。
それから突然「あははは」と笑い出した。
その時。
遊戯室のドアが勢いよく開かれた。
そして入ってきたのは宮崎と西岡だった。
「この爺さんが話があるらしいぜ」
西岡が大きく口を開けて欠伸をした。




