第55話 『鈴木太』という人物
「は、は、ははは。
な、何を言ってるんだい?
そもそも『鈴木』の姓は
佐藤に次いで2番目に多い苗字だよ?
それに『太』という名前だって珍しくはない」
そこまで話した時、
僕は自分の声が
微かに震えていることに気付いて、
一度口を閉じた。
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
車椅子の堕天使は僕の作ったカクテルを
ゆっくりと飲むとふたたび微笑んだ。
その瞬間、
僕の脳裏にある疑惑が生まれた。
彼女は本当は歩けるのではないか。
この車椅子は演技ではないか?
もし演技なら・・。
僕は彼女に気付かれないよう
チラリと視線を動かして
ビリヤード台の上の拳銃を確認した。
この位置からあそこまで。
カウンターを回り込んで走った場合、
恐らく僕が勝つ。
・・いや。
そこまで考えて僕は思い直した。
招待客はここへ来て初めて
ゲームについて知らされたのだ。
ならば。
車椅子という演技をする必要はどこにもない。
僕はそっと息を吐き出した。
「・・そうですよね。
そんなわけないですよね。
こんなことになってとても怖くて・・。
ごめんなさい。
変なことを聞いて」
少女が小さく頭を下げた。
「き、気にしなくていいよ。
こんな状況で
冷静でいられる人間なんていないよ。
兎に角。
その『鈴木太』という人物は
僕とは同姓同名の別人だと思うよ」
僕は努めて冷静に返した。
それから空のグラスに
新たなジンジャーエールを
注いでゴクゴクと流し込んだ。
やけに喉が渇いていた。
「そうですね。
それに太さんは私と同い年ですもの」




