第41話 小瓶
遊戯室の柱時計が
コツコツコツと時を刻んでいた。
ビリヤード台の傍で
両足を投げ出して床に尻をついた六条が
壁に背をあずけていた。
その両手には
銀色に輝く手錠が掛けられていた。
西岡に蹴られた所が痛むのか
彼女は頻りに不自由な両手で
頭と左脛を擦っていた。
そんな彼女を
目の前に立った西岡が見下ろしていた。
2人から少し離れて車椅子の佐藤が
心配そうにその様子を窺っていた。
「これ以上何を話す必要があるんだ?
あの女が【犯人】なのは
疑いようがないだろ?
本当、女っていう生き物は恐ろしいな」
宮崎がマティーニのグラスを片手に
隣に座っている菅野にぼやいていた。
「さあ?
坊やにも何か思うところがあるんじゃない?
ま、女が恐ろしい生き物
ってことには賛成だけど」
「しかし。
よくあんなモノを持ってたな?
何者だ、お前さん?」
「うふふ。
女の秘密を探ろうなんて野暮な真似はよして」
僕は2人のやり取りを聞き流しつつ
ビリヤード台の近くの3人に意識を集中させた。
「さてと。
落ち着いたところで
改めて話を聞かせてもらおうか」
西岡が事務的な口調で六条に話しかけていた。
「こ、これ以上・・
な、何を話せと?
わ、わたしはキッチンバサミなんて
盗っていません」
六条が小さな声で
しかしはっきりとした口調で答えた。
先ほどの狂気は完全に鳴りを潜めていた。
次の瞬間。
彼女の表情に恐怖の色が浮かんだのが見えた。
「・・ですが。
クローゼットの中に仕舞っておいた
小瓶がなくなっていました」
そして六条は体をブルっと震わせた。
「小瓶・・だと?
何だそれは!」
西岡が珍しく語気を強めた。
宮崎と菅野が何事かと振り返った。
六条は僅かに顔を強張らせたが、
その表情には恐れではなく、
微かな迷いが見えた。
「・・建物に入る前。
カードを引いた後です。
あの女性の方に渡されました」
「その小瓶の中身は何だ!」
西岡が詰め寄った。
「・・中身は確認してないので。
わかりません・・」
六条が消え入りそうな声で呟いた。
「何だそりゃあ。
その小瓶とキッチンバサミが
何の関係があるだ?
第一、そんな物が無くなったところで
何も問題はないだろうが」
2人のやり取りを聞いていた宮崎が口を挟んだ。
「それは・・。
髑髏マークのラベルの貼られた
遮光性の高い茶色の小瓶でした・・」
六条の声は僅かに震えていた。




